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episoudo:16
#10 ~直樹side~
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産婦人科の控室で、一人ソワソワドキドキしながら待つこと数時間。
不意に、入り口のドアが開け放たれて、『もしや』と思い、弾かれたように俯かせていた顔を入り口付近へと向けた俺の視界には、どういう訳だか、腹違いの弟、五十嵐海翔の姿が映し出されていて。
五十嵐は、確かに、獣医師をしているのだが……。
何故か、仕事着であるだろう白衣を纏ったままで、向こうも俺が居ることが信じられないといった様子で、穴でも開けられるのでなはいかと思うほど、俺のことをジーッと凝視したままで固まってしまっている。
「……久しぶりだな? 元気にしてたか?」
黙ったままでいるのもなんだか気が引けて、声を掛けた俺にいっそう驚いたように、一瞬目を大きく見開いた五十嵐が、控室のソファに座っている俺から少しだけ距離をあけて腰を下ろしてくるなり、
「あぁ、久しぶり。
……もしかしてお前も、子供、生まれんの?」
返してきたのは、挨拶とごくごく普通の問いかけだった。
ここに、居るってことは、当然そういうことであるのだろう……。
けれども、五十嵐の突然の登場に驚いてしまってた俺は、五十嵐の言葉を聞くまで、そんな当たり前のことにも気づけなかった。
そんな間抜けな俺には、五十嵐の言葉に驚いて、大きな声で聞き返すことしかできなかったのだった。
「……えぇ!? まさか、お前も?」
間抜けな俺に流石は素っ気ない男だけあって、五十嵐は落ち着き払った声で、小馬鹿にするような言葉を放ってくるのだが……。
「フンっ。それくらい、すぐに分かるだろ?
それよりお前、血がダメだったんじゃなかったっけ?」
今までの俺なら、こいつに逢うなり文句の一つや二つ跳ね返してるところなんだが……。
どういう訳だか、特になんの感情も湧いてこず、懐かしさの方が勝っているのだった。
「あ、あぁ。
……けど、よくそんなこと覚えてたな?」
だから、昔のような口調で返していて。
「まぁな。昔、俺が獣医になるって言った時、言ってたろ? 血が苦手で、俺には無理だって」
「そうだっけ?」
「あぁ。
……で、もう生まれてんのか?」
「いや、さっき分娩室に入ったとこ」
「へぇ」
「お前んとこは?」
「今朝早く生まれて、なんとか仕事済まして来たら……。今、授乳指導中で、ここで待つように言われた」
「そうか。おめでとう。
……で、どっちだった? 男? 女?」
「あぁ、女って言ってた」
「うわぁ、女の子かぁ? 将来、心配だな?」
「そうなんだよ!? 将来のこと考えると憂鬱でさぁ。
……あっ、まぁ、でも可愛いだろうけどな?」
「だよなぁ? うわぁ、やべぇ……。なんか聞いてたら緊張してきた」
「なんでだよ?」
「いや、だって、初めてのことだし。お前はいいよなぁ? 犬や猫の出産で慣れてるだろ?」
「バーカ、俺の可愛い姫を犬猫と一緒にすんな」
「ハハッ。わりぃ、わりぃ、冗談だよ」
「……なんか、お前とこうやって話すのって、高校ん時以来だよなぁ。けど、しばらく逢ってない間に、えっらいキャラ変わってねーか? なんか、丸くなったっていうか……。まぁ、いいんだけどさぁ。昔みたいで、話し易くて」
「……そうか?
……いや、そうかもな? もう俺も父親だからなぁ……。そろそろ大人にならねーと」
ハハッて笑いながらそんなこと言ってる自分に驚いてしまってるくらいだった。
不意に、入り口のドアが開け放たれて、『もしや』と思い、弾かれたように俯かせていた顔を入り口付近へと向けた俺の視界には、どういう訳だか、腹違いの弟、五十嵐海翔の姿が映し出されていて。
五十嵐は、確かに、獣医師をしているのだが……。
何故か、仕事着であるだろう白衣を纏ったままで、向こうも俺が居ることが信じられないといった様子で、穴でも開けられるのでなはいかと思うほど、俺のことをジーッと凝視したままで固まってしまっている。
「……久しぶりだな? 元気にしてたか?」
黙ったままでいるのもなんだか気が引けて、声を掛けた俺にいっそう驚いたように、一瞬目を大きく見開いた五十嵐が、控室のソファに座っている俺から少しだけ距離をあけて腰を下ろしてくるなり、
「あぁ、久しぶり。
……もしかしてお前も、子供、生まれんの?」
返してきたのは、挨拶とごくごく普通の問いかけだった。
ここに、居るってことは、当然そういうことであるのだろう……。
けれども、五十嵐の突然の登場に驚いてしまってた俺は、五十嵐の言葉を聞くまで、そんな当たり前のことにも気づけなかった。
そんな間抜けな俺には、五十嵐の言葉に驚いて、大きな声で聞き返すことしかできなかったのだった。
「……えぇ!? まさか、お前も?」
間抜けな俺に流石は素っ気ない男だけあって、五十嵐は落ち着き払った声で、小馬鹿にするような言葉を放ってくるのだが……。
「フンっ。それくらい、すぐに分かるだろ?
それよりお前、血がダメだったんじゃなかったっけ?」
今までの俺なら、こいつに逢うなり文句の一つや二つ跳ね返してるところなんだが……。
どういう訳だか、特になんの感情も湧いてこず、懐かしさの方が勝っているのだった。
「あ、あぁ。
……けど、よくそんなこと覚えてたな?」
だから、昔のような口調で返していて。
「まぁな。昔、俺が獣医になるって言った時、言ってたろ? 血が苦手で、俺には無理だって」
「そうだっけ?」
「あぁ。
……で、もう生まれてんのか?」
「いや、さっき分娩室に入ったとこ」
「へぇ」
「お前んとこは?」
「今朝早く生まれて、なんとか仕事済まして来たら……。今、授乳指導中で、ここで待つように言われた」
「そうか。おめでとう。
……で、どっちだった? 男? 女?」
「あぁ、女って言ってた」
「うわぁ、女の子かぁ? 将来、心配だな?」
「そうなんだよ!? 将来のこと考えると憂鬱でさぁ。
……あっ、まぁ、でも可愛いだろうけどな?」
「だよなぁ? うわぁ、やべぇ……。なんか聞いてたら緊張してきた」
「なんでだよ?」
「いや、だって、初めてのことだし。お前はいいよなぁ? 犬や猫の出産で慣れてるだろ?」
「バーカ、俺の可愛い姫を犬猫と一緒にすんな」
「ハハッ。わりぃ、わりぃ、冗談だよ」
「……なんか、お前とこうやって話すのって、高校ん時以来だよなぁ。けど、しばらく逢ってない間に、えっらいキャラ変わってねーか? なんか、丸くなったっていうか……。まぁ、いいんだけどさぁ。昔みたいで、話し易くて」
「……そうか?
……いや、そうかもな? もう俺も父親だからなぁ……。そろそろ大人にならねーと」
ハハッて笑いながらそんなこと言ってる自分に驚いてしまってるくらいだった。
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