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episoudo:16
#4 *直樹side*
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都会の喧騒なんて忘れてしまいそうになるほどに、周りを囲むように、優雅な庭園風景が広がるホテルの高級感漂うラウンジで、ゆっくりとコーヒーを飲みながら寛いでいるのだが……。
折角の美味しいコーヒーにもそろそろ飽きてきそうだ。
約束の時間をもうかれこれ三十分は待っているのに、待てど暮らせど見合い相手の女が一向に現れないからだ。
気の短くない俺でも、だんだんイライラしてきたし。
社会人なんだから、せめて遅れるんなら、連絡くらい寄越してもいいのではないだろうか……。
……もうこのまますっぽかして帰ってやろうか。
そんなことも思ったが、相手に落ち度があるのに今帰って、後になって色々難癖つけられるのも癪だし。
まぁ、見合い日和で、天候にも恵まれたことだし、麗らかな春の陽射しにでも当たって疲れた身体でも癒してやるか。
そう思った俺は、相手が来たときのために、フロントへ居場所と伝言を託してから、外の庭園へと脚を進めたのだった。
外の庭園では、麗らかな春の優しい風がそよそよと吹いていて、小鳥のさえずりと微かに聞こえてくる滝の水音が漂っていて。
さっきまでのイライラとしていた筈の心がじわじわと解れてきて、穏やかな気持ちになっていく。
見合いは気が進まなかったが、たまにはこういうのも悪くはないなぁ……。
なんて、呑気に思っていたその時だった。
何故か、懐かしい声に呼ばれた気がしてしまい、弾かれるようにして、後ろに振り返った俺の視線の先には、春らしい艶やかな着物に身を包んで、こちらへ向かって歩いてくる女性の姿が見えてきて。
けれど、桜の木の下で佇んでた俺の目の前には、時おり淡いピンクの花びらを散らす立派な桜の木の枝があるため、ちょうど顔の辺りを見ることは叶わない。
また、自分に都合のいい幻聴でも聞こえたのだろうと思うのだが、もしかしたらと、期待してしまう自分もいて。
でも、違った時のことを思うと、落胆した後のことが怖くて動くこともできなくて……。
そんな俺のことなんか構うことなく、ゆっくりゆっくりとスローモーションのように少しずつ近づいてくる。
そのまま立ち尽くしてしまっている俺に、そのまま近づいてきた着物姿の女性は、間違いなく愛だった。
けれども驚きすぎて、夢か現《うつつ》かなんて、まだ思ったりして……。
やっぱり立ち尽くしたままの情けない俺の目の前に現れた愛を、ただただ見つめたままでいると。
突然、バッチーーーーンッというド派手な音がして、次の瞬間には、俺の頬っぺたが強烈な痛みに襲われて、
「イッテーー!?」という悲痛な俺の声が雅な庭園に弾けて響き渡っていった。
折角の美味しいコーヒーにもそろそろ飽きてきそうだ。
約束の時間をもうかれこれ三十分は待っているのに、待てど暮らせど見合い相手の女が一向に現れないからだ。
気の短くない俺でも、だんだんイライラしてきたし。
社会人なんだから、せめて遅れるんなら、連絡くらい寄越してもいいのではないだろうか……。
……もうこのまますっぽかして帰ってやろうか。
そんなことも思ったが、相手に落ち度があるのに今帰って、後になって色々難癖つけられるのも癪だし。
まぁ、見合い日和で、天候にも恵まれたことだし、麗らかな春の陽射しにでも当たって疲れた身体でも癒してやるか。
そう思った俺は、相手が来たときのために、フロントへ居場所と伝言を託してから、外の庭園へと脚を進めたのだった。
外の庭園では、麗らかな春の優しい風がそよそよと吹いていて、小鳥のさえずりと微かに聞こえてくる滝の水音が漂っていて。
さっきまでのイライラとしていた筈の心がじわじわと解れてきて、穏やかな気持ちになっていく。
見合いは気が進まなかったが、たまにはこういうのも悪くはないなぁ……。
なんて、呑気に思っていたその時だった。
何故か、懐かしい声に呼ばれた気がしてしまい、弾かれるようにして、後ろに振り返った俺の視線の先には、春らしい艶やかな着物に身を包んで、こちらへ向かって歩いてくる女性の姿が見えてきて。
けれど、桜の木の下で佇んでた俺の目の前には、時おり淡いピンクの花びらを散らす立派な桜の木の枝があるため、ちょうど顔の辺りを見ることは叶わない。
また、自分に都合のいい幻聴でも聞こえたのだろうと思うのだが、もしかしたらと、期待してしまう自分もいて。
でも、違った時のことを思うと、落胆した後のことが怖くて動くこともできなくて……。
そんな俺のことなんか構うことなく、ゆっくりゆっくりとスローモーションのように少しずつ近づいてくる。
そのまま立ち尽くしてしまっている俺に、そのまま近づいてきた着物姿の女性は、間違いなく愛だった。
けれども驚きすぎて、夢か現《うつつ》かなんて、まだ思ったりして……。
やっぱり立ち尽くしたままの情けない俺の目の前に現れた愛を、ただただ見つめたままでいると。
突然、バッチーーーーンッというド派手な音がして、次の瞬間には、俺の頬っぺたが強烈な痛みに襲われて、
「イッテーー!?」という悲痛な俺の声が雅な庭園に弾けて響き渡っていった。
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