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捕らわれた檻のなかで
#13
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♪゜・*:.。. .。.:*・♪
「ちょっと狭いかもしれないけど、ごめんね? まぁ、けど、寝るのは要と一緒だし。
荷物置くだけだし、問題ないかなぁ」
なんて、独り言のように言いながら、私の前を軽い足取りで歩く夏目さんは、とても楽しそうに見える。
それに引き替え、夏目さんの背中を追う私は、全然、楽しくなんかない。
まぁ、でも、いつもはタイトに纏められたダークブラウンの髪も、今はサラリと下ろされていて、雰囲気も柔らかだし。
少しチャラくて、明るく軽い口調の夏目さんは、木村先輩の雰囲気に似ているせいか、とても接しやすいし、話しやすいので、そこは救いでもあるのだが。
それでも、これから、あの傍若無人な副社長と四六時中一緒だと思うと、憂鬱な気持ちになってくる。
……昨夜の、あの光景が蘇ってきてしまう。
副社長に、ネクタイで縛られてしまっていた手首には、まだ薄っすらと生々しい赤い痕が残っていて。
思い出すと、なんとも居た堪れない切ない気持ちになってきて、気を抜けば泣いてしまいそうになる。
夏目さんは、『悪気はないから』と言ってくれてはいたけれど。
あんな扱いをされる私は、副社長にとったら、ただの道具に過ぎないんだっていうことなど、容易《たやす》く想像できてしまうからだ。
そんな私のことなど、どうでもいいという風に、楽しそうな夏目さんに案内してもらった部屋は、私一人の荷物を収めておくには十分な広さだった。
午後はずっと、夏目さんに手伝ってもらいながら荷物の荷解《にほど》きをしていて。
その間は、副社長の顔を見ることも、考えることもなく。
それは、昨夜のことを思い出したくなかった私にとっては、都合が良かった。
けれども、このままこの時間が永遠に続いてくれる筈もない訳で。
「じゃぁ、ごゆっくりぃ」
荷解きも終えて、夕飯の支度を手伝うつもりだった私を、調子良くサラッとかわして、呆気なく夏目さんが部屋から出て行ってしまった。
急に、シンと静かになってしまった慣れないこの部屋で、私がゆっくり落ち着ける訳もなく。
一人取り残されてしまった私が、『はぁ』と溜息を吐き出した、ちょうどその瞬間《とき》だった。
ガチャリと後ろのドアが遠慮がちに開く音を響かせたのは……。
「ちょっと狭いかもしれないけど、ごめんね? まぁ、けど、寝るのは要と一緒だし。
荷物置くだけだし、問題ないかなぁ」
なんて、独り言のように言いながら、私の前を軽い足取りで歩く夏目さんは、とても楽しそうに見える。
それに引き替え、夏目さんの背中を追う私は、全然、楽しくなんかない。
まぁ、でも、いつもはタイトに纏められたダークブラウンの髪も、今はサラリと下ろされていて、雰囲気も柔らかだし。
少しチャラくて、明るく軽い口調の夏目さんは、木村先輩の雰囲気に似ているせいか、とても接しやすいし、話しやすいので、そこは救いでもあるのだが。
それでも、これから、あの傍若無人な副社長と四六時中一緒だと思うと、憂鬱な気持ちになってくる。
……昨夜の、あの光景が蘇ってきてしまう。
副社長に、ネクタイで縛られてしまっていた手首には、まだ薄っすらと生々しい赤い痕が残っていて。
思い出すと、なんとも居た堪れない切ない気持ちになってきて、気を抜けば泣いてしまいそうになる。
夏目さんは、『悪気はないから』と言ってくれてはいたけれど。
あんな扱いをされる私は、副社長にとったら、ただの道具に過ぎないんだっていうことなど、容易《たやす》く想像できてしまうからだ。
そんな私のことなど、どうでもいいという風に、楽しそうな夏目さんに案内してもらった部屋は、私一人の荷物を収めておくには十分な広さだった。
午後はずっと、夏目さんに手伝ってもらいながら荷物の荷解《にほど》きをしていて。
その間は、副社長の顔を見ることも、考えることもなく。
それは、昨夜のことを思い出したくなかった私にとっては、都合が良かった。
けれども、このままこの時間が永遠に続いてくれる筈もない訳で。
「じゃぁ、ごゆっくりぃ」
荷解きも終えて、夕飯の支度を手伝うつもりだった私を、調子良くサラッとかわして、呆気なく夏目さんが部屋から出て行ってしまった。
急に、シンと静かになってしまった慣れないこの部屋で、私がゆっくり落ち着ける訳もなく。
一人取り残されてしまった私が、『はぁ』と溜息を吐き出した、ちょうどその瞬間《とき》だった。
ガチャリと後ろのドアが遠慮がちに開く音を響かせたのは……。
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