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私、捕まっちゃいました

#6

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いったい、いつから、この部屋に居たのだろうか……。

「副社長の代わりに、私がご説明いたしましょう。よろしいですか?」
「あぁ、頼む」

出入りするドアの傍にいきなり現れた、このすかしたインテリ銀縁メガネに驚きすぎて、言葉を失ったまま凝視して固まってしまった私のことなんて、まるで置き去りにして、話は始まってしまったらしい。

「その前に、一言だけ。

こら、小娘っ! 副社長に『バカ』とは、なんですか? 自分の立場をわきまえなさい」

この声を聞いた途端、また長くなりそうな、お小言から始まるのかとウンザリしていると。

「夏目、この女が処女とも知らず、少々やりすぎた俺も悪かったんだ。それに、こんな面白い女、そうそういないだろう? これから長い付き合いになるかもしれないんだ……。それくらい許してやれ」

相変わらず偉そうに肩肘ついて寝そべったままの副社長が、インテリ銀縁メガネを宥めて事なきを得たのだが、なにやらよく分からないことを言ってた気もするのだが……。

今は、そんなことよりも、こうなった経緯を知りたい訳で、とりあえずインテリ銀縁メガネの話に集中することにした。

「……コホン。では、まず、昨夜、副社長のご友人が経営されているバー『charmチャーム』で酔い潰れたお前をーー」

気を取り直すように、咳払いから始まったインテリ銀縁メガネの説明が長くなりそうなので、分かりやすく要約すると……。

木村さんが酔い潰れた私をどうしたものかと思案した結果、家に連れて帰ろうとした(というのは、バーのスタッフの証言らしい)けど、たまたま居合わせた副社長に、何故か私が抱き着いて離れなくなってしまい。

おまけに、

「お前、うちのショコラティエだな? この女もたしか、うちの新入社員だったな」

「副社長、入社三年目の木村康介と、商品開発部で研修中の綾瀬美菜……で、ございます」

と、副社長とインテリ銀縁メガネに名前まで言われてしまったため、後輩を酔わせた挙句、お持ち帰りしようとしていたと誤解されて、咎《とが》められるとでも思ったのだろうか。

いや、きっと、この二人の威圧感が凄すぎたせいで、ビビってしまったに違いない。

まぁそんなこんなで焦った木村さんは、

「すみません。失礼します」

と言い放ち、一目散に逃げるようにして帰ってしまったという。

そして、副社長に抱き着いて夢の世界に旅立ってしまっていた私は、銀縁メガネにより担がれた状態で、副社長の部屋まで運ばれたらしいのだが……。

ベッドに転がしてからも、

「副社長がいい」

と駄々っ子のように言い続ける私に、根負けした副社長が、しかたなく付き添っていたっていうことらしい。

そして、副社長曰く、

「酔ってるとはいえ。
お前が、そんなにいうのなら……と、ちょっと可愛がってやっただけだ」そうだ。

結局は、全部酔い潰れてしまった私のせいだということが分かり、その場でお約束のように、全身をこれでもかってくらいに真っ赤にさせて小さくなるしかなかった。

そんな可哀そうな状態の私に、この後、更に追い打ちをかけるようなことが待っていようとは。

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