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出会いは突然に、鮮烈に
③
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そんなこんなで、海外からの出張帰りによく使う行きつけのホテルの最上階に位置するスイートルームへと移動したのだった。
その頃には、幼い頃からの付き合いでもある柳本の采配により、部屋には奏の着替えはもちろん、酔い潰れてしまった彼女のための諸々も用意されていた。これもいつものことだ。
誤解を招いてはいけないので補足しておくが、奏がこんな風に女性の同意も得ずにホテルに連れ込むのは初めてのことだった。
それどころか、これまで女性に関して苦い経験しかないため、ここ数年は女性を遠ざけてきたくらいだ。
そういう背景もあって奏自身少々舞い上がってもいたのだろう。
だからこそ、彼女に妙な勘違いをさせてしまったに違いない。
それほどに、奏が必死だったということだ。
いくら彼女が寝苦しそうにしていたとはいえ、酔い潰れた女性の衣服を寛げるのは憚られたが、起きる気配がなかったためジャケットを脱がしブラウスのボタンだけを緩めるに留めた。
それからシャワーを浴びて柳本が用意してくれていたワイシャツとトラウザーズに着替え寝室に戻ると、ちょうど彼女が目覚めたところだった。
酔っているせいで潤みきって今にもとろんと蕩けそうな黒い瞳で奏の姿を捉えた彼女は、一瞬大きく目を見開いていた。
だが、すぐに鬼のような形相で睨みつけてくるなり。
「私の前から今すぐ消えてって言ったわよね。なのに、どうしてマサトがいるの? もしかして、婚約者に浮気されて婚約破棄された上に、式場のキャンセル料まで払う羽目になった、哀れな私の無様な姿を笑いに来たって言うの? フンッ、馬鹿にして。けど、おあいにく様。あんたみたいなクズ男、こっちから願い下げよ。あんたなんかよりいい男見つけて幸せになってやるんだからッ!」
奏のことをどうやら元婚約者だと思い込んでいるようで、恨み言を矢継ぎ早に言い放つとゴロンと寝返りを打った。
それきり枕に顔を埋めたまま嗚咽を漏らしはじめてしまった彼女の様子からも、彼女の事情を察することができたが、どうにも面白くない。
自分好みの香りを醸し出す理想通りの女性に出会うきっかけを与えてくれたことには感謝している。
だが、酷い目に遭わされたというのに、未だ彼女の中に元婚約者への感情が残っているのだと思うと、胸の中にどす黒い感情がムクムクと膨れ上がっていく。
たとえ負の感情であったとしても、一刻も早く彼女の中から根こそぎ消し去ってしまいたい。などという身勝手極まりない感情が奏の中に芽生えていた。
そんな自分に驚きながらも、奏は彼女が自分にとって特別な存在なのだと、改めて確信していたのだ。
だからこそ未だ酔い潰れて現実と夢の狭間で、元婚約者の面影に苦しみ続ける彼女の心を少しでも癒やせるならと、どうしようもない虚しさと苛立ちに襲われながらも、元婚約者の振りまで演じてしまっていた。
ーー早くクズ男のことなんか忘れて、俺だけを見ろ。
そう思いながら元婚約者の役を演じていたはずが、いつしか揺るぎない想いへと変化していた。
ーーこの俺がそんなクズ男のことなんて忘れさせて、幸せにしてみせる。
これまで煩わしいとしか思えずにいた女性に対して、生まれて初めて抱いた感情だった。
ーーやはりこれは運命に違いない。そうでなければ説明がつかない。
だからこそ、彼女には包み隠さずなにもかもを曝け出そうとしたのだ。
だというのに……。奏の胸で泣き疲れてしまった彼女が再び目を覚ました際には、その記憶は微塵も残ってはいなかった。
そればかりか、なにもかもを曝け出そうとした奏の元から逃げるようにして立ち去ろうとする。
まるで奏との出会いをなかったことにするかのように。
彼女の態度に、奏は仕方がないと思いつつも、この上ない虚しさを覚えていた。
そこでまさか二度にわたって同じ状況に置かれるとは夢にも思わなかったが、今にして思えば奏にとっては大きなチャンスだったのかもしれない。
奏は虚しさに苛まれながらも、元婚約者からの酷い仕打ちに打ちひしがれている彼女の心に寄り添えるならばと、彼女の介抱に徹していた。
しかし、またもや奏のことを元婚約者だと勘違いした彼女に、涙ながらに縋られてしまっては、彼女のことを拒絶する術など奏にはなかった。
彼女の肌に触れた瞬間、二度目の衝撃を受けた。
ーーやはりこれは運命に違いない。
彼女と一夜を過ごしたことで身をもって確信した奏は、翌朝、奈落へと突き落とされることとなる。
それがまさか、彼女の方から奏の元に飛び込んでこようとはーー
その頃には、幼い頃からの付き合いでもある柳本の采配により、部屋には奏の着替えはもちろん、酔い潰れてしまった彼女のための諸々も用意されていた。これもいつものことだ。
誤解を招いてはいけないので補足しておくが、奏がこんな風に女性の同意も得ずにホテルに連れ込むのは初めてのことだった。
それどころか、これまで女性に関して苦い経験しかないため、ここ数年は女性を遠ざけてきたくらいだ。
そういう背景もあって奏自身少々舞い上がってもいたのだろう。
だからこそ、彼女に妙な勘違いをさせてしまったに違いない。
それほどに、奏が必死だったということだ。
いくら彼女が寝苦しそうにしていたとはいえ、酔い潰れた女性の衣服を寛げるのは憚られたが、起きる気配がなかったためジャケットを脱がしブラウスのボタンだけを緩めるに留めた。
それからシャワーを浴びて柳本が用意してくれていたワイシャツとトラウザーズに着替え寝室に戻ると、ちょうど彼女が目覚めたところだった。
酔っているせいで潤みきって今にもとろんと蕩けそうな黒い瞳で奏の姿を捉えた彼女は、一瞬大きく目を見開いていた。
だが、すぐに鬼のような形相で睨みつけてくるなり。
「私の前から今すぐ消えてって言ったわよね。なのに、どうしてマサトがいるの? もしかして、婚約者に浮気されて婚約破棄された上に、式場のキャンセル料まで払う羽目になった、哀れな私の無様な姿を笑いに来たって言うの? フンッ、馬鹿にして。けど、おあいにく様。あんたみたいなクズ男、こっちから願い下げよ。あんたなんかよりいい男見つけて幸せになってやるんだからッ!」
奏のことをどうやら元婚約者だと思い込んでいるようで、恨み言を矢継ぎ早に言い放つとゴロンと寝返りを打った。
それきり枕に顔を埋めたまま嗚咽を漏らしはじめてしまった彼女の様子からも、彼女の事情を察することができたが、どうにも面白くない。
自分好みの香りを醸し出す理想通りの女性に出会うきっかけを与えてくれたことには感謝している。
だが、酷い目に遭わされたというのに、未だ彼女の中に元婚約者への感情が残っているのだと思うと、胸の中にどす黒い感情がムクムクと膨れ上がっていく。
たとえ負の感情であったとしても、一刻も早く彼女の中から根こそぎ消し去ってしまいたい。などという身勝手極まりない感情が奏の中に芽生えていた。
そんな自分に驚きながらも、奏は彼女が自分にとって特別な存在なのだと、改めて確信していたのだ。
だからこそ未だ酔い潰れて現実と夢の狭間で、元婚約者の面影に苦しみ続ける彼女の心を少しでも癒やせるならと、どうしようもない虚しさと苛立ちに襲われながらも、元婚約者の振りまで演じてしまっていた。
ーー早くクズ男のことなんか忘れて、俺だけを見ろ。
そう思いながら元婚約者の役を演じていたはずが、いつしか揺るぎない想いへと変化していた。
ーーこの俺がそんなクズ男のことなんて忘れさせて、幸せにしてみせる。
これまで煩わしいとしか思えずにいた女性に対して、生まれて初めて抱いた感情だった。
ーーやはりこれは運命に違いない。そうでなければ説明がつかない。
だからこそ、彼女には包み隠さずなにもかもを曝け出そうとしたのだ。
だというのに……。奏の胸で泣き疲れてしまった彼女が再び目を覚ました際には、その記憶は微塵も残ってはいなかった。
そればかりか、なにもかもを曝け出そうとした奏の元から逃げるようにして立ち去ろうとする。
まるで奏との出会いをなかったことにするかのように。
彼女の態度に、奏は仕方がないと思いつつも、この上ない虚しさを覚えていた。
そこでまさか二度にわたって同じ状況に置かれるとは夢にも思わなかったが、今にして思えば奏にとっては大きなチャンスだったのかもしれない。
奏は虚しさに苛まれながらも、元婚約者からの酷い仕打ちに打ちひしがれている彼女の心に寄り添えるならばと、彼女の介抱に徹していた。
しかし、またもや奏のことを元婚約者だと勘違いした彼女に、涙ながらに縋られてしまっては、彼女のことを拒絶する術など奏にはなかった。
彼女の肌に触れた瞬間、二度目の衝撃を受けた。
ーーやはりこれは運命に違いない。
彼女と一夜を過ごしたことで身をもって確信した奏は、翌朝、奈落へと突き落とされることとなる。
それがまさか、彼女の方から奏の元に飛び込んでこようとはーー
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