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微睡みの中の着信 #1 ✱微

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 一夜明けて土曜日の朝。

 晴天に恵まれ、大きな窓の縦型ブラインドカーテンの隙間からは、小春日和のポカポカとあたたで柔らかな陽光が射し込んでいる。

 そのせいか、生活感のない空間が陽だまりのようなあたたかな光に満たされ心まで満たされていくようだ。

 私はもうすっかり見慣れた窪塚の自宅の寝室の中央の壁伝いに置かれたキングサイズのふかふかのベッドで、なんともいえない幸せな心地で目覚めた。

 もちろん隣には窪塚の姿がある。

 あるのだが、あるからこそ、諸々の問題が生じている。

 それらは主に、恐ろしくタフな窪塚がなんやかんや言ってる隙に、起き抜けから事に持ち込もうとすることだ。

 この二年間、いつしか定着してしまった朝一のお決まりのパターンとなっている。

 だからって別に嫌なわけじゃない。嫌なわけがあるはずがない。

 できることなら、私だって窪塚といつまでもこうやってじゃれ合っていたい。そう思っている。

 けれど久々のことだし、昨夜だって夕飯の前においしく食されてしまったので、事後の後始末だけに留まらずお風呂や料理の仕上げも後片付けも何もかも窪塚がやってくれた。

 ずっと忙しくて疲れてるクセに、

『結婚しても共働きになるんだし、そんなのできる方がやればいいだろ』

そう言って、やけに愉しそうにアレコレ世話を焼いてもらったから、今日こそは、窪塚のために美味しいものを作ってあげたい。と思っているのに……。

「あっ、ヤンッ。もー、ダメって言ってんでしょッ!」
「いーじゃん別に。こんな風にゆっくり過ごすのなんて久々なんだからさぁ」

 目が覚めて布団の中でじゃれ合っているうちに、いつものように窪塚は背後からスッポリと包み込んでいる私にあの手この手でちょっかいを出してくる。

 身につけているお気に入りのふわふわのルームウェアの裾から手を忍ばせて、胸の膨らみを包み込んだり、フニフニと揉んでみたり、項や耳や首筋にチュッチュッと口づけたりとやりたい放題だ。

 このままいつものお決まりコースになってしまっては、すべてが台無しになってしまう。

 そうなってしまったら、結婚してからも、なし崩し的にそれが定着してしまいそうだ。

 ーーここはなんとか阻止しなければ。

 私は私なりに窪塚のことを思ってのことだったのだ。

 だからこそ心を鬼にして、甘えたいのをぐっと堪えて、ムッとした表情で唇だって尖らせて、精一杯の抵抗を試みる。

「だって、圭ってば、絶対それだけで終わんないんだもんッ!」
「んなことねーよ。俺だって盛りがついた犬じゃねんだしさー」
「……どーだか」

 ここで、可愛くあしらったりできない私は、いつものように可愛くない態度しかとれないことが残念だし、嘆かわしいが、こればっかりはしょうがない。

「あっ、ヒッデー。鈴は俺のことそんな風に思ってたのかよ? そうかよそうかよ」

 けれども言い合っているうちに、いつもはやんわりと折れてくれるはずの窪塚が臍を曲げてしまい、終いにはムスッとして私から離れると背中を向けて完全にふて寝状態。

 そこまで怒らせてしまうとは思ってもみなくて、途端に焦り始めてしまった私は、なんとかして誤解を解こうと、窪塚の背中を揺すりつつ必死に食い下がった。

「そうじゃなくて。久々だからこそ、ずっと寝て過ごすなんて勿体ないことしたくないから言っただけなんだってば。だって結局、昨夜も料理の仕上げも何もかも全部圭にしてもらったし。今日は圭のために色々頑張りたいの。だから、機嫌直してってばぁ。ねえ、圭」

 必死になってたお陰で、目論見も何もかもをバラしてしまっていることにも、まるで気づいていないという、大間抜けぶりだ。

「なんだよ。そういうことかよ。俺はまた、苛めないとか言って結局優しくできなくて無理ばっかさせたから、それを怒ってんのかと思ったけど。そっか、そっか。そうだったのかぁ。俺、メチャクチャ愛されてんじゃん。やっべぇー」
「////ーーはぁ!? カマかけてたの? もー、圭ってば信じらんない。フンッ!」

  その上、窪塚の言動のアレコレが私の心情を探るためのものだったとわかったものだから、恥ずかしいやら悔しいやらで、今度は私がすねる番だ。

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