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忘れられない特別な夜
#10
しおりを挟むそんな天にも昇っちゃいそうな夢心地だったから、失敗もしちゃったりして……。
一つは、お洒落なカフェでデザートを食べていたとき、スプーンですくったアイスを服に落としちゃって。しかもチョコレート。
最近、要さんと夏目さんが用事で出掛けた日があって、久々に買い物に出掛けた私が一目惚れして買ったばかりだっのに。
白地に淡い水色のストライプのワンピースだから、目立ってしょうがない。
いつか要さんとこんな風にデートする日がくるかもと思い、そのために買ったものだったから、余計にショックだった。
それで、思わず、
「あーぁ、子供の頃は新しい服を着たときには必ずこんな風に汚しちゃったけど、まさか大人になってからもやっちゃうとは思いませんでした……。恥ずかしいし、ショックだなぁ」
と、呟きをこぼした私に、
「へぇ、美菜はもう大人だったんだなぁ? まだ子供だと思ってたけど」
「…………」
なんて、楽しそうに笑いながら言われてしまい。
いくら学習能力のない私だって、いい加減このやり取りに慣れつつあったけれど……。
余りのショックに、言葉を失ってしまった私のついさっきまで最高潮だった筈のテンションは、駄々下がりだった。
そんな訳で、要さんの言葉でドン底に突き落とされていじけてしまった私が
『要さんに比べたら、私なんて子供ですヨーダ! 』
と心の中でブーたれつつ、ナフキンで落ちたアイスを拭っていると……。
いつもの如く、焦った様子の要さんがテーブルの向かいから顔をスーッと私の方へ寄せてきて、頭《こうべ》を垂れつつ、
「ご……ごめん。美菜のそいうところも可愛くて……つい。似た服買ってやるからそんな怒るなよ、頼む。な?」
なんて孟反省した様子で言ってきたけど。
そんなこと言われたら、腹が立つというよりは、申し訳ない気持ちの方が勝ってしまう。
……というのも、払って貰った奨学金のことだって、『少しずつ返す』といっても、『一度出したものを今さら貰えない』と取り合って貰えずじまいだし。
明日の着替えうんぬんだって、このあと、要さんが買ってくれる予定だから、そこまで甘えるのは気が引ける訳で。
だから、そんな想いも含めて、
「そ、そんなのダメです!」
バッと顔を上げた私が勢い任せにそう言ったらば……。
「どうしてダメなんだ? 俺が買いたいから買うと言ってるんだ。いいだろ?」
今度は強気な態度に出てきた要さん。
「いやいや、だって、いつもしてもらってばかりは嫌です」
「……俺はいつだって美菜のために何かしたいと思ってるのに、そんな風に言われたら何もできないし、寂しいだろ?」
さっき、私に子供だとか言ってたクセに……。
とうとう、拗ねた子供のような口調で訴えるように言ってきた要さんに、なんだか言い合っているのがバカバカしくなってきた。
だって、仕事のときはいつもスーツをパリッと着こなしてて、本当に素敵な大人の男性って感じで、私なんていまだに見惚れちゃうぐらいなのに。
二人だと、今みたいに拗ねたりムキになったりする子供っぽい要さんも、可愛くて、堪らなく愛おしい。
今日だって、今みたいに何かあるたびに、『こういう要さんも、好きだなぁ』って、何度思ったか分からない。
だから結局は、要さんのお望み通り、アイボリーの素敵なワンピースを買って貰うことになったのだった。
そして、私が二つめの失敗をやらかしてしまったのは……。
なんやかんやありつつも、絶賛バカップルまっしぐらな私たちが、ショッピングも無事済ませて。
なにやら腕時計を急に気にしだした要さんに、
『そろそろ行こうか?』とエスコートされて。
再び要さんの運転する車に揺られて、おおよそ一時間ほど経った頃だろうか。
首都高から東名高速を経由して、葉山の海岸線を走っていた時のことだった。
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