【R18】ありえない恋。

羽村美海

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episoudo:12

#1 *直樹side*

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 やっと、数時間ぶりに、この腕の中に閉じ込めることができた、俺の愛しいツンデレ姫は、なんにも言わず泣きじゃくるばかりで。

 色々と誤解を解きたいところなんだが、どうすることもできずに。

 ただただ、優しく抱き包んで背中をトントン擦ってやることしかできないでいた。

 そこへ、ちょっと待ったとばかりに。

 俺たちを邪魔するようにチャラ男の焦ったような声が、朝の静けさに包まれてたエレベーター近くの通路に響き渡った。


「黒木ーっ!」


 が、しかし……。

 俺の存在に気づいた途端に、俺の耳に流れ込んできたチャラ男のその声は


「……っ!!……直ちゃん?」


何故か困惑するような……、

 イヤ、スッゲ一迷惑そうな、チッと舌打ちでもしそうな雰囲気をプンプン醸し出している。

 見た感じからするとそう表現するのがしっくりくる。

 そんな感じだ……。

 たちまち、俺の頭の中には、不安という文字が浮かび上がってきた。

 手負いの動物並みに走り込んで来て、俺の腕の中で泣きじゃくる愛、

 続いて現れたチャラ男の、俺に対しての敵意剥き出しの様子からして。

 これ以上にないってくらいの嫌な予感しかしない俺は、次から次へと浮かんできてしまう不安の欠片を掻き消すように。

 泣きじゃくる愛の身体をさっきよりも強く掻き抱くように包み込んだ。

 けれど、俺のその嫌な予感は残酷なことに……

 従兄弟というよりは弟同然のチャラ男からの言葉によって、物の見事に的中することとなるのだった。


「直ちゃん、来るのおっせーんだよ! まぁ、でも、ちょーどイーや。俺、そいつと寝ちゃったから。それに、そいつのこと、気づいたら好きになっちゃってたんだよね。別れんだったらさぁ、さっさと別れてくんね?」


 今までも、チャラいチャラいとは思っていたけども……。

 今までで一番じゃねーの?

 そう思ってしまうくらいに。

チャラ男から最上級の呆れるくらいに軽くてチャラいお言葉がなげてよこされた。

 んなこと言われても、当然、俺は信じたりしねーし。

 てか、んなこと言われたって、泣きじゃくる愛からは酒の匂いがプンプン漂ってきているし。

 仮に、昨夜のことで、ヤケになった愛がヤケ酒飲んで、酔い潰れてチャラ男に抱かれたんだとしてもだ。

 俺にとっては、愛が自分から望んでそうなったかどうかが大事なんであって、

 部外者であるチャラ男の言葉なんて耳に入れる価値もない。

 だって、こんなにも、悲しそうに泣きじゃくってるんだ。

 きっと、イヤ、絶対だ!

 愛はチャラ男とのことを後悔して嘆いているに決まってる。

 なのに、チャラ男の言葉を聞いた途端。

 俺の腕の中で、胸に顔を埋めて泣きじゃくっていた愛が、埋めてた顔を真っ直ぐに俺の方へと向けてきた。

 そして、なんとも言えない悲しげな表情を浮かべて。

 俺の胸に両手を突っぱねるように押し返したかと思えば。

 そのまま俺の元からどこかへスリ抜けて行こうとし始めた。

 俺は、かつて……

 密かに想いを募らせていた高岡芽依を、腹違いの弟である五十嵐海翔に掻っ攫われた時よりも。

 ズキズキと酷く痛む胸の痛みに堪えながら、今にもどこかへ行ってしまいそうな愛の身体を、昨夜みたいに逃してしまわないようにと一層強く引き寄せた。

 いつものように強引に、どこかへ行ってしまいそうな愛の身体を強く引き寄せたものの。

 愛のこととなると、いつもの強気なんてどこかへ置き忘れたように……

 情けないヘタレ男に成り下がってしまう俺は、次から次へと浮かんできてしまう不安で押し潰されてしまいそうだ。

 そんな俺のことなんて置き去りにして、


「おーい、直ちゃん、聞いてんの?」


焦れたチャラ男からは呆れたような声が放たれた。

 どうして、こんなことになっちまってんだよ……。

 よりにもよって、どうしてチャラ男に、こんなこと言われなきゃなんねーんだよ!

 こんなにも、愛のことを愛してて。

 愛と弟同然のチャラ男との間で何があったとしても、なんもかんも全部ひっくるめて愛のことを受け止めたい……。

 そりゃスゲー嫌だし、メチャメチャショックだけれど……。

 ーーこれくらいのことで、愛のことを失いたくなんてない。

 そう、思っているっていうのに……。

 やっぱり、愛にとっては、俺って存在がさほど大したものでもなくて。

 このまま終わらせてしまってもどうってことないんじゃねーの?

……なんてことを思ってしまう。
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