上 下
36 / 39

はじまりの夜 #3 ✱

しおりを挟む

 欲情に駆られた雄のような表情で私のことを翻弄していた窪塚がハッとしてすぐ、ふうと吐息を吐いた。

 どうしたのかと思っていると、独り言ちるように呟きを落とす。

「……本当に鈴は、俺のことを煽る天才だな」
「……?」

 さっき軽く達した余韻のせいで意味が理解できない。キョトンと見つめ返すのが精一杯。

 そんな私のことを悩ましげな表情で見遣ってから、自分に寄りかかっていた私の身体をヒョイと横抱きにした。

「ギャッ!?」

 お決まりの色気皆無の短い悲鳴を放った私に、柔らかい笑みを浮かべるだけで無言でスタスタと歩みを進ませる窪塚。

 そういえば、心の中でずっと『窪塚』と呼んでるけど、私も同じ『窪塚』なんだっけ。早く慣れるためにも今から『圭』と呼ぶことにしよう。

 そんなことを思っている間に、お姫様抱っこでリビングダイニングからベッドルームへと移動していた。

 圭にすぐ手前のベッドの上へとふわりと下ろされ、あっという間に組み敷かれ見下ろされている。

 何かを必死に堪えているような苦しげな表情だ。

 余裕がないながらも、なんとか暴走しないように自分を抑えようとしてくれているように見える。

 その様子に胸をキュンとさせているとぎゅうぎゅうに抱き込まれた。

「今日の鈴のウェディングドレス姿、メチャクチャ綺麗だった。誰の目にも触れないように、ずっと閉じ込めておきたくなるくらい。凄い綺麗だった」

 そうして圭に紡がれた言葉が全身を打ち振るわす。

 誰がかけてくれたどんなものよりも、圭からもらった言葉は嬉しかった。

 そしてハタと気づく。私も圭にちゃんと伝えていなかったということに。

「嬉しい。ありがとう。圭のモーニングコート姿もタキシード姿も、どれもメチャクチャ格好良くて、王子様みたいで。見蕩れちゃった」

 圭に抱き込まれていることで顔が見えないのをいいことに、思ったままを伝えると。

「……王子様……か。だっから鈴はお姫様だな」

 むくりと半身を起こした圭が今日嵌めてくれたばかりの結婚指輪が煌めく私の左手をおもむろに持ち上げ、手の甲に触れるだけの優しいキスを落とした。

 そして続けざまに宣言してくる。

「鈴はもう俺だけのものだ。死ぬまで離さないからな」

 声音同様に熱のこもった真剣な眼差しで見下ろされ、僅かに落ち着きかけていた鼓動が急激に高鳴っていく。

 これまでの圭との思い出が次々に浮かんでくる。

 大学生の頃からセフレだった頃、付き合い始めてから今までのこと。

 楽しいことばかりじゃない。でもどれもこれもかけがえのない大切な思い出だ。

 きっとこれからも圭との思い出が少しずつ増えていくのだろう。

 改めて、結婚したんだということを実感し、嬉しさの余り胸がジーンと熱くなる。

「うん」

 そう答えるのがやっとだ。

 それ以上何かを言ったら、感極まって泣き出してしまいそうだった。

 そんな私の頬にそうっと右手を差しのべた圭が、許しを請うように声を絞り出す。

「鈴の泣くの我慢する顔、すっげーそそる。もう限界だわ。けど、出来るだけ優しくする」
「うん。私も限界ーーんんっ」

 即座に答えようとした私の言葉は、途中で余裕なく身体に覆い被さってきた圭の唇に奪われていた。

 隙なく密着したことで、窪塚の下肢の中心が張り詰めている様がありありと伝わってくる。

 自分のことをこんなにも求めてくれているのだ。

 そう思うと、どうにも愛おしくて、触れたくなってくる。

 無意識に手を差しのべていた。

 けれどその前に気づいたらしい圭の手により手首を掴まれ阻まれてしまう。

「こら、またそうやって俺のことを煽ろうとする。そんな余裕なんて与えてやんねー」

 キスを止めそう宣言してきた圭によっていきなり膝を折り曲げられた。

 そして見る間に足をM字に開かれ、蜜に塗れた蕾と秘裂に顔を埋められてしまっている。

 眼前に広がる、目を覆いたくなるような卑猥な光景に、滾るように熱くなった身体が戦慄く。

 別にはじめてのことじゃない。ましてや怖いわけでもない。

 これからの情事への期待感からだ。

 今夜が夫婦としてのはじまりの夜だと思うからだろうか。

 それとも、圭が今まで見てきたなかで一番じゃないかってほどに、妖艶な色香を漂わせているからだろうか。

 きっと、何もかもすべての要因が作用しているに違いない。

 私は夫となった圭にすべてを委ねるためにそうっと瞳を閉じた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

恋とキスは背伸びして

葉月 まい
恋愛
結城 美怜(24歳)…身長160㎝、平社員 成瀬 隼斗(33歳)…身長182㎝、本部長 年齢差 9歳 身長差 22㎝ 役職 雲泥の差 この違い、恋愛には大きな壁? そして同期の卓の存在 異性の親友は成立する? 数々の壁を乗り越え、結ばれるまでの 二人の恋の物語

上司は初恋の幼馴染です~社内での秘め事は控えめに~

けもこ
恋愛
高辻綾香はホテルグループの秘書課で働いている。先輩の退職に伴って、その後の仕事を引き継ぎ、専務秘書となったが、その専務は自分の幼馴染だった。 秘めた思いを抱えながら、オフィスで毎日ドキドキしながら過ごしていると、彼がアメリカ時代に一緒に暮らしていたという女性が現れ、心中は穏やかではない。 グイグイと距離を縮めようとする幼馴染に自分の思いをどうしていいかわからない日々。 初恋こじらせオフィスラブ

身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~

椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」 私を脅して、別れを決断させた彼の両親。 彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。 私とは住む世界が違った…… 別れを命じられ、私の恋が終わった。 叶わない身分差の恋だったはずが―― ※R-15くらいなので※マークはありません。 ※視点切り替えあり。 ※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。 だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。 車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。 あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

ワケあり上司とヒミツの共有

咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。 でも、社内で有名な津田部長。 ハンサム&クールな出で立ちが、 女子社員のハートを鷲掴みにしている。 接点なんて、何もない。 社内の廊下で、2、3度すれ違った位。 だから、 私が津田部長のヒミツを知ったのは、 偶然。 社内の誰も気が付いていないヒミツを 私は知ってしまった。 「どどど、どうしよう……!!」 私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?

あまやかしても、いいですか?

藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。 「俺ね、ダメなんだ」 「あーもう、キスしたい」 「それこそだめです」  甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の 契約結婚生活とはこれいかに。

10 sweet wedding

国樹田 樹
恋愛
『十年後もお互い独身だったら、結婚しよう』 そんな、どこかのドラマで見た様な約束をした私達。 けれど十年後の今日、私は彼の妻になった。 ……そんな二人の、式後のお話。

処理中です...