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崖っぷちに神様もとい俺様降臨!?

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 ーーもうヤダァ。鼻血でそう。

 起き抜けに喰らってしまった刺激的すぎるこの状況に、頭がくらくらしてくる。

 おかげで、本来ならば真っ先に気づきそうなことにも気づけないでいた。そこに。

「……その様子だと、昨夜の記憶はないようだな」

 突如、男性の落ち着き払った低い声音が耳元に響き渡ったことで、恋の意識はすぐさまそちらに集中する。

 一瞬、知らない男性のものかと思われたが、自分の他には、恋のことを抱き竦めたままのカレンの姿しかない。

「キャッ! ヤダッ、放してッ!」

 ようやく我に返った恋は、今さらながらにカレンの身体を両手でぐいぐい押し返す。

 するとやけにすんなりと腕から解放されて、カレンと向かい合う形となる。

 ハッとした恋は、大慌てで布団を手繰り寄せ、胸もとで抱きかかえるようにして覆い隠した。

 けれども、依然としてこの状況を把握できずにいるため、混迷を極めた頭では何かを発することができない。

 恋はベッドにへたり込んだまま、正面で胡座を掻いて気怠そうに長い髪を掻き上げつつ視線を落として思案する素振りを見せるカレンの姿に、釘付け状態だ。

 ちなみに、カレンの足元には布団がかろうじてかかっているおかげで、大事なところは見えないが、男らしい裸体が露わになっているせいで、視線のやり場に困る。

 なのでカレンの綺麗な顔に視線を集中させている。

 ーー寝起きなのに、綺麗。髭とか生えないのかな? それにどうしてこんなにも色っぽいんだろう。

 カレンに見蕩れているうち、自分の置かれている状況も失念して、心の中で実に呑気なことをのたまっていた。

 そんな中、気怠げに放たれたカレンの言葉ではじめて、恋は大事なことに気づく。

「そんなに警戒しなくても、朝っぱらから襲ったりしないから安心しろ。それより、男に触れられても平気なんだな。昨夜も大丈夫そうだったし。だったらあのまま躊躇せず全部もらっとけばよかったな」

 なので、後半に独り言ちるように放たれた、物騒な台詞は恋の耳には届かなかった。

 ーーそ、そういえば、カレンとあんなにも密着していたのに、なんともない。なんで? どうして? 

 カレンからの言葉によって、自分の身体に本来ならば現れるであろう、ある反応がないことに、恋は驚くとともに、大きな衝撃を受けていた。

「ウソ、どうして?」

 開いた両の掌を眼前で掲げて凝視し、右腕左腕と順を追って隈なく確認していく。

 何も身に着けていない胸もとや腹部、脇腹に脇の下、というように視線を巡らせても、何の変化も見受けられない。

 ーーも、もしかして、克服できたってことなのかな?

 ……いやいや、そんなはずはない。つい最近だって。

 ーーだったら、どうして?

 長年の悩みが解消されて、嬉しいはずなのに、それよりも驚きと戸惑いしかない。

 そんなの当然だ。

 克服できるなんて思ってもみなかったし。もう諦めていたのだから。

 恋は信じられないとばかりに自分の掌を凝視したまま黙考の真っ最中だ。

 真向かいにいるカレンの存在などすっか失念してしまっていた。

 なぜ、どうして、と自問自答を繰り返している恋の意識に、やけに低い声音が割り込んでくる。

「俺に拒否反応を示さないことが嬉しくて、つい調子に乗ってしまったが。単純に、男として意識されてないってことなのか?」

 だが内容ではなく、カレンの存在を思い出しただけだった。

 同時に、ある可能性が浮上する。

 ーーもしかして、見た目が男じゃない女装男子のカレンだから大丈夫だったってこと? だったら確かめたい。

 そんな思いが頭の中を占めていく。

 こうなれば、もう何も見えない。

 相も変わらず胡座をかいて面白くなさそうに、ぼやくカレンに構うことなく、恋はカレンの身体を押し倒す勢いで、ベタベタと身体を触りはじめる。

 綺麗な顔から始まって、首筋に鎖骨、厚い胸板からいい感じに割れた腹筋というように、カレンの身体の表面を隈なく。

 恋の突然の奇行に慄くような素振りを見せたカレンはひどく狼狽しているようだ。

「おっ、おい。何だよいきなり、やめろ。やめろって言ってるだろう? おいって」

 恋の勢いに気圧され、そのままベッドに背中から倒れ込むかと思いきや。そこはやはり男。

 非力である恋の身体を返り討ちにでもするように、恋は難なく組み敷かれてしまう。

「ーーキャッ!?」

 途端に、カレンは息を吹き返したかのような、したり顔で恋のことを見下ろしている。

  完全に形勢逆転だ。

 それに、何だろう。カレンのこの嬉々とした表情は。非常に嫌な予感がするのは気のせいだろうか。

 ーー否、気のせいじゃない気がする。そういえば、昨夜も同じことがあったような……。

 ここへきてようやく、恋の脳裏に昨夜のあれこれが走馬灯のように駆け巡る。

 とはいえ、酔っていたのでまるっと全部ではない。

 だが恋がとんでもない羞恥に苛まれるには、充分すぎるほど刺激的なものだった。

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