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エピローグ
①
しおりを挟む秀は事故で母親を失ったとき、母を救えなかった父の無力さに失望し心を閉ざしてしまった。
物心ついた頃からあの日まで、秀は父を尊敬し、父と同じ医者になることを夢見ていただけにショックが大きかったせいだ。
元々人見知りだというのもあって、それ以来ますます周囲と距離を置くようになっていった。
だが秀は、恋に出会ったことで救われた。
その頃はまだ恋に対する自分の感情が何かもわからずにいたが。あのとき、秀が恋をかばって刺されてしまったことで、恋がPTSDになってしまい、男性恐怖症も併発して、それきり恋とは会えなくなってしまった。
まだ中学生の秀にはどうすることもできないでいた。
おかげで、母を救えなかった父の気持ちを知ることとなって、今の医療では無理でもいつか救えるようになるかもしれない、そう思えるようになれたから、こうして今、父と同じ脳外科医をしている。
そういう意味でも、今の自分があるのは、恋の存在があったからこそだ。
ーーいつか恋の症状が落ち着いたら、秀の医師である父親のことを恋が凄いと言って目をキラキラ輝かせ、『お医者さんのお嫁さんになりたい』と言っていた、医者になって、とびきりロマンチックな出会いを果たしてやる。
そんな想いを胸に掲げて、それまで以上に勉強にも励んだ。
挫けそうになったときや恋に会いたくなったときには、店の近くまでこっそり行ったことも一度や二度ではない。
そのことで文から何度もストーカー呼ばわりされて茶化されているうち、自分でも情けなくなってきて、『これで最後だ』なんて思いながらもやめることができなかった。
そのうち、恋がどんどん綺麗になっていって、モヤモヤする感情に気づいてはじめて、恋への感情が何かを知ることになった。
それから月日が流れ、念願叶ってようやく再会を果たすことになったのに、まさかそれまで以上に恋の男性恐怖症が酷くなるなんて。ついてないとしかいいようがない。
女装男子として親友という座を手に入れてから一年間、本当に気が狂いそうだった。
こんなにも近くにいるのに、手に触れることもできないなんて、どんな拷問だよと、心の中で何万回毒づいたかわからないほどだ。
それだけの想いをしたからこそ、この上ない幸せと喜びを味わうことができているのかもしれないが、もうあんな想いをするのは御免だ。
ーーやっとだ。やっと恋と心から結ばれて正式な夫婦になることができた。もう嬉しくて嬉しくてどうしようもない。
興奮しすぎて一睡もできなかったほどだ。
秀は自分の腕の中で眠りこけている、愛おしくてどうしようもない恋の無防備な寝顔を嬉しそうに見つめては、ほんのりと桃色に色づいた柔肌に口づけを落とし続けている。
ーーもうこのままずっと眠っていてくれたらいいのに。それが無理なら監禁でもしておくか。
なんてことを案外本気で思いつつ、甘やかなキスを降らせる合間に、柔らかな髪を撫でるように梳いてみたり、やりたい放題だった。
そうとも知らずに恋は幸せそうに熟睡していて、時折、寝ぼけた恋が舌足らずの可愛らしい声で「す、ぐる」などと呼ぶものだから、ようやく鎮まりかけていた秀の雄の本能がみるみる漲ってしまう。
ーーヤバい。やっとおさまってきたのに、また勃ってきた。
あんなにも濃厚でかつ長い時間、恋のことを独り占めしていたというのに……。
未だ離れるのが嫌で、恋のナカで静かに息を潜めていた欲の塊が最大限に膨張し、眠ったままなのをいいことに、なかなか萎えてくれない自身の欲望をなんとか鎮めるためだなどと言い訳をしながら、愛してやまない恋の身体をゆるゆると揺さぶっては、甘味な快楽の狭間でいつまでもいつまでも揺蕩い続けた。
いつしか夜も明け、眩い陽光が差し込む豪奢なスイートルームにはーー
「恋が可愛すぎてもう我慢の限界だ。悪いが付き合ってくれないか?」
「ええッ!? ウソでしょ? 今起きたばっかーーあっ、やんッ! すぐ、るっ、ひゃ、ぁああん!」
寝起きで襲われた恋の悲鳴じみた艶めかしい嬌声と興奮しきり野獣と化した秀の、咆哮のような呻き声の合間に、恋と秀の結合部から蜜が飛び交う、淫猥な水音とが絶えず響き渡っていた。
秀は恋のことを愛しながら、妻のことをどれほど好きかを再確認し、恋は、秀から深くて重い愛を絶えることなく身体に注ぎ込まれ、夫の愛がどれほどのものであるかを身をもって実感させられたのだった。
どうやらふたりにとっての初夜はまだまだ明けることはないようだーー。
~END~
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