【R18】ありえない恋。

羽村美海

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episoudo:6

#10

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 しばらくの間、私の唇の感触を味わうかのような、優しいソフトな口づけが何度も繰り返された。

 そのうち、優しいソフトなキスに、私の心も身体も全てが痺れ溶かされて、まるで主任に取り込まれてひとつに交わった感覚に陥って。

 その生まれて初めて味わう感覚に、主任の優しくも逞しいあったかい腕に包まれ、委ねたままの背筋がゾクリと慄《おのの》き、これから繰り広げられるであろう

 ーー未知の領域へと、踏み込むことが途端に怖くなる。

 そんな怖さを、なんとか紛らわせるために、主任の身体にギュッと力強くしがみつくことしかできなくて。

 そんな私の耳に、主任の自嘲するような困ったような掠れた声が流れ込んできた。

「……お前、可愛すぎ……。加減してやりてぇのに、してやれそうにない……」

 その意味を考える間もなく、僅かな隙間から主任の熱いザラついた舌が挿し込まれ。

 角度を変えて重ねられる唇や舌に執拗に追い詰められて。

 優しかった口づけがドンドン熱くて激しいモノへとなってゆく。

「……ん、ふぅ……ンン」

 時折、自分のモノとは思えないくらいの厭らしい声を響かせながら、息をつく間も与えられない程、狂おしい程に……。

 妖艶な大人のフェロモン全開な主任によって、絶え間なく与えられる熱くて痺れるような甘い刺激に、頭の芯が少しずつ侵食されて、思考は蕩けて蒸発し霧のように白く霞んでゆく。

 主任に絡まされる熱によって、私の全てをどこか遠くへ持っていかれそうで怖くなる。
 
 もう、なんにも考えることなんてできなくて……。

 やがて、そんな身も心も蕩け切った私の背中から太腿を、主任の大きな掌が行ったり来たり、まるで生き物のように官能的に蠢き始めた。

 それに伴い、私の唇を貪っていた筈の主任の燃えるように熱い唇と舌とが、ゆっくり私の唇から離れたかと思うと。

 顎のラインを掠めるようにして首筋から鎖骨へと這ってゆく。

「……んっ……ふぅ」

 その度に、背筋をゾクリ、ゾクリと、今まで感じたこともない甘い痺れが這い上がり、声色もだんだん甘ったるいモノへとなってゆく。

 まだ薄暗い部屋の中、主任の乱れた吐息と自分の艷やかな甘い声色で埋め尽くされてしまった。

 主任の掌が、唇が、舌が、熱く血を滾《たぎ》らせ、燃えるように火照った身体を這いまわってゆく。

 その度に、熱く蕩けた身体がもう自分のモノなのか、主任のモノなのかも判別がつかないほどにその何もかもの感覚が全て狂わされてく。

 自分が自分じゃなくなってくその感覚に、頭のどこか奥の方に封じ込めていたモノが、色褪せていた筈の遠い記憶の断片が引き出され。

 脳裏にモノクロの映像として映しだされていく。

 その途端、あの日味わった衝撃が恐怖と一緒に蘇る。

 身体はガタガタと音を立てて、崩れ落ちていく錯覚にとらわれる。

 その瞬間、自分の身体に触れてる主任の姿が、思い出したくもない男の影と重なって。

 気づいた時には、主任の身体を必死になって両手で押し返していた。

 身体も、ガタガタと小刻みに震えはじめ、私の異変に気づいた主任の心配そうな呼びかけにも応じることができなくて。

「……黒木?」

「……っ……ヤァ! 触らないでぇ!」

 気づいた時には、泣きながら、そう叫んでしまっていた。
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