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忘れられない夜
③
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だが間の悪いことに、穂乃香とナンパ男との間に割り込んできた男性客がいて、中身のすべてはその男性が身に着けている上質そうなスーツが受け止めてしまっていた。
ナンパ男を撃退するはずが、助けに入ろうとしてくれたらしい親切な男性にカクテルをぶちまけてしまったのである。
ーーあーあ、やっちゃった。けど、この人、物凄い美形。こういう人のこと何て言うんだっけ……。あっ、水も滴るいい男だ!
大失態をやらかしたというのに、場違いなことを思考し、うふふなんて上機嫌で笑みを零した穂乃香の意識は、そこでプッツリと途絶えていた。
***
意識を失った穂乃香が目を覚ましたのは、どういうわけか、豪奢な部屋に据えられた、上質なキングサイズベッドの上だった。
なんといっても、このシーツの滑らかな感触が堪らない。肌触りがサラサラしているし、程よい弾力性があるマットレスのおかげで寝心地が頗るいい。
元婚約者とのことさえなければ、二日酔いでさえなかったなら、さぞかし最高の目覚めだったと思う。が、しかし、残念なことに目覚めは最悪だった。
悪酔いした上に、目覚めたのが見知らぬ場所、しかも、見るからにお高そうなホテルのスイートルームである。
ーーこ、これは一体どういうこと?
穂乃香は混乱気味に何度か目を瞬かせた。その瞬間、猛烈な頭の痛みに襲われ顔を顰める。
「うっ」
同時に、聞き慣れない男性のやけに穏やかで何とも耳に心地いい低音の美声が降ってくる。
「ようやく目を覚ましたようですね。気分はどうですか?」
ーー最悪です!
そうは思ったものの、穂乃香はその言葉をぐっと飲み込んだ。そして目を白黒させて狼狽える。
なぜなら、声に促されるように視線を向けた先で、意識を失う直前目にした〝水の滴るいい男〟が優美な微笑を湛えて見下ろしていたから。
ーーへ? ってことはまさか!
穂乃香は頭が割れるような頭痛に顔を顰めていたのも忘れて、胸元までかかっていた布団をガバッと頭まで被って自分の身体を恐る恐る観察する。
どういう経緯かは不明だけれど、この男と一夜の過ちを犯してしまったと思ったのだ。
だがそうではなかったらしい。
その証拠に、ジャケットは着てはいないものの、今朝身に着けたブラウスはボタンが二つほど外されているだけで、乱れはない。タイトスカートも穿いたままだ。
ーーということはセーフ? なんだ、もう吃驚させないでよ。
ホッと安堵する穂乃香の頭上から、男性の笑み交じりの声が降ってくる。
「そんなに心配しなくても、酔った女性をどうこうするような趣味はありませんので、どうかご安心ください」
ーーしかも見透かされてる。
心の中を見透かしたかのような男の発言に羞恥をこれでもかと煽られ、顔どころか全身を真っ赤に染め上げてしまった穂乃香は、気まずくて布団から出るに出られなくなってしまう。
火照りがおさまるまでの間羞恥に身悶える羽目になった。
数分後、心身共に落ち着きを取り戻した穂乃香は、自身の置かれている現状を思い出す。
記憶はないが、この状況からして、どうやら男性に多大なる迷惑をかけてしまったようである。
ーーと、とにかく謝らないと。
今更だとは思いつつも布団からゆっくりと顔を出し、恐る恐る謝罪の言葉を紡ぎ出した。
「あのう、記憶が曖昧なのですが。どうやら多大なご迷惑をかけてしまったようで、すみませんでした」
けれどベッドの縁に腰を落ち着け腕組みしてうたた寝をしている男性の姿を捉えた穂乃香は、声をかけたことを後悔する。
だが時すでに遅し。目を覚ましたらしい男性がゆっくりと振り返ってきて、意外な言葉を口にした。
「ーーん? あっ、ああ、いえ。酔いも覚めてきたようで良かったです。酷い目に遭って苛立っていた気持ちも収まったようですね。ホッとしました」
ナンパ男を撃退するはずが、助けに入ろうとしてくれたらしい親切な男性にカクテルをぶちまけてしまったのである。
ーーあーあ、やっちゃった。けど、この人、物凄い美形。こういう人のこと何て言うんだっけ……。あっ、水も滴るいい男だ!
大失態をやらかしたというのに、場違いなことを思考し、うふふなんて上機嫌で笑みを零した穂乃香の意識は、そこでプッツリと途絶えていた。
***
意識を失った穂乃香が目を覚ましたのは、どういうわけか、豪奢な部屋に据えられた、上質なキングサイズベッドの上だった。
なんといっても、このシーツの滑らかな感触が堪らない。肌触りがサラサラしているし、程よい弾力性があるマットレスのおかげで寝心地が頗るいい。
元婚約者とのことさえなければ、二日酔いでさえなかったなら、さぞかし最高の目覚めだったと思う。が、しかし、残念なことに目覚めは最悪だった。
悪酔いした上に、目覚めたのが見知らぬ場所、しかも、見るからにお高そうなホテルのスイートルームである。
ーーこ、これは一体どういうこと?
穂乃香は混乱気味に何度か目を瞬かせた。その瞬間、猛烈な頭の痛みに襲われ顔を顰める。
「うっ」
同時に、聞き慣れない男性のやけに穏やかで何とも耳に心地いい低音の美声が降ってくる。
「ようやく目を覚ましたようですね。気分はどうですか?」
ーー最悪です!
そうは思ったものの、穂乃香はその言葉をぐっと飲み込んだ。そして目を白黒させて狼狽える。
なぜなら、声に促されるように視線を向けた先で、意識を失う直前目にした〝水の滴るいい男〟が優美な微笑を湛えて見下ろしていたから。
ーーへ? ってことはまさか!
穂乃香は頭が割れるような頭痛に顔を顰めていたのも忘れて、胸元までかかっていた布団をガバッと頭まで被って自分の身体を恐る恐る観察する。
どういう経緯かは不明だけれど、この男と一夜の過ちを犯してしまったと思ったのだ。
だがそうではなかったらしい。
その証拠に、ジャケットは着てはいないものの、今朝身に着けたブラウスはボタンが二つほど外されているだけで、乱れはない。タイトスカートも穿いたままだ。
ーーということはセーフ? なんだ、もう吃驚させないでよ。
ホッと安堵する穂乃香の頭上から、男性の笑み交じりの声が降ってくる。
「そんなに心配しなくても、酔った女性をどうこうするような趣味はありませんので、どうかご安心ください」
ーーしかも見透かされてる。
心の中を見透かしたかのような男の発言に羞恥をこれでもかと煽られ、顔どころか全身を真っ赤に染め上げてしまった穂乃香は、気まずくて布団から出るに出られなくなってしまう。
火照りがおさまるまでの間羞恥に身悶える羽目になった。
数分後、心身共に落ち着きを取り戻した穂乃香は、自身の置かれている現状を思い出す。
記憶はないが、この状況からして、どうやら男性に多大なる迷惑をかけてしまったようである。
ーーと、とにかく謝らないと。
今更だとは思いつつも布団からゆっくりと顔を出し、恐る恐る謝罪の言葉を紡ぎ出した。
「あのう、記憶が曖昧なのですが。どうやら多大なご迷惑をかけてしまったようで、すみませんでした」
けれどベッドの縁に腰を落ち着け腕組みしてうたた寝をしている男性の姿を捉えた穂乃香は、声をかけたことを後悔する。
だが時すでに遅し。目を覚ましたらしい男性がゆっくりと振り返ってきて、意外な言葉を口にした。
「ーーん? あっ、ああ、いえ。酔いも覚めてきたようで良かったです。酷い目に遭って苛立っていた気持ちも収まったようですね。ホッとしました」
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