【R18】ありえない恋。

羽村美海

文字の大きさ
上 下
91 / 144
episoudo:11

#2

しおりを挟む
 まだ、薄暗い部屋の中。

 グスングスンと鼻を啜りながら泣いてると、


「…………んぁ?」


どんよりと沈んでしまってる私の気持ちのせいで、重苦しい空気を漂わせ続けるこの場の空気にそぐわない、寝起きのせいかちょっと掠れたチャラ男の呑気な声が、なんの予告もなしに、突然邪魔するように割り込んできた。

 その呑気な声を出した張本人のチャラ男は、寝惚けてシッカリと抱きしめている私の存在に気づいて、パチパチと不思議そうに瞬きを数回繰り返し、私が泣いていることに気づいた瞬間。

 呑気な寝ぼけ眼から一変、一瞬にして眠気が吹っ飛んで酷く驚いた表情へ変貌を遂げた。

 そのなんとも言えない、チャラ男のめまぐるしい変化に追いつかない私が、アホ面でポカンとチャラ男のマヌケ面を見つめていると、


「……えっ、ちょっ、おまっ……。何、泣いてんだよ? どした? 腹でも痛いのか? おいっ、なぁ……黒木?」


急に焦ったようにガバッと起き上がって、腕の中の私をグインと自分の胸から引っぺがしたかと思えば。

 今度は私を組み敷くようにして両肩を力強く掴んできた。

 そして、私のことを見下したチャラ男は、様子を恐る恐るといった様子で窺いながら、とっても心配そうに聞いてくる。

 また、直樹の面影がチラチラと見え隠れしだすもんだから、タチマチ直樹を裏切ってしまった私の胸がジクジクと痛み出す。

 いつもは、見た目も中身も、直樹にたいして似てもなくて。

 軽くて、いい加減そうだし、チャラチャラしてるクセに……。

 昨夜からこうやって、なんの予告もなしに、ピンポイントで直樹の面影をチラつかせてくるもんだから、私の調子はメチャクチャに狂わされてばっかりで。

 直樹に、芽衣さんの身代わりにされたって思い込んで自棄になって、直樹のことを裏切ってしまった今の私には、チャラ男が時折見せる直樹の面影に責められているようで、

 とてもじゃないけどチャラ男の顔なんか見ていられない。

 けど、本当は、チャラ男じゃなくて、チャラ男に直樹を重ねてしまってた私が悪いのに……。

 酔いが醒めたせいか、だんだん正常になった頭が導き出した結論に、驚いて引っ込んでしまってた涙が再び勢いを取り戻したように溢れだした。

 もう、直樹に合わせる顔なんてないよ……。

 もう、直樹の傍に居られないんだ。

 そう思った瞬間、直樹へ対しての申し訳ない想いやら、自分に対しての憤りやら色んな感情がグチャグチャになって。

 ブワッと勢いよく涙と一緒に溢れて止まらなくなってしまった。


「………っ、、うっ……ううっ…」


 なんとか堪えようと手で口元を抑えようとしても。

 漏れてしまう嗚咽と溢れてくる涙はどうにもならなくて……。

 余計、勢いを増すばかりだ。



***


 チャラ男の部屋のリビング。

 ソファーにピタリと背を預け、両腕で膝を抱え込んだ体育座り状態で。

 その膝の上に顔を乗せてる私は、ボンヤリと視線の少し先にある隣のキッチンで。

 さっきからチャラ男がこちらに背中を向けている後姿を、力なくボンヤリと定まらない焦点のまま見つめていた。

 そんな私の方へ、チャラ男がクルリと振り返って、


「黒木? お前ってさぁ、コーヒーに砂糖とミルク、両方入れる派?」


いつものように、調子いい軽い口調で、チャラ男が声を投げかけてきた。

 どうやら、私にコーヒーを淹れてくれているようだ。

 そんなことを、随分と長い時間泣きじゃくったせいで、未だ霞がかった鈍い頭が少しの時間差で理解したため、


「……え? あぁ、うん」


っていう、なんとも間抜けな返事を返すことしかできなかった。


「ハハ、了解。反応ねーからまた寝てんのかと思った」

 
 すぐに、返ってきたチャラ男の笑い声がボンヤリと聞こえてきたけど。

 とてもじゃないけど、いつもみたいに言い返す気力がなかった私は、チャラ男に向けてた視線を露骨にプイッと背けるのが精一杯だった。


「ハハ、さっすが黒木。スッゲーおっかねー顔してやんの」


 そんな私は、チャラ男の茶化すような声に、なんの反応も返す気にはなれず……

 自分の膝を抱えている腕に顔を埋めるように突っ伏して隠した。

 あの後、嗚咽を漏らして


「……直樹に、合わす、顔、ない…よ」


そう言って泣きじゃくりながら嘆く私に、


「……黒木はなんも悪くねぇよ。全部、俺が悪い。ゴメンな」


暫く私の頭を機嫌を取るようにして撫でてくれた後。

 余計に泣き出してしまった私が一人にして欲しいと思ってるのを察したのか。

 先に着替えて待ってると言い残して、私が落ち着くまでの間一人にしてくれていたのだった。

 そうして、漸く泣き止んだ私は、シャワーを借りて着替えも済ませ、チャラ男が用意してた軽い朝食を摂り今に至る。

 随分と長い間、子供みたいにワンワン泣きじゃくっていたせいか。

 泣き止んだ今でも、目元は腫れぼったくて……

 瞬きするたびに突っ張るように固く引きつっている感じがする。

 突っ伏した頬が服に触れると、強張った頬が余計に引きつられてヒリヒリと悲鳴を上げるように痛んだ。

 思わず、痛みに顰めた顔を上げると。

 それを待ち構えてたように私を見ていたチャラ男が、可笑しくて堪らないって表情をして吹き出していて。

 いつものようにはいかなかったけれど、これ以上にないってくらいの凍てつくような鋭くて冷たい視線をお見舞いしてやった。

 それなのに、チャラ男ときたら……

 余計可笑しくて堪らないって表情を片手で口を覆って隠すと、コーヒーを淹れながら笑い声の代わりに肩を小刻みに震わせ始め。

 私は、時折覗く直樹の影を見えないふりをして、チャラ男の震える肩を黙って睨み続けた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冷血弁護士と契約結婚したら、極上の溺愛を注がれています

朱音ゆうひ
恋愛
恋人に浮気された果絵は、弁護士・颯斗に契約結婚を持ちかけられる。 颯斗は美男子で超ハイスペックだが、冷血弁護士と呼ばれている。 結婚してみると超一方的な溺愛が始まり…… 「俺は君のことを愛すが、愛されなくても構わない」 冷血サイコパス弁護士x健気ワーキング大人女子が契約結婚を元に両片想いになり、最終的に両想いになるストーリーです。 別サイトにも投稿しています(https://www.berrys-cafe.jp/book/n1726839)

無限悲劇ループの中に囚われてしまった大好きな婚約者を救い出す、絶対に負けられない戦い

待鳥園子
恋愛
侯爵令嬢レティシアは、もうすぐ結婚する十年来の婚約者、騎士団長ジークフリートが、一も二もなく大好き。 ある日のお茶の途中、突然体調を崩したのを発端に、塞ぎ込んでしまったジークは「もうすぐ、君は僕の親友のアルベールと僕を裏切るんだ」と、涙ながらに訴えた。 「やっと結婚出来るっていうのに……そんな悲劇、絶対に冗談じゃないわよ!!」と、彼が囚われているという悲劇の繰り返しを、自分が断ち切る決意をしたレティシア。 婚約者を好きで堪らない令嬢が、繰り返す悲劇を見過ぎて心を折られてしまった騎士団長を、どうにかして救い出すお話。

隣人はクールな同期でした。

氷萌
恋愛
それなりに有名な出版会社に入社して早6年。 30歳を前にして 未婚で恋人もいないけれど。 マンションの隣に住む同期の男と 酒を酌み交わす日々。 心許すアイツとは ”同期以上、恋人未満―――” 1度は愛した元カレと再会し心を搔き乱され 恋敵の幼馴染には刃を向けられる。 広報部所属 ●七星 セツナ●-Setuna Nanase-(29歳) 編集部所属 副編集長 ●煌月 ジン●-Jin Kouduki-(29歳) 本当に好きな人は…誰? 己の気持ちに向き合う最後の恋。 “ただの恋愛物語”ってだけじゃない 命と、人との 向き合うという事。 現実に、なさそうな だけどちょっとあり得るかもしれない 複雑に絡み合う人間模様を描いた 等身大のラブストーリー。

【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜

雪井しい
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。 【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】 ☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆ ※ベリーズカフェでも掲載中 ※推敲、校正前のものです。ご注意下さい

溺愛ダーリンと逆シークレットベビー

葉月とに
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。 立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。 優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

もつれた心、ほどいてあげる~カリスマ美容師御曹司の甘美な溺愛レッスン~

泉南佳那
恋愛
 イケメンカリスマ美容師と内気で地味な書店員との、甘々溺愛ストーリーです!  どうぞお楽しみいただけますように。 〈あらすじ〉  加藤優紀は、現在、25歳の書店員。  東京の中心部ながら、昭和味たっぷりの裏町に位置する「高木書店」という名の本屋を、祖母とふたりで切り盛りしている。  彼女が高木書店で働きはじめたのは、3年ほど前から。  短大卒業後、不動産会社で営業事務をしていたが、同期の、親会社の重役令嬢からいじめに近い嫌がらせを受け、逃げるように会社を辞めた過去があった。  そのことは優紀の心に小さいながらも深い傷をつけた。  人付き合いを恐れるようになった優紀は、それ以来、つぶれかけの本屋で人の目につかない質素な生活に安んじていた。  一方、高木書店の目と鼻の先に、優紀の兄の幼なじみで、大企業の社長令息にしてカリスマ美容師の香坂玲伊が〈リインカネーション〉という総合ビューティーサロンを経営していた。  玲伊は優紀より4歳年上の29歳。  優紀も、兄とともに玲伊と一緒に遊んだ幼なじみであった。  店が近いこともあり、玲伊はしょっちゅう、優紀の本屋に顔を出していた。    子供のころから、かっこよくて優しかった玲伊は、優紀の初恋の人。  その気持ちは今もまったく変わっていなかったが、しがない書店員の自分が、カリスマ美容師にして御曹司の彼に釣り合うはずがないと、その恋心に蓋をしていた。  そんなある日、優紀は玲伊に「自分の店に来て」言われる。  優紀が〈リインカネーション〉を訪れると、人気のファッション誌『KALEN』の編集者が待っていた。  そして「シンデレラ・プロジェクト」のモデルをしてほしいと依頼される。 「シンデレラ・プロジェクト」とは、玲伊の店の1周年記念の企画で、〈リインカネーション〉のすべての施設を使い、2~3カ月でモデルの女性を美しく変身させ、それを雑誌の連載記事として掲載するというもの。  優紀は固辞したが、玲伊の熱心な誘いに負け、最終的に引き受けることとなる。  はじめての経験に戸惑いながらも、超一流の施術に心が満たされていく優紀。  そして、玲伊への恋心はいっそう募ってゆく。  玲伊はとても優しいが、それは親友の妹だから。  そんな切ない気持ちを抱えていた。  プロジェクトがはじまり、ひと月が過ぎた。  書店の仕事と〈リインカネーション〉の施術という二重生活に慣れてきた矢先、大問題が発生する。  突然、編集部に上層部から横やりが入り、優紀は「シンデレラ・プロジェクト」のモデルを下ろされることになった。  残念に思いながらも、やはり夢でしかなかったのだとあきらめる優紀だったが、そんなとき、玲伊から呼び出しを受けて……

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

処理中です...