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#6
しおりを挟む私と主任との会話を聞いてた松岡拓哉が主任を軽く睨みながら、
「直ちゃんダメじゃん! 仕事の話は、なしなし。プライベートなんだし」
注意されて、
「ん、あぁそうだな。ごめんな、黒木…」
なんて素直に從って、こっちにまで謝ってこられてしまい。
「……あぁ、いえ別に」
いつもの強気で暑苦しい雰囲気と違ってるせいか、どうも調子が狂ってしまう。
まぁ、プライベートだし、仕事の時みたいに暑苦しく語られても困るんだけど。
そんなことを考えてたら、
「そういえばさ、黒木って彼氏いんの?」
思い出したように松岡拓哉に話を振られて、
「なんでそんなこと答えないといけないんですか?」
キッと睨みながらわざとらしく敬語で返せば……。
「挨拶みたいなもんだろ。
俺ら同期なんだし、そんな敬語でツンケン怒ることねぇじゃん……。別に処女かどうか聞いてる訳じゃねぇんだし」
なにやらブツブツ文句を言いながら投げられた最後の言葉に。
不覚にも動揺してしまった私は、飲みかけてたモスコミュールを、危うく吹き出すところだった。
前々から、チャラいヤツだとは思っていたけど。
まさか、ここまでとは思わなくて油断してしまってた……。
隣の舞が「大丈夫?」って声をかけてくれてると。
主任がチャラ男の頭をパシっと叩きながら、
「拓哉、お前飲み過ぎっ! 黒木、悪い。コイツだいぶん酔ってるし、大目に見てやって…」
そうは言ってフォローしてはくるんだけど。
「俺、そんな酔ってねぇし……。何? 動揺しちゃったの? まさか処女じゃあるまいし。黒木って意外と可愛いとこあんだな」
酔ってないって言いながら、如何にも酔っぱらいですって顔に書いてそうなヤツは、ヘラヘラしながら楽しそうにまだしつこく言ってくる。
許されるものなら、今すぐチャラ男の首を絞めて息の音を止めてやりたいくらいだ……。
怒りが頂点に達した私は、
「ウルサイわねっ! この酔っ払い! 処女で悪かったわねぇ……。アンタみたいなチャラい男に可愛いなんて言われても嬉しくなんかないのよ。ばっかじゃないの!」
見事な啖呵を切っていた。
私が凄い剣幕で言い切った瞬間、酔っ払いのチャラ男は勿論、主任も凍り付いたように固まった。
舞は私の気性を熟知してるため、またかって感じで苦笑していると思われる。
そんなのイチイチ確認できるほどの冷静さなんて持ち合わせちゃいないけど……。
このシーンと水を打ったかのような沈黙に耐えられなくなった私は、近くに置いてあったバッグを引っ掴むと。
「どうもお邪魔しました! お休みなさい!」
テーブルの上に、迷惑料のつもりで、財布から乱暴に出してクシャクシャになった万札を叩きつけて。
ドスドスという足音を部屋中に響かせながら廊下へ続くドアを潜りぬけ、逃げるようにして玄関ホールへと一目散に向かった。
玄関へと向かう途中、
「おい、黒木、こんなの受け取れねぇし、待てってっ。遅いから送ってく」
私達を送るため、お酒を飲んでいない主任の声が追いかけてきたけど……。
そんなの無視してヒールに無理やり脚を突っ込んだ。
なんとかヒールに脚をねじ込んで、玄関ドアを開けて一歩脚を踏み出した瞬間。
ガシッと腕を強く掴まれて、そのまま後ろにグイッと強く引き寄せられ、
「お前、ちょっと落ち着けってっ。そんなにバタバタ動き回ったら酔いが回るだろっ?」
主任に強い口調でそう言われて。
ーー偉そうに……。
ーーそんなこと言われなくても解ってるわよっ!
てな感じで、またまた頭に血が上ってしまい。何か言い返してやろうと思って、後ろの主任の方に向き直ろうと思った瞬間。
どういうわけか、いきなり視界がグニャリと歪んだかと思えば、身体のバランスまで保てなくなってしまって。
その場にヘニャヘニャと崩れ込んでしまった。
まるで頭を誰かに強く揺さぶられてるみたいな感覚に、頭がグワングワンと鈍い痛みを訴え続ける中。
身体に優しいぬくもりと柔らかな感触を感じながら意識が遠のいていった。
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