上 下
1 / 91
忘れられない夜

しおりを挟む
「実は、浮気相手に子供がデキたんだ。だから結婚はできない。本当に申し訳ないと思っている。けど、俺を頼ってくれないどころか、甘えてさえくれなかった穂乃香にも責任があると思うんだ。俺は穂乃香に愛されていないんじゃないかって、いつも不安だったし、寂しかった。それが積もりに積もった結果だと思ってる」

 開いた口が塞がらない。まさか自分がこんな目に遭うとは思わなかった。

 予定では、今夜は二人にとって思い入れのあるイタリアンレストランで美味しい料理を楽しみながら、これからの未来について語らうはずだったのに……。

 約束の時間に遅れてきてたった今元婚約者になったクズ男から、浮気相手が妊娠したから結婚はできないと告げられた。

 婚約破棄された挙げ句、こうなった責任はお前にもあるんだから式場のキャンセル料の半分ぐらい出すのは当然だろ……と理不尽極まりないことをほざかれている。

 ーーなんの罰ゲームよ。ふざけんな、このクズ男!

 自分が惨めで仕方ないし、見る目のなかった自分に対して腹が立ってしようがない。
 
 目の前のクズ男がこれ以上聞くに堪えない戯れ言を口にしないよう、ピシャリと言い放つ。

「わかったわ。キャンセル料は全額出すから、私の前から今すぐ消えて!」

 そうして言い切ると同時に気づく。男のことを本気で好きではなかったのだとーー 

 彼は同じ会社に勤める営業部のエースで、穂乃香は秘書課に勤務している。

 昨年の暮れ、同僚が主催した飲み会に参加した際、一目惚れしたと言って告白され交際へと発展。彼が三十になったのを機に婚約した。

 婚約までしていたというのに、彼に対する感情は一瞬で冷めてしまったようだ。

 彼との別れを悲しいとも思わないし未練もまったくない。彼のどこが好きだったのかも思い出せないくらいだ。

 穂乃香には、仲睦まじかった両親のように、素敵な相手と巡り会って結婚し幸せな家庭を築くという、幼い頃からの夢があった。

 おそらく、彼に告白されたことで、自分には無理だと諦めていた夢をこの人となら叶えることができるかもしれない。そんな幻想でも抱いてしまっていたのだろう。

 そうとしか思えない。

 ーーだからって、こんなクズ男と一年近くもの時間を費やしてきたなんて、本当に情けない。クズ男の顔なんか二度と見たくない。

 そんな思いに駆られていた穂乃香には、冷静な判断能力などなかったのだと思う。

 じゃなきゃキャンセル料なんて払うわけがない。

 収まりのつかない感情を持て余した穂乃香は、何とか気持ちを落ち着けようと、目についたバーへと誘われるようにして足を踏み入れていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

あまやかしても、いいですか?

藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。 「俺ね、ダメなんだ」 「あーもう、キスしたい」 「それこそだめです」  甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の 契約結婚生活とはこれいかに。

溺愛彼氏は消防士!?

すずなり。
恋愛
彼氏から突然言われた言葉。 「別れよう。」 その言葉はちゃんと受け取ったけど、飲み込むことができない私は友達を呼び出してやけ酒を飲んだ。 飲み過ぎた帰り、イケメン消防士さんに助けられて・・・新しい恋が始まっていく。 「男ならキスの先をは期待させないとな。」 「俺とこの先・・・してみない?」 「もっと・・・甘い声を聞かせて・・?」 私の身は持つの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界と何ら関係はありません。 ※コメントや乾燥を受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。

あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお断りいたします。

汐埼ゆたか
恋愛
旧題:あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお受けいたしかねます。 ※現在公開の後半部分は、書籍化前のサイト連載版となっております。 書籍とは設定が異なる部分がありますので、あらかじめご了承ください。 ――――――――――――――――――― ひょんなことから旅行中の学生くんと知り合ったわたし。全然そんなつもりじゃなかったのに、なぜだか一夜を共に……。 傷心中の年下を喰っちゃうなんていい大人のすることじゃない。せめてもの罪滅ぼしと、三日間限定で家に置いてあげた。 ―――なのに! その正体は、ななな、なんと!グループ親会社の役員!しかも御曹司だと!? 恋を諦めたアラサーモブ子と、あふれる愛を注ぎたくて堪らない年下御曹司の溺愛攻防戦☆ 「馬鹿だと思うよ自分でも。―――それでもあなたが欲しいんだ」 *・゚♡★♡゚・*:.。奨励賞ありがとうございます 。.:*・゚♡★♡゚・* ▶Attention ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

エリート課長の脳内は想像の斜め上をいっていた

ピロ子
恋愛
飲み会に参加した後、酔い潰れていた私を押し倒していたのは社内の女子社員が憧れるエリート課長でした。 普段は冷静沈着な課長の脳内は、私には斜め上過ぎて理解不能です。 ※課長の脳内は変態です。 なとみさん主催、「#足フェチ祭り」参加作品です。完結しました。

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。 だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。 車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。 あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

処理中です...