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変わりつつあるもの

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 穂乃香と出会う以前の奏は、特殊な体質もあり女性との接触を避けてきたくらいだ。

 女性を自宅に招いたこともなかったし、招こうと思ったことさえ一度もない。

 そんな自分がこうして穂乃香という理想通りの女性と巡り会えて、一つ屋根の下で暮らすようになるなんて……。

 ーー夢でも見ているような心地だ。

 とはいえ、未だ穂乃香の気持ちは奏には向いていない。ただの上司と部下という関係でしかないのだ。

 それどころか、再会した際の彼女の様子からするとマイナスの印象しかないのかもしれない。

 ーーまぁ、それに関しては、以前よりは薄れてきたように思う。といっても確証などないが……。

 仕事とは違って穂乃香のこととなると、さっぱりわからなくなるのだ。

 穂乃香自身に確かめたわけではないので定かではないし、非常に面白くないが、彼女の心は依然として元婚約者に囚われたままなのかもしれない。

 けれどこうして共に暮らしていくうち情でも湧いてくれれば、少しはつけいる隙ができるかもしれない。

 幼少の頃より優れた経営者になるべく英才教育を受けてきた奏は、元々素質に恵まれていたのもあり、ビジネスにおいて実績も自信も兼ね備えている。

 どんなに難しい商談もまとめてきた。

 それなのに穂乃香のこととなるとからきしだ。

 それでも穂乃香の気持ちを自分に何とかして振り向かせようと、難解な穂乃香の心を攻略するために必死に足掻いている。

 自身の体調になど気を配っているような余裕がなかったのも当然かもしれない。

「ああ、頼むよ」

 穂乃香との新婚夫婦のようなやり取りに、この上ない幸福感を覚えつつ、奏がいつものように朝食後のコーヒーをリビングのソファで堪能しようと椅子から立ち上がり足を踏み出したところ、不意に視界が暗転し目眩を覚える。

 ――何だ?

 奏がそう思った時には、テーブルに片手をついた体勢で床に崩れ込んでいた。

 その刹那、奏が先ほどまで座していた椅子がガタンッという派手な音を立てた。

 その音で奏の異変を察したらしい穂乃香が慌てた様子で奏の元に駆け寄ってくる。

「ーーしゃ、社長っ⁉」

 奏は、穂乃香の声を耳にしたのを最後に意識を手放してしまうのだった。
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