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それぞれの思惑~前編~

#10

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入り口のドアに背を向けてベンチに座っていた私が声のする方に振り返ると……。

そこには、柔らかそうな茶髪の髪を風に靡かせて、トレードマークである八重歯を覗かせながら、梅雨の晴れ間に頑張って顔を出しているお日様の光を纏って、眩しい笑顔を咲かせた木村先輩の姿があった。

あのバー『charm《チャーム》』での一件以来登場はしていなかったものの……。

あの件の直後、木村先輩は何も悪くなんかないのに、後輩の私相手に何度も何度も頭を深く下げながら必死に謝ってくれた。

当然、すぐに頭を上げてもらって、副社長の件もなんとか適当に誤魔化して事なきを得たのだった。

そして、面倒見のいい木村先輩は、後輩である私のことを、相変わらず色々と気にかけてくれているのだった。

「お疲れ様です。
木村先輩もこれからお昼ですか?」

「うん。もしかしたら、美菜ちゃんが居るかもって思って、今日はパン買ってきたんだ」

相変わらず、人懐っこい笑顔でそう言うと、私の隣に少し距離を空けて何気に腰を下ろしながら、得意気に買ってきたパンの袋を掲げて見せてくれている。

「あっ! そのパン人気があってなかなか手に入んないんですよね? 
いいな~、おいしそう!」

「朝…出勤の途中で開店してたから寄ってみたんだ。そしたら最後の一個でさぁ、ラッキーだった! 良かったら半分こしよっか?」

「えっ、いいんですか!?」

「モチロン。はい、どうぞ」

「やったー! いっただきまーすっ!」

半分こしてもらったパンをさっそく食べ始めた私のことを優しく笑って見守ってくれている木村先輩。

暫くしても、持ってるパンを食べる気配がなく、変わらずジーッと食べてるとこを木村先輩に見詰められて、なんだか居心地が悪くて堪らなくなってきて。

「……どうかしました?」訪ねてみれば……。

「……あっ、いや、ごめん。

なんか、さっき美菜ちゃん見たとき、元気がないような気がしたからさぁ……。ちょっと気になっちゃっただけだから、気にしなくていいよ。
休憩時間なくなっちゃうから、さっ、食べよっか?」

「……はい」

流石は、後輩想いの木村先輩。

何もかもを見透かされてしまいそうで、一瞬ドキリとさせられてしまったけれど、今は目の前の美味しいパンを頬張ることに気持ちを集中させることにした。

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