フェチらぶ〜再会した紳士な俺様社長にビジ婚を強いられたはずが、世界一幸せな愛され妻になりました〜

羽村美海

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かりそめの新婚カップル*

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 それからまた時間が流れ、何度も脱ぎ着を繰り返しているせいで、もはやこれが何着目かも定かではない。

 疲れの色が濃くなってきた頃、奏の明るい声音が耳に流れ込んできた。

「あのドレス、いいんじゃないか? 色白の穂乃香によく似合いそうだ」

 心地の良いバリトンボイスに導かれるように視線を彷徨わせた先には、一点物のドレスが上品な輝きを放っている様が見て取れる。

 店長に勧められるままに試着していたドレスは、どれもこれも煌びやかなものばかりで、穂乃香は気後れしっぱなしだった。

 けれど、そのドレスはこれまで試着した華美なものとは違っていた。

 色味もデザインも落ち着いているが、だからといって他のものにも引けを取らない、上品でシックなとても素敵なドレスだ。

 穂乃香は一瞬で目を奪われてしまう。

「わぁ、凄く素敵ですねぇ」

 図らずも穂乃香の口からは感嘆の声が零れていた。

 数分後。数人のスタッフによってメイクを施された穂乃香は、落ち着いた色味のダスティーカラーが目を引く華やかな刺繍が印象的な立体感のあるレース素材のボレロと、同系色のマーメイドラインがお洒落で洗練されたキャミソールのロングドレスを合わせた、何ともエレガントな装いに身を包んでいる。

 フィッティングルームから恐る恐る顔を覗かせた穂乃香の姿を目にした奏は、コーヒーの注がれたカップを片手にどういうわけだか固まってしまっている。

 ――そんなに似合ってないのかな?

 穂乃香がシュンと肩を落としかけたその刹那。おもむろにソファから立ち上がった奏が何やら目配せをすると、スタッフがすぐに退室していく。

 出入り口の扉がバタンと音を立てたときには、歩み寄ってきた奏によって包み込むようにして、穂乃香はふわりと腕に閉じ込められていた。

 いきなり奏の甘やかな香りに包み込まれてしまったせいか、頭がくらくらしてくる。

 奏に縋ってしまったあの夜以来、奏の体温をこんなにも間近で感じたことがなかったせいだ。

 そう言いたいところだが、残念ながらそうではない。

 奏のことをそれだけ好きになってしまっているからだ。

 それどもこうして奏への想いに気づかされるたびに、あの疑惑が浮かび上がってきてしまう。

『好きだ、愛している、などと言ってくれてはいるが、それもこれもすべては後継者をもうけるためなのでは……』

 それはまるで呪縛のように、穂乃香の心を苛むのだった。

 ――それなのに、ちょっと抱きしめられただけで、こんなにも嬉しいだなんて。どうしよう? これ以上好きになったら辛くなるだけなのに……。
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