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忘れられない特別な夜
#2
しおりを挟む要さんの綺麗なお顔と真正面から、しかも息のかかるほどの至近距離からご対面させられて。
寝起きだったとはいえ、要さんの胸板で頬をスリスリして顔なんて緩みきっていただろうから、さぞかしおバカ丸出しのマヌケ面だったに違いないから、恥ずかしくて仕方ないというのに……。
それでも、要さんの反応を確かめたいという怖いもの見たさにも似た心理も働いて、恐る恐る要さんの綺麗なお顔を見下げてみれば。
絶賛羞恥に襲われ中の私の心情なんてお構い無しで、いつもキリリとした切れ長の瞳を眩しそうに細めた要さんが、時折見せるあのとびきりの優しい笑顔で、私のことを愛おしそうに見つめていて。
ほんの数秒前まで、あんなに恥ずかしかった筈なのに、要さんのとびきりの笑顔に見惚れてしまった私は、羞恥も身動ぎさえも忘れてただただ要さんのとびきりの笑顔に釘付け状態だ。
そんなどうしようもなく身も心も要さんにメロメロ状態の私に、
「美菜、おはよう。身体、辛くないか?」
そう言って、優しく気遣ってくれる要さんにやっぱり見惚れたままで言葉を返す余裕もまだなくて、ただコクコクと頷くことしかできない私。
そんな私に、
「美菜が眠りにくいかと心配だったが、その様子だと、夢だなんて思わずに済んだようで、何よりだ」
要さんはそう言って、私の顔を自分の右肩に乗っけるようにして抱き寄せると、私の頭を優しく撫でてくれている。
ーー私のためにしてくれたことなんだと分かり、嬉しさで胸が一杯になる。
そんな風に、私が要さんの優しさに感激してしまってたところへ、
「それに、あんなに幸せそうに俺の胸で頬をスリスリする可愛い美菜が見れて、俺も夢じゃないんだって思うことができたしなぁ」
さっきまでの優しい声とは違った、どこまでも楽しそうな声の要さんに、そんなことを言われてしまった私は、またもや頭のてっぺんから爪先までを真っ赤にさせられてしまうのだった。
こうして、幸せな朝を迎えることができた私と要さんは、お昼過ぎまでゆっくりと寝室のベッドで過ごして。
どうやら気を利かせてくれたらしい夏目さんは、朝から出掛けていて。要さん曰く、前々から予定があったらしいけれど。
ーーあの夏目さんのことだから、絶対、そうじゃないと思う。
だって、退院した私が要さんに『好きです』と伝えた次の日に、夏目さんと仲直りした時だって、
『美菜ちゃんはなんでも顔に出るからすぐに分かった。
どうせ、入院中に要が付きっきりで傍に居たから勢いで告っちゃったんだろう』とか言われちゃったし。
ーーてことは、この数日間のことは勿論、昨夜のことも・・・?
ーーあーもー、恥ずかしすぎる。
思えば、副社長である要さんと契約を交わしたあの夜から、夏目さんには恥ずかしい場面を色々見聞きされているとはいえ、やっぱり恥ずかしいものは恥ずかしい。
夏目さんが用意して行ってくれた昼食を暖め直して、要さんと一緒にテーブルに運びながら、そんなことを考えては百面相を繰り広げていたのだろう私は、
「俺と居るのに、まさか、夏目のことを考えてるんじゃないだろうな? だとしたら、お仕置きしないとなぁ……。で、どうなんだ?」
「////」
さっきまでご機嫌だった筈なのに、いつのまにやらご機嫌斜めになってしまってる要さんの不機嫌マックスの低い声で言葉が放たれた後。
長身を屈めて、私の顔の至近距離まで迫ってきた要さんの舌先によって、私の唇がペロリと舐められてしまって。
私はお約束のように、これ以上にないってくらいに真っ赤にさせられてしまい。
夏目さんにも言われた通り、私はなんでもかんでも顔に出てしまうと言うことを、イヤというほど思い知らされることとなったのだった。
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