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甘くて苦いビターチョコのように

♯3

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暫くすると、限界に達しそうになった私の身体のバランスが崩れて、副社長の身体にしなだれそうになってしまい、とっさに目の前の副社長の首にしがみつくしかなかった。

終始、余裕なんかない私とは違って、いつもより意地悪さが増してはいるものの、いつも通り余裕たっぷりに見える副社長。

そんな副社長の様子に、自分との想いの差をまざまざと見せつけられたようで、悔しいやら切ないやら、なんだかいたたまれない気持ちになってきた。

だから、副社長の首にしがみついたままで、

「こんなのやだ。もっと、優しくしてほしい」

そんな我儘な子供みたいなことを言ってしまっていたのだった。

――こんなこと言っちゃって、煩わしいなんて思われちゃったらどうしよう。

――副社長に嫌われちゃったらどうしよう。

今日の私は、言ってしまった後になって、こうやって後悔してばかりだ。

一度吐いてしまった唾は二度と飲み込むことなんてできないというのに……。

それでも、おバカな私の頭の中では、『どうしよう』って言葉ばかりが蠢《うごめ》いていて、そのことばかりに占領されてしまっている。

そんな私の心配をよそに、副社長からは予想だにしなかった言葉が返されるのだった。

「美菜が可愛くて、つい調子に乗ってしまって……悪かった。もう意地悪しないから、俺のことを嫌わないでほしい」

副社長の声は、首にしがみついている私のちょうど耳元の辺りから聞こえてきて。

その声は、さっきまでの意地悪な声とは違い、小さな頼りないものだった。

まるで、小さな子供がお母さんに怒られてしまい、肩を落としてシュンとしているようなそんな声。

いつも自信たっぷりで、余裕綽々しゃくしゃくって感じで、ちょっと傍若無人なところはあるけれど、見かけも中身も欠点なんてどこにもなさそうな完全無欠な副社長らしくないセリフだ。

副社長は、美優さんの身代わりである私に嫌われてしまうのが余程怖いらしい。

やっぱり美優さんと私のことをダブらせているからだろう。

それに、アレのためでもあるんだっけ。

どっちにしても、美優さんが関係してるんだろうけれど。

だとしたら、本当に美優さんの代わりに私のことを一生傍に置くつもりなのかもしれない。

――それでも、傍に居られるんだったらそれでいい。

さっきも、そう思って好きだって気持ちを伝えた筈なのに、副社長のそんな声を聞いた途端、胸が切ない音をたててしまうから、切なくて苦しくて堪らない。

――意地悪されてもいいから、いつもの副社長に戻って欲しい。

――さっきの言葉通り、余計なことを考える暇なんてないくらいに、たっぷりと可愛がって欲しい。

なんてことを思ってしまう私は、もう完全に副社長からは離れることなんてできないんだろうと思う。

不意にそんなことを思ってしまった。

もう好きな想いは伝えちゃったんだし、こうなったら副社長に煮るなり焼くなり好きなようにしてもらうまでだ。

くよくよなんてしている場合じゃない、覚悟なんてもうとっくにできてるんだから……。

そのためには、早く副社長に元気を取り戻してもらわないと。

そう思った私は、副社長の首に絡めた腕を緩めると、

「そんなことで嫌いになんてなりません。もしかして、焦らしてるんですか? 早く可愛がってくれないと、嫌いになっちゃいますよ?」

わざとむくれて口を尖らせると、少し拗ねたような声を放った。
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