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episoudo:4
#5
しおりを挟む「ーーまぁ、せいぜいフラれないように頑張れよな?」
もう、これ以上この話題を広げたくなくて。
ソファにゆっくり身体を預けながら、適当なことを言って目を閉じていると、
「あっ! そういえばさぁ? 相川さんに黒木のこと頼まれなかった? 行ったんだろ? 日本食品。俺にも頼まれたんだけどさぁ、黒木が俺の言うことなんて聞いてくれねぇって思って、上司の直ちゃんに言ってみればっ……て言ったんだよ……。相川さん、メチャクチャ黒木のこと気に入ったみたいでさぁ?」
今度は、相川経由での黒木の話題になってしまい。
まだできたばっかの傷口に塩でも塗り込んで、グリグリ抉られてるような気持ちになってくる。
まぁ、けど、黒木は部下な訳だし、チャラ男の同期でもあるんだし、こうやって黒木の話題が出てきても不自然でもなんでもない訳で。
イチイチ気にしてもいられねぇから、話は続けるしかねぇんだけど……。
「……あぁ、そうみたいだな? まぁ、でも、さすがに上司って立場使うのもなんだから、断ったけどな…」
「へぇ……。そうだったんだぁ?」
でも何故か、さっきからチャラ男が、やけにニヤニヤとしてるように見えてしまうのは、俺のただの気のせいか?
あー、もう、今度は被害妄想かよ?
チャラ男のクセに幸せそうな面しやがって……。
黒木の友人こと”舞ちゃん”と付き合えるのが嬉しくて堪んねぇのか、やけに、幸せそうなチャラ男を見ていると、悔しいけどちょっと羨ましいような、なにやら複雑な気持ちになってしまった。
コイツって、見た目もチャラくて軽そうだし、言ってることだって、かなりチャラくて軽いけど。
ただ感じたことを、思ったまんま口にしてるだけで、それって、自分の気持ちに正直に生きてるってことなんだよな?
俺って、いつからこんなつまんねぇ男になっちまったんだ?
どうしてこんなに、慎重になっちまったんだ?
高岡芽依の時は石橋を叩きすぎたがために、気づいた時には五十嵐海翔にかっさらわれてたし……。
慎重になってしまったせいかなんなのか、自分の部下を想う気持ちと、黒木に対しての想いの区別もつかないなんて、成長どころか後退してんじゃねぇかよ……。
黒木に嫌われてしまってから気づくなんて、これじゃ、情けなさすぎて、目も当てられねぇじゃねぇかよ……。
あぁ、ダメだ……。
いくらアルコール摂っても少しも酔えなくて,頭が冴えるばっかりなのに、冴えてる筈の頭が働いてくれなくて、考えがうまくまとまんねぇ……。
そんな頭に靄《もや》が掛かったような状態の俺は、チャラ男拓哉のニヤケ面を軽く睨みつけながら、もう生ぬるくなっちまったマッズいビールを一気に飲み干したと同時、
「……けどさぁ、直ちゃんが断っても、相川さん、黒木のこと簡単には諦めないと思うんだよなぁ?」
「……そうか? 電話で一度話しただけで、そんなに執着しねぇだろ? 普通…」
少しだけニヤケ面を引き締めた拓哉がボソッと独り言のように呟くような声を零した。
何故かいつまでも、その言葉が俺の耳のどっかに引っ掛かっていて。
酒に酔った拓哉がテーブルに突っ伏して寝落ちしてからも、酒に酔うどころか、冴えてしまって寝付くこともできない俺の働かない頭の中で、グルグルと渦巻のようにまわり続けていた。
その拓哉の勘は当たることになる。
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