【R18】ありえない恋。

羽村美海

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#2

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 その後すぐ、親父と変わらないくらいの年齢だろうか……、

 銀色の華奢なフレームのメガネをかけ落ち着き払った、如何にもデキる医者って感じの白衣姿の男が病室へとやってきた。

 部屋へと脚を踏み入れる瞬間。


「いやぁ、久しぶりだね? 直斗さんに恭子ちゃん。直樹くん、二人の息子さんだってね? どれどれ……、おう、こりゃ恭子ちゃんに似てイイ男じゃないかぁ。そりゃぁ、惚れるのも無理ないなぁ…」


 親父と特にお袋の知り合いなのか……

 しばらくの間、お袋と楽しそうに笑い合いながら、何やら意味不明な言葉を織り交ぜていたかと思えば。

 俺が怪訝そうに顔を顰めていることに気づいたのか、途端に白衣の男はデキる医者の表情に切り替えさせた。

 そして、あれやこれや診たり尋ねたりを繰り返した後。

 明日にでも、念の為、色んな精密検査をするにあたっての諸々の説明をしてから出て行った。

 まぁ、それも、気にはなったのだが……。

 それよりも、もっと気になることが一つあった。何かというと、主治医が俺を診ている間のことだ。

 何故か、ずっと親父が俺の傍にいて、愛のことを聞こうとした俺が


「黒木は?」


そう口を開こうとすれば、決まって割って入ってきた。

 俺に、愛の名前を言わせないように仕向けるみたいに……。


「あぁ、お前の部下の……えーと、そうそう黒木さん、だったかな? あの子はかすり傷だけで、心配ないそうだよ」


 つい最近、親父には前もって、愛との結婚の許しを貰っている筈なのだが。

 俺の気のせいだろうか……。

 まぁ、何も知らないお袋の手前、ワザとそう装っているのだろう……。

 この時の俺は、目覚めたばかりだったということもあり、そのことについてあまり深く考えていなかった。

 結局、愛が無事だと解ったものの……

 夜遅い時間だということもあって、病室には両親以外誰も通されることはなかった。

 愛とのことを唯一知る親父とも、愛とのことを何も知らないだろうお袋の前で、愛のことを話すことなんてできないまま二人は家へと帰ってしまって。

 俺は、たった一人シーンと静まり返ったこの白い空間に取り残されてしまったのだった。

 そんな中、頭に浮かんでくることといえば、悲しげに泣きじゃくっていた愛の姿ばかりで。

 ーー早く愛に逢いたい……。

 愛に逢って、ちゃんと誤解を解いてやりたい。
  
 この腕の中に閉じ込めて、愛をずっと抱きしめていたい。

 ……なんて、俺の愛への想いは募るばかりで。

 そんな俺は、一人っきりの寂しい夜を悶々と過ごすことになってしまった。


 そして翌日、念の為に受けた精密検査の後、俺は思いもしなかった人物との予期せぬ再会を果たすこととなる。

 あれは、精密検査も終わり病院食とは思えない程美味い昼食に舌鼓を打った後だった。

 コンコン……

 という、病院にはおおよそ不似合いな、とってもリズミカルな音が静かだった白い空間に突然鳴り響いたのは。

 突然のことに驚いてしまった俺は、情けないことに一瞬ビクッと肩を竦ませたのだが……。

 次の瞬間、俺が頭に思い描いたものはといえば……。
 当然のことながら、昨夜からずっと逢いたくて逢いたくて堪らなかった愛おしい愛の姿だった。

 ……けれど、そんな俺の切なる願いは、数秒後、モノの見事に呆気なく、木っ端微塵に打ち砕かれてしまうこととなる。

 というのも……病室の出入り口の扉から入ってきたのはお袋で、


「精密検査、大したことなさそうなんですって?

さっき、青山くん(昨夜のデキる感じの医者のことで、なんでもお袋の幼馴染らしい)から聞いたわ。まぁ、でも、右手首、骨にヒビが入ってるらしいから、しばらくは休養も兼ねて入院するようにですって……。

直樹は直斗さんに似て、ずっと仕事仕事で忙しくしてたんだし、いい機会だわ。ゆっくり休みなさい。慣れない入院生活、私もずっと居られないし、あなたも退屈でしょうけど、咲(サキ)ちゃんが居てくれるから頼もしいわぁ。

さぁ、どうぞ」


愛じゃなかったことに、ガックリと両肩を落として項垂れる俺には、お袋の言葉なんて一つも頭にゃ入っちゃ来なかった。

 お袋は、そんな俺のことなんて完全にそっちのけで。

 一方的に、ペラペラと喋っていたかと思えば、部屋の出入り口の扉の向こう側に居るだろう誰かの入室を促した。

 なんだ?

 そう不思議に思った俺が、マヌケヅラをそちらへとゆっくり向けたちょうどその時。

 スッと静かに開いた扉の向こう側から青山という医者が現れた。

 な、なんだよ、昨夜の医者かよ……。

 そう心の中で呟いてる俺の視界には、部屋に入ってくる青山が押す車椅子が、これまたスローモーションのようにゆっくりゆっくりと現れて。

 俺の視線は、その車椅子に座っている若い女性へと、強く吸い寄せられるようにして引き寄せられて、そのまま釘付けになってしまっていたのだった。

 あの頃よりも、大人びた雰囲気の漂うの彼女は、その透き通るような色素の薄い微かに青味を帯びた陶器のように白い肌のせいだろうか……。

 俺には、今にも消えてしまいそうなほど儚げに見えた。
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