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近づく距離
#10
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その後も、何も考えられない放心したままの状態で、涙で歪んだ視界のまま、ボーッと副社長のことを見つめることしかできないでいた。
「俺にメチャクチャにされて、乱れて啼く声を夏目に聞かれるのが、そんなに嫌か?
……分かった、望み通りやめてやる」
私の声を聞いた副社長は、さっきまでのことが嘘のように、あっさりと私の身体から離れると、
「あとは、お前が大好きな夏目にでも、最後まで相手をしてもらえばいい。俺は、お前を抱くこともできない、能無しだからな。お前の望み通り、車からは俺が降りてやる。
……お前は、俺と一緒には居たくないようだからな」
何故か綺麗な顔を苦しそうに、苦々しく歪ませたかと思えば、吐き捨てるようにして言い放った直後、
「おいっ! 要」
きっと、これ以上収拾がつかなくならないように気配を消してたんであろう夏目さんが引き留めるも、その夏目さんの声をピシャリと跳ね返すように、車のドアを乱暴に叩き付けるようにして閉めると、さっさと車から降りて歩いて行ってしまった。
***
「美菜ちゃん? 大丈夫?」
「やだ。見ないで」
「……あぁ、ごめん」
私のことを心配して、こちらに振り返ろうとしていた運転席の夏目さんが、私の声で、慌てて前に向き直ってから、自分の左耳を私に見えるように、わざと大袈裟な動きをして、イヤホンを抜き取って掲げながら、
「要が美菜ちゃんにキスしだしてから、ヤバイって思って。俺、イヤホン付けて、曲、聴いてたからさぁ、美菜ちゃんの声は、耳に入ってない。だから、安心していいよ。ほら、ね? 右のも、要がドア閉めてから外したから、大丈夫。
凄いだろ? さっすが優秀なデキル秘書って感じだろ? 俺、もう、こんなの慣れっこだから」
夏目さんのかけてくれた中の『慣れっこ』っていう言葉を聞いた私は、また、泣きだしてしまう。
さっき、怒った副社長に、あんな風に乱暴にされてしまったことなんかよりも、副社長が私以外の女性と、車であーいうことを当たり前のようにしてたのかと思っただけで、悲しくなっちゃうんだもん。
そんな私がまた泣き出してしまうから、夏目さんが慌ててフォローしてくる。
「あぁ、違う違う。要は自分からは、美菜ちゃんにしてたようなことは、したことなかったから、安心して?
それに、いつも女の方から要に迫ってきてたから。
でも、要は女にはさぁ、アレのこともあるし、いつも俺が追い払ってたしさぁ。
インテリ銀縁メガネ? になって」
ハハって笑ながら、私を安心させるように、いつもよりおどけた明るい口調で優しく言ってくれる夏目さんの言葉を聞いてると。
まるで、私が抱いてしまってる副社長への想いに気づいているようにも聞こえた。
でも、それをハッキリ言わないでくれている、何もかもお見通しのような夏目さんの優しい気遣いに、余計に涙が止まらなくなってくる。
「俺にメチャクチャにされて、乱れて啼く声を夏目に聞かれるのが、そんなに嫌か?
……分かった、望み通りやめてやる」
私の声を聞いた副社長は、さっきまでのことが嘘のように、あっさりと私の身体から離れると、
「あとは、お前が大好きな夏目にでも、最後まで相手をしてもらえばいい。俺は、お前を抱くこともできない、能無しだからな。お前の望み通り、車からは俺が降りてやる。
……お前は、俺と一緒には居たくないようだからな」
何故か綺麗な顔を苦しそうに、苦々しく歪ませたかと思えば、吐き捨てるようにして言い放った直後、
「おいっ! 要」
きっと、これ以上収拾がつかなくならないように気配を消してたんであろう夏目さんが引き留めるも、その夏目さんの声をピシャリと跳ね返すように、車のドアを乱暴に叩き付けるようにして閉めると、さっさと車から降りて歩いて行ってしまった。
***
「美菜ちゃん? 大丈夫?」
「やだ。見ないで」
「……あぁ、ごめん」
私のことを心配して、こちらに振り返ろうとしていた運転席の夏目さんが、私の声で、慌てて前に向き直ってから、自分の左耳を私に見えるように、わざと大袈裟な動きをして、イヤホンを抜き取って掲げながら、
「要が美菜ちゃんにキスしだしてから、ヤバイって思って。俺、イヤホン付けて、曲、聴いてたからさぁ、美菜ちゃんの声は、耳に入ってない。だから、安心していいよ。ほら、ね? 右のも、要がドア閉めてから外したから、大丈夫。
凄いだろ? さっすが優秀なデキル秘書って感じだろ? 俺、もう、こんなの慣れっこだから」
夏目さんのかけてくれた中の『慣れっこ』っていう言葉を聞いた私は、また、泣きだしてしまう。
さっき、怒った副社長に、あんな風に乱暴にされてしまったことなんかよりも、副社長が私以外の女性と、車であーいうことを当たり前のようにしてたのかと思っただけで、悲しくなっちゃうんだもん。
そんな私がまた泣き出してしまうから、夏目さんが慌ててフォローしてくる。
「あぁ、違う違う。要は自分からは、美菜ちゃんにしてたようなことは、したことなかったから、安心して?
それに、いつも女の方から要に迫ってきてたから。
でも、要は女にはさぁ、アレのこともあるし、いつも俺が追い払ってたしさぁ。
インテリ銀縁メガネ? になって」
ハハって笑ながら、私を安心させるように、いつもよりおどけた明るい口調で優しく言ってくれる夏目さんの言葉を聞いてると。
まるで、私が抱いてしまってる副社長への想いに気づいているようにも聞こえた。
でも、それをハッキリ言わないでくれている、何もかもお見通しのような夏目さんの優しい気遣いに、余計に涙が止まらなくなってくる。
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