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近づく距離

#15

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かと思えば急に、私の身体を腕の中からゆっくりそうっと優しくソファへと下ろしてしまうから……。

途端に、離れてしまった副社長のぬくもりに寂しさを感じてしまう。

そんな私に、

「美菜に似合うと思って、用意したんだが」

なにやらちょっと照れくさそうにして、どこかぶっきらぼうに、ジャケットのポケットに忍ばせてたのだろう何かを取り出してきた。

なんだろうと思って、副社長の手元によくよく目を凝らすと、シルバーのチェーンに、クリスタルのような可愛らしい小さなを滴の形を模したものが通されていて、控えめだけど、動く度にキラキラと輝いているように見える。

どっからどー見ても、高価そうで、かつ上品な煌めきを放っている綺麗なネックレスがあって。

ビックリ仰天してしまった私が身動ぎも忘れて、カッチーンとフリーズしてしまってると……。

それをなんの躊躇いもなく、さも当たり前のように、これまた慣れた手つきでさりげなくもあっけなく、私の首元にそれを掛けると、それを指で弄ぶように揺らして眺めながら、ご満悦な様子の副社長。

どうやら、契約という鎖では飽き足りず、本当の鎖で私のことを繋いでおくつもりらしい。

もう何がなんやら、この展開に追いついていけてない私なんか置き去りにして……。

「思った通り、美菜によく似合ってる」

ソファでちょこんと座ってる私の真ん前で、床上のフカフカのラグに片膝をついて、まるでおとぎ話にでも出てくる王子様のごとく跪《ひざまず》くと、眩いくらいの微笑みを湛えた表情をして、これまた優しい眼差しで見つめつつ、落ち着いた低い声色で優しく甘く囁いてくる。

そうして麗しい綺麗な顔を惜しげもなく私の目の前まで近づけてきた副社長が、そうっと口づけてきた。

フリーズ状態の私に、優しく触れるだけのキスをしてくれた直後、これだけのことをしておいて。

「女はこういう時、こういうモノをもらうと嬉しいものなのだろう?」

今度は、したり顔で、奈落に突き落とすようなことを言ってきたかと思えば、

「じゃぁ、シャワー浴びてくる」

さっさとバスルームに向かって歩いて行ってしまった副社長。

きっと私のご機嫌を取るために、夏目さんにでもアドバイスされたんだろうから、最後にあーいう言い方をしたんだろうと思うのだが。

それでも、胸はキューンッてときめいちゃったし、泣いちゃうぐらい嬉しいなんて思っちゃうんだもん。

ふと、リビングの端っこで気配を消して佇んでいる夏目さんへと視線を向けるも、『どうかした?』って感じで。

如何にも、俺は関与してませんって表情を決め込んで、お手上げって感じで両手を上げて、知らんぷりして自分の部屋へ向かおうとしてる夏目さん。

一体、全体、夏目さんは、どんなフォローをしてくれたんだろうか?

ーー車では、私の見方になってくれるって言ってくれてたのにぃ……。

と、恨めがましく夏目さんの背中を見送りつつ。

ーーいや、だからなのかなぁ? とか思ったり。

何はともあれ、『もう、きっと、副社長には、どうあがいてみても、私なんかが太刀打ちなんかできない』そう思ってしまった。

私が近づけば近づくほど、副社長は遠くに行っちゃうのに、それでもいいから傍に居たいなんて思っちゃうんだから、ほんと質《たち》が悪い。

ぼんやりとそんなことを思っていた私に、何故かいつのまにか、回れ右して、直ぐ傍まで戻ってきていた副社長。

「美菜も一緒に入るか?」
「////」

当然、私の返事なんか聞かずに、軽々と私の身体を抱き上げると、ヒョイッとあっけなくお姫様抱っこにしてしまった傍若無人な王子様。

鼻歌でも歌っちゃうのかと思う程に、頗《すこぶ》るご機嫌のいい傍若無人な王子様は、嫌味なほど長い脚を活用した速足で、バスルーム目掛けてスタスタと歩き出してしまった。

奇しくも明日は、土曜日でお休みだ。

どうやら、これから、泡《あぶく》に塗《まみ》れながら、たっぷりと時間をかけて、鎖で繋いだ私のことを可愛がってくださるらしい。

あらぬ妄想を思い浮かべてしまった私は、傍若無人な王子様の腕の中で、真っ赤になって身悶えていたのだった。
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