80 / 144
episoudo:9
#9
しおりを挟む
愛、頼むから早く泣き止んでくれよ……。
いつもみたいに、怒って勢い任せに俺に突っかかってきてくれよ……。
お前が泣き止んでくれるんだったら、カッコ悪くたっていい、情けなくたっていい。
愛のためだったら俺はなんだってやってやるから……。
なんて、柄にもないことを真剣に思っていた。
そんな祈る想いで、愛を抱きしめ続ける俺は、あぁ、愛のこと、こんなに好きになってたんだなってことを改めて思い知らされた……。
思えば、愛のことは正直言って俺のタイプじゃなかったし、まさか愛のことを好きになるなんて思いもしなかった。
あの夜、酔っ払った愛の弱い部分を目の当たりにしてからは、自分でも気づかないうちに、いつものツンツンした愛と違うそのギャップに惹きつけられドップリと嵌っていた。
今じゃ、愛以外なんて考えられなくなっちまってる……。
高岡芽衣のことがあんなに好きだったはずなのに……。
高岡の好きな男が、腹違いの弟である五十嵐海翔だったと知って、あんなに辛かったはずなのに……。
そんなことは、いつの間にか遥か遠くに霞んでしまってて。
早くアイツラのように愛と結婚して、アイツラに負けないくらいあったかい家庭を築きたいなんて思ってしまってる。
我ながら、愛への溺愛ぶりに、呆れ果ててしまうくらいだ。
愛のぬくもりを、もっと近くで感じてたくて。
愛の頭の後ろに手をそっと添えて、支えるようにして優しく抱き寄せた俺の耳に、
「……めん……どう……に、なっちゃったんでしょ?」
いつも強がってばかりいる愛のものとは思えねぇような、今にも消えてしまいそうなくらいの……
小さくてか細い声が流れ込んできた。
一瞬、愛が、何のことを言ってるのかが解らなくて。
涙でグチャグチャになってる愛の表情をうかがうべく。
覗き込むようにして見つめながらなるだけ優しい声で、
「……ん? 何が?」
やんわりと問いかけて先を促した。
そしたら、愛が、俺のことをスゲー悲しそうに、涙で潤んだ憂いを帯びた綺麗な黒目がちの瞳で、真っ直ぐに見つめてきて。
「……私、のこと……。芽……衣、さんの、身代わり、なんでしょ……」
想像もしていなかったものが、愛おしい愛の口から飛び出してきた。
愛との未来を思い描いていた俺に、まるでピシャリと冷水を浴びせるようにして。
まさか、今、このタイミングで、他の誰でもない愛おしい愛の口から、高岡芽衣の名前を聞くことになろうとは……。
夢にも思っていなかった俺は、ただただそれが驚きでしかなかった。
けれど、最初、愛のことを好きだと気づいた時に、俺自身も愛と同じように、部下だった高岡の身代わりにでもしてんのか?
なんて思ってしまったことがあったのも確かで。
今は、愛を高岡の身代わりになんて、そんなことありえなくて……。
けど、その時のことを覚えている俺には、若干の後ろめたさが全くないと言えば嘘になる。
そんな俺には、
「……愛?」
涙で濡れる愛の悲しげに憂いを帯びた綺麗な瞳を、ただじっと見つめ続けることしかできなくて。
俺の腕の中でずっと泣いてた愛が、急に我に返ったように俺の腕の中から抜けだして、寝室から出て行くのを、慌てて引き留めようと手を伸ばすも――。
「……ヤダ、放してっ!」
いつものように勢いを取り戻した愛の手によって、俺のことを拒絶するように力強く振り払われてしまった。
それでも俺は、なんとかして愛の誤解を解きたくて……。
愛を引き止めようとした瞬間。
お約束のように、勢い任せに立ち上がった愛の脚が、俺の急所である下半身に狙いを定めたように、見事にクリーンヒットしてしまって。
情けないくらいに可哀想な俺は、
「……っ!!!」
その場に蹲り悶えながら、身動き一つ取れなくなってしまったのだった。
そんな哀れな俺が取り残された寝室には、出入口のドアが勢いよく叩きつけるように閉ざされた音だけが虚しく響いていた。
いつもみたいに、怒って勢い任せに俺に突っかかってきてくれよ……。
お前が泣き止んでくれるんだったら、カッコ悪くたっていい、情けなくたっていい。
愛のためだったら俺はなんだってやってやるから……。
なんて、柄にもないことを真剣に思っていた。
そんな祈る想いで、愛を抱きしめ続ける俺は、あぁ、愛のこと、こんなに好きになってたんだなってことを改めて思い知らされた……。
思えば、愛のことは正直言って俺のタイプじゃなかったし、まさか愛のことを好きになるなんて思いもしなかった。
あの夜、酔っ払った愛の弱い部分を目の当たりにしてからは、自分でも気づかないうちに、いつものツンツンした愛と違うそのギャップに惹きつけられドップリと嵌っていた。
今じゃ、愛以外なんて考えられなくなっちまってる……。
高岡芽衣のことがあんなに好きだったはずなのに……。
高岡の好きな男が、腹違いの弟である五十嵐海翔だったと知って、あんなに辛かったはずなのに……。
そんなことは、いつの間にか遥か遠くに霞んでしまってて。
早くアイツラのように愛と結婚して、アイツラに負けないくらいあったかい家庭を築きたいなんて思ってしまってる。
我ながら、愛への溺愛ぶりに、呆れ果ててしまうくらいだ。
愛のぬくもりを、もっと近くで感じてたくて。
愛の頭の後ろに手をそっと添えて、支えるようにして優しく抱き寄せた俺の耳に、
「……めん……どう……に、なっちゃったんでしょ?」
いつも強がってばかりいる愛のものとは思えねぇような、今にも消えてしまいそうなくらいの……
小さくてか細い声が流れ込んできた。
一瞬、愛が、何のことを言ってるのかが解らなくて。
涙でグチャグチャになってる愛の表情をうかがうべく。
覗き込むようにして見つめながらなるだけ優しい声で、
「……ん? 何が?」
やんわりと問いかけて先を促した。
そしたら、愛が、俺のことをスゲー悲しそうに、涙で潤んだ憂いを帯びた綺麗な黒目がちの瞳で、真っ直ぐに見つめてきて。
「……私、のこと……。芽……衣、さんの、身代わり、なんでしょ……」
想像もしていなかったものが、愛おしい愛の口から飛び出してきた。
愛との未来を思い描いていた俺に、まるでピシャリと冷水を浴びせるようにして。
まさか、今、このタイミングで、他の誰でもない愛おしい愛の口から、高岡芽衣の名前を聞くことになろうとは……。
夢にも思っていなかった俺は、ただただそれが驚きでしかなかった。
けれど、最初、愛のことを好きだと気づいた時に、俺自身も愛と同じように、部下だった高岡の身代わりにでもしてんのか?
なんて思ってしまったことがあったのも確かで。
今は、愛を高岡の身代わりになんて、そんなことありえなくて……。
けど、その時のことを覚えている俺には、若干の後ろめたさが全くないと言えば嘘になる。
そんな俺には、
「……愛?」
涙で濡れる愛の悲しげに憂いを帯びた綺麗な瞳を、ただじっと見つめ続けることしかできなくて。
俺の腕の中でずっと泣いてた愛が、急に我に返ったように俺の腕の中から抜けだして、寝室から出て行くのを、慌てて引き留めようと手を伸ばすも――。
「……ヤダ、放してっ!」
いつものように勢いを取り戻した愛の手によって、俺のことを拒絶するように力強く振り払われてしまった。
それでも俺は、なんとかして愛の誤解を解きたくて……。
愛を引き止めようとした瞬間。
お約束のように、勢い任せに立ち上がった愛の脚が、俺の急所である下半身に狙いを定めたように、見事にクリーンヒットしてしまって。
情けないくらいに可哀想な俺は、
「……っ!!!」
その場に蹲り悶えながら、身動き一つ取れなくなってしまったのだった。
そんな哀れな俺が取り残された寝室には、出入口のドアが勢いよく叩きつけるように閉ざされた音だけが虚しく響いていた。
0
お気に入りに追加
390
あなたにおすすめの小説
冷血弁護士と契約結婚したら、極上の溺愛を注がれています
朱音ゆうひ
恋愛
恋人に浮気された果絵は、弁護士・颯斗に契約結婚を持ちかけられる。
颯斗は美男子で超ハイスペックだが、冷血弁護士と呼ばれている。
結婚してみると超一方的な溺愛が始まり……
「俺は君のことを愛すが、愛されなくても構わない」
冷血サイコパス弁護士x健気ワーキング大人女子が契約結婚を元に両片想いになり、最終的に両想いになるストーリーです。
別サイトにも投稿しています(https://www.berrys-cafe.jp/book/n1726839)
無限悲劇ループの中に囚われてしまった大好きな婚約者を救い出す、絶対に負けられない戦い
待鳥園子
恋愛
侯爵令嬢レティシアは、もうすぐ結婚する十年来の婚約者、騎士団長ジークフリートが、一も二もなく大好き。
ある日のお茶の途中、突然体調を崩したのを発端に、塞ぎ込んでしまったジークは「もうすぐ、君は僕の親友のアルベールと僕を裏切るんだ」と、涙ながらに訴えた。
「やっと結婚出来るっていうのに……そんな悲劇、絶対に冗談じゃないわよ!!」と、彼が囚われているという悲劇の繰り返しを、自分が断ち切る決意をしたレティシア。
婚約者を好きで堪らない令嬢が、繰り返す悲劇を見過ぎて心を折られてしまった騎士団長を、どうにかして救い出すお話。
隣人はクールな同期でした。
氷萌
恋愛
それなりに有名な出版会社に入社して早6年。
30歳を前にして
未婚で恋人もいないけれど。
マンションの隣に住む同期の男と
酒を酌み交わす日々。
心許すアイツとは
”同期以上、恋人未満―――”
1度は愛した元カレと再会し心を搔き乱され
恋敵の幼馴染には刃を向けられる。
広報部所属
●七星 セツナ●-Setuna Nanase-(29歳)
編集部所属 副編集長
●煌月 ジン●-Jin Kouduki-(29歳)
本当に好きな人は…誰?
己の気持ちに向き合う最後の恋。
“ただの恋愛物語”ってだけじゃない
命と、人との
向き合うという事。
現実に、なさそうな
だけどちょっとあり得るかもしれない
複雑に絡み合う人間模様を描いた
等身大のラブストーリー。
【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜
雪井しい
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。
【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】
☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆
※ベリーズカフェでも掲載中
※推敲、校正前のものです。ご注意下さい
溺愛ダーリンと逆シークレットベビー
葉月とに
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。
立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。
優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
もつれた心、ほどいてあげる~カリスマ美容師御曹司の甘美な溺愛レッスン~
泉南佳那
恋愛
イケメンカリスマ美容師と内気で地味な書店員との、甘々溺愛ストーリーです!
どうぞお楽しみいただけますように。
〈あらすじ〉
加藤優紀は、現在、25歳の書店員。
東京の中心部ながら、昭和味たっぷりの裏町に位置する「高木書店」という名の本屋を、祖母とふたりで切り盛りしている。
彼女が高木書店で働きはじめたのは、3年ほど前から。
短大卒業後、不動産会社で営業事務をしていたが、同期の、親会社の重役令嬢からいじめに近い嫌がらせを受け、逃げるように会社を辞めた過去があった。
そのことは優紀の心に小さいながらも深い傷をつけた。
人付き合いを恐れるようになった優紀は、それ以来、つぶれかけの本屋で人の目につかない質素な生活に安んじていた。
一方、高木書店の目と鼻の先に、優紀の兄の幼なじみで、大企業の社長令息にしてカリスマ美容師の香坂玲伊が〈リインカネーション〉という総合ビューティーサロンを経営していた。
玲伊は優紀より4歳年上の29歳。
優紀も、兄とともに玲伊と一緒に遊んだ幼なじみであった。
店が近いこともあり、玲伊はしょっちゅう、優紀の本屋に顔を出していた。
子供のころから、かっこよくて優しかった玲伊は、優紀の初恋の人。
その気持ちは今もまったく変わっていなかったが、しがない書店員の自分が、カリスマ美容師にして御曹司の彼に釣り合うはずがないと、その恋心に蓋をしていた。
そんなある日、優紀は玲伊に「自分の店に来て」言われる。
優紀が〈リインカネーション〉を訪れると、人気のファッション誌『KALEN』の編集者が待っていた。
そして「シンデレラ・プロジェクト」のモデルをしてほしいと依頼される。
「シンデレラ・プロジェクト」とは、玲伊の店の1周年記念の企画で、〈リインカネーション〉のすべての施設を使い、2~3カ月でモデルの女性を美しく変身させ、それを雑誌の連載記事として掲載するというもの。
優紀は固辞したが、玲伊の熱心な誘いに負け、最終的に引き受けることとなる。
はじめての経験に戸惑いながらも、超一流の施術に心が満たされていく優紀。
そして、玲伊への恋心はいっそう募ってゆく。
玲伊はとても優しいが、それは親友の妹だから。
そんな切ない気持ちを抱えていた。
プロジェクトがはじまり、ひと月が過ぎた。
書店の仕事と〈リインカネーション〉の施術という二重生活に慣れてきた矢先、大問題が発生する。
突然、編集部に上層部から横やりが入り、優紀は「シンデレラ・プロジェクト」のモデルを下ろされることになった。
残念に思いながらも、やはり夢でしかなかったのだとあきらめる優紀だったが、そんなとき、玲伊から呼び出しを受けて……
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる