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それぞれの思惑~後編~
#3
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「はい。あれからすぐにチョコ貰いに行ったじゃないですか? それからは、普通でした。
それより、私がすぐ動けなかったせいで、気を遣わせちゃって……。それなのに、嫌な思いさせちゃいましたね? 本当に、すみませんでした」
「ううん、俺は全然平気だから。夏目さん余計怒らしたの俺だしさぁ……。そんなの気にしなくていいから。ほら、元気出してよ、ね?」
「……でも」
「あー、もう、そんな泣きそうな表情《かお》しなくていいからぁ……。はいっ! もうこの話題はなしなし。じゃっ、気を取り直して行きますかぁ?」
「はいっ!」
私のせいで、あんなに嫌な思いをさせてしまったというのに……。
後輩思いで、どこまでも優しい木村先輩は、逆に私のことを気遣ってくれたため、そんな木村先輩のご厚意を無下にもできず。
いつものように接してくれる木村先輩に感謝しつつ、それに倣って元気よく脚を進めたのだった。
***
オフィスを出てから五分ほど歩いたところに、木村先輩一押しの、ゆったりとしたオシャレな空間で、美味しい料理を堪能しながらカラオケを楽しむことができるお店があった。
あらかじめ木村先輩がネットで予約してくれていたため、待たずにすんなりと個室に入ることができて。
現在、歌まで上手な木村先輩の歌声を聴きながら、美味しいデザートを味わっていた。
充分にお腹も満たされて、今度は何を歌おうかなぁ……なんて呑気に考えてた私は、歌い終わって正面のソファに座った木村先輩に、
「ねぇ、美菜ちゃん。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
そう言って声を掛けられた。
さっきまでノリのいい曲に合わせてあんなに楽しそうに歌っていた木村先輩が急に改まって、なにやら深刻そうな表情をしているように見える。
「なんですか? 聞きたいことって」
急に、どうしちゃったんだろうかと、きょとんと首を傾げて訊ねてみると。
「……うん。えぇっと、あのさぁ、美菜ちゃんってさぁ……。ごめん、ちょっと待って」
木村先輩の方から言ってきたはずなのに……。
どういう訳か、言い出しにくいことなのか、言いかけていたにもかかわらず、途中で中断してしまって。
何故か、私の視線から逃げるようにして、飲みかけのウーロン茶の入ったグラスを手に取り、そのまま一気に一滴も残さず煽って飲み干してしまった木村先輩。
そして、空っぽになったグラスをダンッと勢いよくテーブルのコースターの上に戻したことにより、ガシャンッと残された氷がグラスの中で派手な音を響させた。
その様を『おおー、豪快だなぁ』……と見詰めていると……。
「ふう」と息を吐き出した木村先輩の声がようやっと聞こえてきて。
それより、私がすぐ動けなかったせいで、気を遣わせちゃって……。それなのに、嫌な思いさせちゃいましたね? 本当に、すみませんでした」
「ううん、俺は全然平気だから。夏目さん余計怒らしたの俺だしさぁ……。そんなの気にしなくていいから。ほら、元気出してよ、ね?」
「……でも」
「あー、もう、そんな泣きそうな表情《かお》しなくていいからぁ……。はいっ! もうこの話題はなしなし。じゃっ、気を取り直して行きますかぁ?」
「はいっ!」
私のせいで、あんなに嫌な思いをさせてしまったというのに……。
後輩思いで、どこまでも優しい木村先輩は、逆に私のことを気遣ってくれたため、そんな木村先輩のご厚意を無下にもできず。
いつものように接してくれる木村先輩に感謝しつつ、それに倣って元気よく脚を進めたのだった。
***
オフィスを出てから五分ほど歩いたところに、木村先輩一押しの、ゆったりとしたオシャレな空間で、美味しい料理を堪能しながらカラオケを楽しむことができるお店があった。
あらかじめ木村先輩がネットで予約してくれていたため、待たずにすんなりと個室に入ることができて。
現在、歌まで上手な木村先輩の歌声を聴きながら、美味しいデザートを味わっていた。
充分にお腹も満たされて、今度は何を歌おうかなぁ……なんて呑気に考えてた私は、歌い終わって正面のソファに座った木村先輩に、
「ねぇ、美菜ちゃん。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
そう言って声を掛けられた。
さっきまでノリのいい曲に合わせてあんなに楽しそうに歌っていた木村先輩が急に改まって、なにやら深刻そうな表情をしているように見える。
「なんですか? 聞きたいことって」
急に、どうしちゃったんだろうかと、きょとんと首を傾げて訊ねてみると。
「……うん。えぇっと、あのさぁ、美菜ちゃんってさぁ……。ごめん、ちょっと待って」
木村先輩の方から言ってきたはずなのに……。
どういう訳か、言い出しにくいことなのか、言いかけていたにもかかわらず、途中で中断してしまって。
何故か、私の視線から逃げるようにして、飲みかけのウーロン茶の入ったグラスを手に取り、そのまま一気に一滴も残さず煽って飲み干してしまった木村先輩。
そして、空っぽになったグラスをダンッと勢いよくテーブルのコースターの上に戻したことにより、ガシャンッと残された氷がグラスの中で派手な音を響させた。
その様を『おおー、豪快だなぁ』……と見詰めていると……。
「ふう」と息を吐き出した木村先輩の声がようやっと聞こえてきて。
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