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episoudo:2
#7 *黒木愛side*
しおりを挟む主任の部屋のバスルーム。
少し前までの、あの勢いはどこへ行っちゃたんだろう、って思うくらい、ドップリと沈んでしまった気持ちを抱えたまま、湯船に重たい身体ごと一緒に沈めている。
「ハァー…」
そんな私の口からは、もう何度目かなんて解んないほどのたくさんの溜息が駄々漏れになっている。
もうこのまま、このお湯に溶けて消えてなくなってしまいたい……。
ーーあぁ、もう最悪だよ。
まさか、酔っ払って記憶を無くしたなんて、ありえない。
しかも主任の目の前で、暑いって言いながら服や下着まで脱いじゃったなんて。
確かに、元々お酒はそんなに強い方じゃないけど、今までそんなこと一度もなかったっていうのに……。
やっぱり、あのチャラ男に無神経なこと言われて、カーッて頭に血が上っちゃったせいだ。
ーーあんのチャラ男め!
ーー今度会ったら返り討ちにしてくれる!
ーーあー、もう、思い出しただけでもムカムカする!
なんて息巻いたところで、昨夜の大失態が無かったことになる訳じゃなし。
ーーあ~ぁ、主任と顔合わせるの嫌だなぁ……。
なんてこと言っても、職場の上司なんだから、会社に行けば嫌でも、毎日、顔を合わせなきゃなんない訳で。
バスルームを拝借した私は、主任の用意してくれた簡単な朝食を、気まずい空気が漂う沈黙の中で済ませることになった。
そして現在、何度も断る私に
『どうせ残業で遅くなったら送ることになるんだし、家まで送る』
そう言い張って聞いちゃくれない、いつもの偉そうで強引な主任によって、車で家まで送って貰っている。
チャラ男と色々あったにせよ、昨夜は酔っ払いから助けて貰っているし。
それに、主任には、部屋に泊めて貰ったんだし。
昨夜から迷惑を掛けてしまってばかりで、本当に申し訳ないなぁ、とは思うんだけど。
どうしても、気まずくて仕方なくて、主任の顔を見ないように、助手席側の窓から流れていく街の景色を、窓に穴が開くんじゃってくらいに見つめているのだった。
そんな私の耳に、
「なぁ、黒木。まだ気にしてんのか?」
主任の呑気な声が流れ込んできた。
ーーまだ、気にしてるのかって……?
ーーんなの気にしない方がオッカシイんじゃないの?
そう思った私は、さっきまでの気まずさはどこへやら、キッと運転中の主任目掛けて、これでもかってくらいの、射抜くほどの鋭い視線を投げつけてやった。
それなのに、主任ときたら……。
「ハハ、やっといつもの調子に戻ってきたな?」
私の視線なんてなんともないって感じで、ヘラヘラといつものように笑ってて。
挙句の果てに、
「いっつもツンツンしてるヤツにウジウジされたら、調子が狂うだろ?
酒に酔ってた時のことは気にすんな。俺も眠くて、あんま覚えてねぇんだし……。
おーい、どした?ボケッとして。聞いてんのか?」
何がそんなに楽しんだか、終始ニコニコとバカみたいに楽しそうに笑いながら、何故かこっちに向かって、手をスーッと伸ばしてきた。
何? って思って、ポカンとその手を見つめていると……。
あろうことか、私の頭をポンポンって軽く撫で始めたかと思えば、チラッと視線をこちらに向けて、ニッコリ笑顔までお見舞いされてしまった。
今まで見たこともないような、梅雨のどんよりとした空の下には、似つかわしくないような、嫌味なほどキラキラとした眩しいくらいの笑顔を……。
やっぱり、仕事以外の主任はいつもと違ってて、私の調子は狂わされてばっかりで、心臓もドキドキと落ち着かないし、どうも苦手だ。
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