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崖っぷちに神様もとい俺様降臨!?

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 カレンは多忙を極める脳外科医であるらしく、ホテルの最上階であるこのスートルームは仮住まいとして年間契約しているというのだから驚きだ。

 さすがお医者様、至って普通の庶民である恋とは住む世界が違う。

 カレンの生い立ちなど知らないが、威風堂々とした俺様口調や、どことなく品のある振る舞いからして、代々医者の家系だったりとかするのかもしれない。

 だとしたら、生まれ育った環境も違えば、見た目だってこうも違うのだから、当然かもしれない。

 恋はやけにすんなりと受け入れていた。

 生涯自分とは関わることのない世界だと思っていたからこそだ。それなのに……。

「恋、俺と結婚してくれないか?」

 未遂とはいえ、親友である女装男子のカレンと一夜を共にしてしまったうえに、まさか、いきなりプロポーズを申し込まれることになろうとはーー。

 よく小説で青天の霹靂などというが、まさにそれ。

 足元から竜が上がる、煙が出る、ということわざにもあるような、そんな突拍子もない状況なのだ。

 ーー驚くのも当然だ。

 悪酔いしてしまった恋を介抱するために、仮住まいであるこのスイートルームに連れて来て、介抱しているうち、恋がカレンを母親と間違って甘えてしまったがために、こういうことになってしまった。という説明を受けたばかりだ。

 そして、これまでカレンが異性に恋愛感情を抱けないことを思い悩み、ゲイだと結論づけてきたのだという。

 だが、恋に対して欲情したのだから、ゲイではないらしいことを確信したらしい。

 女装とお姉口調に関しては、人の生き死にを左右するという、ストレスフルで多忙を極める医者という職業柄、それを払拭するための気晴らしなのだという。

 それも週末の夜限定。

 そのため今は、爽やかなイケメンに似合いそうな、シンプルなシャツにパンツを合わせたラフは格好だが、男性恐怖症である恋を気遣って、ウィッグはそのままにしてくれている。

 けれど、ノーメイクなのにきめ細やかな肌は白いし、うる艶で、このままでも充分女性で通りそうなのだから、何とも羨ましい限りだ。

 どうして男性恐怖症だと知っていたかの問いには、『そんなの医者なんだから、当然だ』やけに自信たっぷりに答えてくれた。

 ーーへぇ、さすがお医者様。そんなことまでわかっちゃうんだ。

 感心した恋があっさり納得しかけていたところに、突然空から降ってきたかのような吃驚発言だったのだ。

 驚かない方がどうかしていると思う。

「ーーはっ!?」

 驚愕のあまり、恋は裏返った声を放ったまま、ポカンと開いた口が塞がらないという何とも間抜けな顔を晒していた。

 対してカレンは心外だとばかりに、ムスッとした表情で不機嫌そうな低い声音を響かせる。

「なんだ。その反応は? もっと他に反応があるだろうが」

 ……というが、これでは逆ギレではないか。

 そうは思っても、そんなことを突っ込むような余裕などない。今の恋にはこの反応が妥当だと思うのだが。

 まさか、恋人からの思いがけないプロポーズにキャッキャと喜ぶ可愛い彼女のような反応を示せという意味なのだろうか。

 ーーいやいや、絶対に違うだろう。

 けれどいくらなんでも、好きでもない相手にプロポーズをするとも思えない。

 ゲイだと思い込んでいたのが違うとわかり、恋のことを稀有で特別な存在だと確信したのかもしれない。

 カレンとなら克服できるのではないかと思った恋同様にーー。

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