【R18】ありえない恋。

episoudo:６

#２

　どれほどの時間が経っただろうか……。

　きっと数十秒か、はたまた数分か、それほど長い時間ではなかっただろう僅かな間を置いて、


「……く、苦しい…」


俺が強く抱きしめていた所為で、黒木がもう堪らないとばかりに、両手で俺の胸を押し返しながら苦しげな声で訴えかけてきた。

　俺は、黒木を抱きしめる腕の力を緩めてから少し身を離し、ゆっくりと黒木の肩を両手で優しく掴むと。

　黒木の顔を正面から覗き込むようにして近づいて、優しい微笑みを浮かべながら、なるだけ優しく囁くようにして声をかけてみた。


「あぁ、悪い……。大丈夫か？」

「////」


　すると、黒木はさっきよりも首から上を真っ赤にさせて、俺にそんなところを見られるのが嫌なようで。

　顔を隠すように俯き気味に、シートに座っている自分の膝に視線を固定せると。

　はじめはブツブツと呟くような小さな声だったのが。

　今度こそ、やっと俺の存在が現実のことだということに気づいた黒木は、ガバッともう一度俺に視線を向けてくると。

　目を白黒させて、大きな声を出して固まってしまったのだった。


「……夢でも、幻でもないってことは……。ええっ！？　ほ、ほ、本物の主任ってことっ！？」


　俺を瞳に映したままの黒木があまりにも驚いているもんだから、そのリアクションについつい吹き出してしまった俺は、黒木が怒ってしまわないように慌てて、笑って緩んでしまった口をなんとか引き締めつつフォローしたのだが。


「プハッ……あ！イヤ、悪い」

「……ひ、酷い」


　俺の反応を見た黒木は、さっきまで驚いた表情をしていた顔を、今度は泣くのをグッと堪えているのか。

　グニャリと僅かに歪ませたかと思えば、俺の顔を見つめてた瞳をユラユラと揺らめかせながら、ボソリと悲痛な声で小さく呟いて。

　そのまま俺の視界から逃げ出すようにして、ガバッと勢いよく顔を俯かせてしまった。

　
「黒木、泣いてるのか？　ごめん……。お前があんまり可愛い反応するからつい笑ったりして、悪かった」

「なんだ、そうだったんだ？　相川さんと、私のことからかってたんだ？」


慌てた俺が、黒木の肩を掴んだままで、黒木の顔を覗き込むようにして謝れば。

　黒木はやっぱり顔を俯かせたままで、泣いているのか僅かに声を震わせながら、なにやら思いついたようにボソボソと呟いた。