上 下
121 / 427
忘れられない特別な夜

#13

しおりを挟む

……というのも、萩原さんには旅行中の素敵な奥様がいらっしゃて、けれど子供には恵まれず、昔から要さんと弟の隼《はやと》さんのことを自分の子供のように可愛がってくれていて。

昨日、要さんからの予約の電話で、『紹介したい女性がいるんで』なんて、聞かされたものだから、気になって気になってしょうがなかったらしいのだ。

早々に自己紹介をすませて、海を見下ろしながら食事を楽しむことができると人気のレストランの窓際のテーブル席に移動した後。

美味しい海の幸を使ったフレンチを堪能しながら、興奮ぎみに身ぶり手振りで、とても嬉しそうに、電話のことや子供の頃の要さんのことを話してくれる萩原さん。

小さい頃の要さんが色白で可愛いから女の子によく間違われて、そのたびに拗ねていたとか。

三歳の頃に、まだ一歳に満たない赤ちゃんだった隼さんをおんぶしようとして、下敷きになってしまい、周りの大人が青くなったとか……。

そんな感じで、要さんの話題は尽きることなく続いていくから、

「保さん、そんな昔の話はもういいから。勘弁してよ」

と、飽き飽きしたって感じで、気恥ずかしそうに萩原さんに返す要さんの表情は、子供のようで、なんやかんや言いつつも、楽しそうに見える。

そんな二人のやり取りを見ていると、本当の親子のようで、微笑ましくもあり、羨ましくもあり。

けれど、今、この空間で、要さんと一緒に居られることが、何よりも嬉しかった。

……要さんが言ってくれたように、本当に、このままずっと一緒に居られるような、そんな気がした。


♪゜・*:.。. .。.:*・♪


楽しい時間はあっという間に過ぎて、私と要さんは、目の前に広がる海を、まるで独り占めしているような錯覚をしてしまうくらい眺めがいい、バルコニーのある素敵な部屋にいる。

といっても、今は夜だから、雲間に隠れたお月様が気まぐで顔を出す以外は、漆黒の海が広がっているだけなのだけれど。

それがかえって、ロマンチックな静かな夜を演出してくれている。

闇夜に広がる漆黒の海を眺めながらバルコニーに一歩踏み出せば、潮の香りを連れて波を滑ってきた風が、頬や髪をそうっと優しく撫でていく。

穏やかに寄せては返す波が岸壁に打ち返し飛沫をあげる音だけが繰り返し響いている。

そして隣には、当たり前のように要さんがいて、心地いい風にうっとりとした私が要さんの胸にコテンと寄り添うように頭をもたげる。

ーーあー、なんて幸せな時間なんだろう。

要さんの隣で、ロマンチックな静かな夜に、ひとり酔いしれてしまっていた私は、

「美菜」

「……あっ、はい!」

要さんに呼ばれて、お花畑から現実の世界へと引き戻された。

そんな私の声は、ロマンチックな静かな夜にはおおよそ似つかわしくないものだったけれど、それには理由があった。

……言い訳に聞こえるかもしれないけれど。

つい数十分前までは、あんなに楽しそうに萩原さんとお喋りしてたというのに、部屋に入ってくる前からどことなく元気がなくて、口数も少なくなってしまってた要さん。

私と一緒で寝不足だったのに、何時間も運転してくれてたから疲れたんだろうと思い、できるだけ話しかけないようにしていたのだ。

けれど、そんな様子だった要さんには、私と同じように、ある理由があったらしい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜

羽村美海
恋愛
 古式ゆかしき華道の家元のお嬢様である美桜は、ある事情から、家をもりたてる駒となれるよう厳しく育てられてきた。  とうとうその日を迎え、見合いのため格式高い高級料亭の一室に赴いていた美桜は貞操の危機に見舞われる。  そこに現れた男により救われた美桜だったが、それがきっかけで思いがけない展開にーー  住む世界が違い、交わることのなかったはずの尊の不器用な優しさに触れ惹かれていく美桜の行き着く先は……? ✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦ ✧天澤美桜•20歳✧ 古式ゆかしき華道の家元の世間知らずな鳥籠のお嬢様 ✧九條 尊•30歳✧ 誰もが知るIT企業の経営者だが、実は裏社会の皇帝として畏れられている日本最大の極道組織泣く子も黙る極心会の若頭 ✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦ *西雲ササメ様より素敵な表紙をご提供頂きました✨ ※TL小説です。設定上強引な展開もあるので閲覧にはご注意ください。 ※設定や登場する人物、団体、グループの名称等全てフィクションです。 ※随時概要含め本文の改稿や修正等をしています。 ✧ ✧連載期間22.4.29〜22.7.7 ✧ ✧22.3.14 エブリスタ様にて先行公開✧ 【第15回らぶドロップス恋愛小説コンテスト一次選考通過作品です。コンテストの結果が出たので再公開しました。※エブリスタ様限定でヤス視点のSS公開中】

最後の恋って、なに?~Happy wedding?~

氷萌
恋愛
彼との未来を本気で考えていた――― ブライダルプランナーとして日々仕事に追われていた“棗 瑠歌”は、2年という年月を共に過ごしてきた相手“鷹松 凪”から、ある日突然フラれてしまう。 それは同棲の話が出ていた矢先だった。 凪が傍にいて当たり前の生活になっていた結果、結婚の機を完全に逃してしまい更に彼は、同じ職場の年下と付き合った事を知りショックと動揺が大きくなった。 ヤケ酒に1人酔い潰れていたところ、偶然居合わせた上司で支配人“桐葉李月”に介抱されるのだが。 実は彼、厄介な事に大の女嫌いで―― 元彼を忘れたいアラサー女と、女嫌いを克服したい35歳の拗らせ男が織りなす、恋か戦いの物語―――――――

ハメられ婚〜最低な元彼とでき婚しますか?〜

鳴宮鶉子
恋愛
久しぶりに会った元彼のアイツと一夜の過ちで赤ちゃんができてしまった。どうしよう……。

恋に異例はつきもので ~会社一の鬼部長は初心でキュートな部下を溺愛したい~

泉南佳那
恋愛
「よっしゃー」が口癖の 元気いっぱい営業部員、辻本花梨27歳  ×  敏腕だけど冷徹と噂されている 俺様部長 木沢彰吾34歳  ある朝、花梨が出社すると  異動の辞令が張り出されていた。  異動先は木沢部長率いる 〝ブランディング戦略部〟    なんでこんな時期に……  あまりの〝異例〟の辞令に  戸惑いを隠せない花梨。  しかも、担当するように言われた会社はなんと、元カレが社長を務める玩具会社だった!  花梨の前途多難な日々が、今始まる…… *** 元気いっぱい、はりきりガール花梨と ツンデレ部長木沢の年の差超パワフル・ラブ・ストーリーです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

家族愛しか向けてくれない初恋の人と同棲します

佐倉響
恋愛
住んでいるアパートが取り壊されることになるが、なかなか次のアパートが見つからない琴子。 何気なく高校まで住んでいた場所に足を運ぶと、初恋の樹にばったりと出会ってしまう。 十年ぶりに会話することになりアパートのことを話すと「私の家に住まないか」と言われる。 未だ妹のように思われていることにチクチクと苦しみつつも、身内が一人もいない上にやつれている樹を放っておけない琴子は同棲することになった。

処理中です...