【R18】ありえない恋。

羽村美海

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#1 *愛side*

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 チャラ男とお酒を飲んでた筈の私は、いつのまにか酔いつぶれて眠ってしまったようだった。

 直樹に追いかけてももらえなかった私は、半ばヤケクソ状態だったことも手伝って、思った以上に飲み過ぎていたようで。

 気怠い身体をゴロンとさせて、重い瞼をゆっくり押し上げると。

 まだ働かない頭に鈍い痛みを感じて、これ以上にないってくらいの目覚めの悪い朝を迎えることとなった。

 寝ぼけ眼をパチパチと瞬いてみても、ぼやけた視界ではなんにもとらえることはできなくて。

 一瞬、ここがどこなのか解らず、早朝のせいかまだ薄暗い部屋の中を、手で支えた首をゆっくり傾けながらグルリと見渡してみれば……。

 だんだん覚醒して、徐々にクリアになっていく視界と頭の機能。

 ーーあれ? ここって、どう見ても寝室だよね?

 それと同時に、すぐ傍で人の気配を感じて、その気配の元である人物の姿をハッキリと捉えてしまった私。

 その、受け入れざるを得ない抗いようのない現実に、驚きのあまりフリーズを起こしてしまった私。

 昨夜、直樹の部屋を飛び出してから、エレベーターでチャラ男と遭遇して、直樹の従兄弟であるチャラ男に。

 あろうことか、直樹の面影を重ねて過剰に意識してしまってた、ありえない状態だった自分のことを瞬時に思い出した。

 途端に、自分の顔から血の気が引いていくのを感じて。

 暖かな布団の中で、酔も手伝ってあったまってた筈の身体の体温も、氷のように冷たくなってくような気がしてくる。

 そんな私に、まるでトドメを刺すように。
 
 さっきまで感じていた二日酔いの頭の痛みとは別の痛みが襲ってくる。


「……んん」


 消し去りたくても、消し去ることのできない現実を突きつけるように……。

 その人物が、寝返りを打ちながら発した声が、憐れな私の耳に流れ込んできて。

 その人物は、往生際の悪い私が、何度瞬きを繰り返してみても。

 それはやっぱりチャラ男で。

 チャラ男は寝ぼけているのか、布団に生まれたまんまの素肌の状態で包まっている私に。

 いつもそうしているかのように抱き枕みたくギュッと強く抱き着いてきた。

 そうして、なんにもなかったかのように。

 フリーズしたまんま身動ぎひとつできず、されるがままの私のことなんて置き去りにして。

 腹の立つくらい幸せそうな表情を浮かべたチャラ男は、どこの誰と間違えているのか……

 私に、愛おしそうに、スリスリと頬ずりしながら……

 とっても気持ち良さげに寝息を立て始めてしまった。

 これが夢か何かだと思いたいのに……。

 これが事実だって、憐れな私に思い知らせるように。

 二日酔いの頭の痛みなんて霞んでしまうほど、さっきからキリキリと胸が抉られるように痛んでしょうがない……。

 寝ぼけたチャラ男が私に抱きついて、再び寝息を立てて眠ってしまった様を呆然と見つめていると。

 今日みたいに酔っ払って、直樹に処女を奪われてしまったと思い込んで詰め寄った際に、直樹に言われてしまった言葉が……

 私を追い詰めるようにして、残酷なくらいハッキリと鮮明に蘇ってくる。


【『好きな人としたかった』って言ってたろ?
俺も同じだってことだよ。俺も好きな女にじゃねぇと、そういうことはしない……。虚しいだけだろ?】


 あの時、直樹は確かにそう言ってた。

 それも、すっごく真剣に、どこか悲しそうに言ってたような気がする……。

 あの時、もしかしたら、直樹は芽衣さんのことを想って言ってたんじゃないだろうか?

 そんなことを言ってた直樹が、私のことを芽衣さんのーー身代わりにしたりする訳ある筈ないのに……。

 確かに、直樹は芽衣さんのこと好きだったのかもしれないけど。

 今は私のことを【好きだ】って、【愛してる】って。

ーー【一生離してやんねぇ】って、恥ずかしげもなく言ってくれてたのに……。

 私、何やってんだろ?

 今まで、直樹のすぐ傍に居たのに。

 いつも、直樹にあんなに大事にしてもらってたのに……。

 どうして、あんな、なんの根拠もない噂を信じちゃったんだろ?

 どうして、直樹のこと疑っちゃったんだろ?

 ーー私、バカだ……。

 とんでもない過ちを犯してしまったことに、気づいてしまった私の頬を冷たい雫がいくつも零れ落ちていく。

 いくら、後悔して泣いたって、どうにもならないのに……。

 ポロポロと、あとからあとから溢れてくる涙をどうすることもできずに……

 ただただ呆然と泣き続けることしかできないでいた。

 まだ薄暗い、シンと静まり返った部屋の中。

 スヤスヤと気持ちよさ気なチャラ男の穏やかな寝息と、憐れな私の啜り泣くか細く掠れた声が弱々しく響いているだけだった。
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