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あの夜の続きを

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 えもいわれぬ甘やかな快感に翻弄され羞恥も理性をも手放し善がり狂う穂乃香の姿は、あたかも本能を剥き出しにした雌そのものだ。

 普段の生真面目を絵に描いたような穂乃香からは想像もつかない、艶めかしい痴態を奏に曝け出している。

 穂乃香の痴態を目の当たりにしてしまった奏の衝撃は、それはそれは凄まじいものだった。

 あの夜は、酷く酔っていた穂乃香の心情を思うと、弱ったところにつけいって、奏を元婚約者と思い込んでいる穂乃香を抱くなんて気持ちにはなれなかった。

 悲しみに打ちひしがれた穂乃香の気持ちを宥めるために、優しい愛撫を施すことに徹した。

 その甲斐あってか、早々に愛撫に蕩けてしまった穂乃香は、軽く達しただけで意識を手放してくれた。

 ずいぶん酔っていたようだし、アルコールと泣き疲れたせいでもあったのだろう。

 そんな彼女とは裏腹に、好みの匂いを纏う彼女が醸し出す蜜の何とも芳醇な甘やかな香りに、鼻腔と雄の本能とを擽られていた。

 そうとも知らず彼女は、安心しきった表情で奏の胸にぎゅっとしがみついて離れようとしてくれない。

 彼女が少々恨めしくもあったが、途轍もなく愛らしくもあった。

 これまで優れた嗅覚のせいで、女性には散々な目に遭ってきたというのに。

 女性に対してそんな感情を抱いてしまった自分に、驚きを隠せなかったが、それ以上に嬉しくもあった。

 ――これまで散々な目に遭ってきたのも、もしかすると彼女に出会うためだったのかもしれない。

 年甲斐もなくそんな乙女思考が浮上してきて、奏は自嘲じみた笑みを漏らした。

 奏のなかであたたかくも甘酸っぱい感情が芽生えていたのは確かだ。

 奇しくもその想いに火を注いだのは、元婚約者の名前を切なげに口にした彼女だった。

「マ……サ、ト」

 その名を耳にした刹那、嫉妬心をこれでもかと煽られてしまった。奏の胸は、このまま心臓が張り裂けてしまうんじゃないか、と懸念してしまうほどの強烈な痛みを覚えた。

 ――彼女にとって今は婚約者の身代わりだとしても、いつか必ず彼女の心を射止めてみせる。

 生まれて初めてそう思わせてくれた彼女が目覚めたら、すべてを打ち明けよう。

 そのつもりだったのに、彼女は甘やかな香りとあたたかな温もりだけを残して消えていた。

 まるで最初から存在していなかったかのように。
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