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お試し期間は3ヵ月で

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「だったらこうしないか。俺の人となりを見てもらうためのお試し期間を設けよう。出会っていきなり結婚するというのも不自然だしな」
「あのう、社長。私はたった今、社長の申し入れを受けるつもりはないと言ったのですが」

「あぁ、勘違いしないでくれ。君との結婚は決定事項だ。君のことは既に調べさせてもらった。式場のキャンセル料は元婚約者の男に慰謝料と一緒に全額請求し回収しているし。慰謝料に不足分は俺が足して、弟さんの奨学金も既に全額支払い済みだ」
「ーーッ⁉」

「それを今すぐ返すなんて無理だろう。だからといって強要するつもりはないよ。不足分を立て替えた代わりに協力してほしいだけだ。その間に必ず君を振り向かせてみせる。だから安心してほしい」
「……」

 何かを返そうにも、社長から絶えず放たれる予想を遙かに超越した言葉に、もはや言葉も出ない。

 まさに、開いた口が塞がらない状態である。

 穂乃香がこのような状態に陥ってしまったのは、元婚約者からいきなり婚約破棄を言い渡されたあの夜以来、二度目のことだ。

 否、正確にはこの変態社長から突然プロポーズされたのを含め三度目なのだが、この際どうでもいい。

 茫然としている穂乃香の耳に、柳本の呑気な声が流れ込んでくる。

「良かったではありませんか。社長のように素晴らしい男性に見初められた上に、悩みの種までなくなって」
「……」

 確かに悩みの種はなくなったけれど、それ以上に大きな悩みの種ができてしまった。

 一難去ってまた一難。

 ーー私はどうもついてないようだ。男運が壊滅的に。

 おそらく婚約破棄されたあの夜、運も尽きてしまったのだろう。

「そうだなぁ、君は秘書室勤務だし。お試し期間は試用期間と同じにしよう。三ヶ月もあれば、この出会いが運命だと君にもわかってもらえるはずだ。心配しなくても、俺のことをどうしても好きになれないというのなら、その時はキッパリ諦める。その場合、通常の結婚ではなく〝業務の一環としてのビジネス婚〟で構わないから、よろしく頼むよ。この件は以上だ。他にわからないことがあれば第一秘書の柳本に聞くといい」
「……」

「柳本、後は任せた」
「承知致しました」 

 ーーこれって、パワハラなんじゃないの?

 けれど、無理強いはしないと言っていたし、試用期間中に社長を好きにならなかった場合はキッパリと諦めてくれるとも言っていた。

 ーーだったら社長の言うように、通常の結婚ではなく、仕事として割り切ってしまえば良い。  

 そうは思うものの……社長に大きな借りを作ったことには変わりない。

 いくら〝ビジネス婚〟だとは言え、試用期間が終了したら社長と結婚するなんて、想像するだけで気が重くなる……。

 上機嫌で指示を出す社長と、嬉々とした様子で社長の指示を受けている柳本の声が響く中、穂乃香は頭を抱えて項垂れるしかなかった。
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