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思いがけないアクシデント

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 以前から奏に娘との縁談話を持ちかけていた浅葱は、余所からの縁談話が纏まってしまわないように、裏であれこれ手を回していたらしい。

 だが奏への縁談の相手となると名の知れた重鎮のご令嬢ばかり。大事になっては非常に不味いので、そう簡単に手を出せない。

 そこで浅葱は、ある噂を流していたのだという。

 それは、秘書兼執事を務めている柳本とただならぬ仲であるため縁談を断り続けている、というものだ。

 馬鹿げた噂だと思うが、これまでの奏のデリケートな事情故の言動が災いして信憑性を高めてしまっているらしい。

 しかもその噂のせいで、奏の父である恭一の縁談攻撃にますます拍車がかかっているのだという。

 元々今夜の会食には、〝浅葱からの縁談話をかわす〟と同時に、〝浅葱の弱みを握って今後一切おかしな真似をできないようにする〟という柳本考案の二つのミッションを遂行するべく臨んでいたのだった。

 何かあった時のことを考慮し、穂乃香のスーツのポケットに忍ばせたスマートフォンは柳本と通話が繋がったままだし、GPSアプリもインストール済みだ。

 つまり、こちらが仕掛けた罠に敵がまんまと食いついてきた、というわけである。

 とはいっても、さすがにこんな卑劣な手段に出るとは思いもしなかったし、こんなにも上手くいくとも思わなかった。

 何より柳本の思惑通りにことが運んだと思うと非常に面白くない。 

 だがこうなってしまった以上、穂乃香の異変を察知し助けに来てくれるであろう柳本に、不本意ながらもすべてを委ねるしかないのだった。

 穂乃香に抵抗の意思がないと判断したらしい男の笑み混じりの声が耳元で響いた。

「あんたもついてないよな。婚約者に二股かけられた挙げ句、浮気相手が妊娠したからって婚約破棄されたってのに、ようやく摑んだ幸せまで踏みにじられようとしてるなんてなぁ」

 どうやら穂乃香の素性を調べ上げていたらしい。

 こんな話聞きたくもないが、浅葱の策略を話してくれたら弱みを握ることができる。

 そんな期待を込めて男の話に全神経を集中させていた穂乃香の耳に、再び男の声が届いた。

「何なら、今ここで俺が慰めてやろうか? 社長との結婚を破談にするには、あんたと俺が睦み合ってる現場を見せるのが手っ取り早いだろうしな」

 この男の目的はハッキリしたものの、穂乃香が抵抗できないのをいいことに言いたい放題だ。

 いくら奏との仲を裂きたいからって、まさかこんな卑劣極まりない手段に出てくるとは思わなかった。

 奏と再会してからというもの、元婚約者の存在などすっかり薄れてしまっている。

 それを今更ほじくり返されたところで痛くも痒くもない。それよりも。

 ――この男に嬲られている姿を社長に見られるなんて、そんなの堪えられない!

 穂乃香の頭の中は、そんな思いに埋め尽くされてしまっている。
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