上 下
6 / 39

時には覚悟を決めて

しおりを挟む

 窪塚は、私の声を聞き入れるやいなや、囲い込んでいた腕にぎゅっと力を込めて私の身体を胸に抱き寄せ腰を押しつけるような体勢をとった。

 そうして続けざまに、私の身体を開いた足の間に挟んで腰を落とすと尚も擦り寄ってくる。

「どういう意味って、こんなにくっついてたらわかんだろ?」

 お陰で、耳元を擽るようにして意味深なことを囁かれるまでもなく、窪塚の下半身が既に臨戦態勢であることがありありと伝わってくる。

「本当はわかってるクセに。鈴ちゃんやらし~」

 私の頭が現状を把握したと同時に、追い打ちのように窪塚の意地の悪い声音が思考に割り込んできた。

 途端に羞恥を覚えた私が真っ赤になって苦し紛れに声を放つも、そんなものに威力があるはずもなく。ましてやなんの抵抗にもなっていないのだった。

「////ーーバッカじゃないのッ! もー知らないッ!」

 それどころか、こんなにも私のことを求めてくれているんだ。だったら一刻も早く窪塚に応えてあげたい。こうやって無駄な攻防を繰り広げるよりも、早く窪塚と一緒にめくるめく甘いひと時を過ごしたい。

 ついさっきまで窪塚のために料理の準備をと思っていたはずが、いつしかそんなことを思ってしまっている。

 窪塚のゴッドハンドもさることながら、やっぱり一月もの間、窪塚と会いたくとも会えずにいたことが相当堪えているようだ。

 だからといって、素直になりきれない可愛げのない私は、おしとやかにしおらしく、窪塚の胸にしなだれかかって甘えるなんてことはできないのだけれど。

 でもそういう私の心情など何もかも見透かしているのだろう窪塚は、その都度その都度、私のことをちゃんと導いてくれるのだった。

「おいおい、そんなに怒るなよ。こうやって鈴の匂い嗅いだだけでリラックスできてる証拠なんだしさ。それに、久々に鈴とゆっくり過ごせるのが嬉しくてどうしようもなくて、はしゃいでんだからさ。な?」

 それだけじゃない。

 窪塚は、いつもの如く、照れ隠しで少々変態チックな言い方ではあるものの、こうして私の欲しい言葉をピンポイントでとびきり甘やかな優しい声音で囁きかけてくれるのだ。

 二年前、一夜の過ちがきっかけとなって、私たちはセフレなんて言う不埒な関係にあった。

 けれども気づかなかっただけで、それ以前から窪塚のことを意識していた私は、ずいぶん前、おそらく医大の頃から窪塚のことを好きになっていたらしく。

 二年という交際期間を経た今では、窪塚のことをその頃とは比較にならないくらい好きになってしまっている。

 そんな私にとって、窪塚からの言葉は途轍もない威力を孕んでいるのだろう。

 どうにも窪塚に弱い私は、呆気ないほどにいともたやすく、窪塚のことを容認してしまうのだった。

「別に、怒ってないし」

 それがどうにも悔しくてしょうがなくもあった。

 窪塚はいつも口では情熱的に、私のことを『好きだ』『愛してる』『可愛い』とか言ってくれるけど、実際には、私の方ばっかりが好きな気がするからだ。

 だって、初めて同士のはずなのに、窪塚ときたら、付き合いはじめた当初から一貫して、全然恥じらいもしないし、いっつもいっつも窪塚は余裕をかましてくるのだ。

 対して私は、未だ全然余裕なんかなくて、窪塚に掌の上でいいように転がされてばかり。

 それはおそらく、二年前、想いが通じ合って、付き合うようになったあの瞬間から。

 いいや、きっと、一夜の過ちがきっかけで不埒な関係になったあの瞬間から、私は完全に窪塚によって掌握されていたに違いない。

 つまりはあの時点で、ロマンスバトルにおいて、窪塚に軍配が上がっていたということになる。

 すなわち、窪塚が私のことを想っているよりも、ずっとずっと窪塚のことを想っていると言うことを意味しているように思えてならないのだ。

 ここ一ヶ月というもの、窪塚と禄に会えないでいたせいか、私は時折そんなことを考えるようにもなっていた。

 いくら両想いで付き合っていようと、誰かを好きになると言うことが楽しいことばかりではないんだ、と言うことを身をもって痛感していたのだ。

 そして好きな人にずっと好きでいてもらうためには、時には素直にならないといけないんじゃないかとも思っていたし。

 会えない寂しさからか、もっともっと素直になって、窪塚に甘えたい。とも思うようになっていた。

 そうは言っても、前述のように、仕事で疲れているだろう窪塚に負担をかけたくはないという想いが大半を占めているので、どうにも踏み切れずにいたのだ。

 ーーでも、我慢ばっかりしてちゃダメだって、彩も言ってたし。たまには素直に甘えてみてもいいよね。一ヶ月ぶりなんだし。

 帰りがけに彩からもらった忠告通り、実行しようかと思っていた矢先、これまたいつものように、窪塚の嬉しそうな声音が思考に割り込んできた。

「わかってるって。そういう鈴も可愛くてたまんね~。先に、こっちが食いたいな~」

 そちらへ意識を向けると、窪塚は声音同様、嬉しそうに私の顔を覗き込んできて、甘えた口調でお伺いを立ててくる。

「////……い、いいよ。私も圭のこと傍で感じたいし」

 私は、チャンスは今だと覚悟を決めて照れくささと羞恥を堪え素直な言葉を放っていた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冷徹御曹司と極上の一夜に溺れたら愛を孕みました

せいとも
恋愛
旧題:運命の一夜と愛の結晶〜裏切られた絶望がもたらす奇跡〜 神楽坂グループ傘下『田崎ホールディングス』の創業50周年パーティーが開催された。 舞台で挨拶するのは、専務の田崎悠太だ。 専務の秘書で彼女の月島さくらは、会場で挨拶を聞いていた。 そこで、今の瞬間まで彼氏だと思っていた悠太の口から、別の女性との婚約が発表された。 さくらは、訳が分からずショックを受け会場を後にする。 その様子を見ていたのが、神楽坂グループの御曹司で、社長の怜だった。 海外出張から一時帰国して、パーティーに出席していたのだ。 会場から出たさくらを追いかけ、忘れさせてやると一夜の関係をもつ。 一生をさくらと共にしようと考えていた怜と、怜とは一夜の関係だと割り切り前に進むさくらとの、長い長いすれ違いが始まる。 再会の日は……。

【R18】豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網〜策士な後輩から逃げられません!〜

湊未来
恋愛
「ねぇ、本当に陰キャの童貞だって信じてたの?経験豊富なお姉さん………」 30歳の誕生日当日、彼氏に呼び出された先は高級ホテルのレストラン。胸を高鳴らせ向かった先で見たものは、可愛らしいワンピースを着た女と腕を組み、こちらを見据える彼の姿だった。 一方的に別れを告げられ、ヤケ酒目的で向かったBAR。 「ねぇ。酔っちゃったの……… ………ふふふ…貴方に酔っちゃったみたい」 一夜のアバンチュールの筈だった。 運命とは時に残酷で甘い……… 羊の皮を被った年下オオカミ君×三十路崖っぷち女の恋愛攻防戦。 覗いて行きませんか? ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ・R18の話には※をつけます。 ・女性が男性を襲うシーンが初回にあります。苦手な方はご注意を。 ・裏テーマは『クズ男愛に目覚める』です。年上の女性に振り回されながら、愛を自覚し、更生するクズ男をゆるっく書けたらいいなぁ〜と。

【R18】爽やか系イケメン御曹司は塩対応にもめげない

四葉るり猫
恋愛
志水美緒は入社6年目に総務から営業に異動となり、社長の次男で大学時代の同級の小林巧の班に配属される。 慣れない営業事務の仕事に、小林を狙う肉食女子の嫌がらせも加わり、美緒のストレスは増える一方。 だが、小林巧は顔がよかった。美緒好みの爽やか系イケメンだったのだ。 但し、学生時代は女ったらしだった小林に美緒は嫌悪感しかなく、もっぱら鑑賞用だった。 男性不信で可愛げがなく意地っ張りなOLと、人間不信から初恋に気付かず拗らせ、自覚した途端に暴走を始めた男の、両想いになるまでのゴタゴタ劇。 ※のある話はR18です、ご注意ください。 他サイトにも投稿していますが、アルファポリス先行です。

セカンドラブ ー30歳目前に初めての彼が7年ぶりに現れてあの時よりちゃんと抱いてやるって⁉ 【完結】

remo
恋愛
橘 あおい、30歳目前。 干からびた生活が長すぎて、化石になりそう。このまま一生1人で生きていくのかな。 と思っていたら、 初めての相手に再会した。 柚木 紘弥。 忘れられない、初めての1度だけの彼。 【完結】ありがとうございました‼

交際0日。湖月夫婦の恋愛模様

なかむ楽
恋愛
「いらっしゃいませ」 「結婚してください」 「はい。いいですよ。……ん?」 <パンののぞえ>のレジに立つ元看板娘・藍(30)の前にやって来たのは、噂では売れない画家で常連客の舜太郎(36)だった。 気前よく電撃結婚をした藍を新居で待っていたのは、スランプ中の日本画家・舜日(本名・湖月舜太郎)との新婚生活だった。 超がつく豪邸で穏やかで癒される新婚生活を送るうちに、藍は舜太郎に惹かれていく。夜の相性も抜群だった。 ある日藍は、ひとりで舜太郎の仕事場に行くと、未発表の美しい女性ただ一人を描き続けた絵を見つけてしまった。絵に嫉妬する。そして自分の気持ちに気がついた藍は……。(✦1章 湖月夫婦の恋愛模様✦ 2章 湖月夫婦の問題解決 ✦07✦深い傷を癒して。愛しい人。 身も心も両思いになった藍は、元カレと偶然再会(ストーキング)し「やり直さないか」と言われるが── 藍は舜太郎に元カレとのトラブルで会社を退職した過去を話す。嫉妬する舜太郎と忘れさせてほしい藍の夜は ✦08✦嵐:愛情表現が斜め上では? 突如やって来た舜太郎の祖母・花蓮から「子を作るまで嫁じゃない!」と言われてしまい? 花蓮に振り回される藍と、藍不足の舜太郎。声を殺して……? ✦09✦恋人以上、夫婦以上です。 藍は花蓮の紹介で、舜太郎が筆を折りかけた原因を作った師匠に会いに行き、その真実を知る。 そして、迎えた個展では藍が取った行動で、夫婦の絆がより深くなり……<一部完結> ✦直感で結婚した相性抜群らぶらぶ夫婦✦ 2023年第16回恋愛小説大賞にて奨励賞をいただきました!応援ありがとうございました! ⚠えっちが書きたくて(動機)書いたのでえっちしかしてません ⚠あらすじやタグで自衛してください  →番外編③に剃毛ぷれいがありますので苦手な方は回れ右でお願いします 誤字報告ありがとうございます!大変助かります汗 誤字修正などは適宜対応 一旦完結後は各エピソード追加します。完結まで毎日22時に2話ずつ予約投稿します 予告なしでRシーンあります よろしくお願いします(一旦完結48話

副社長氏の一途な恋~執心が結んだ授かり婚~

真木
恋愛
相原麻衣子は、冷たく見えて情に厚い。彼女がいつも衝突ばかりしている、同期の「副社長氏」反田晃を想っているのは秘密だ。麻衣子はある日、晃と一夜を過ごした後、姿をくらます。数年後、晃はミス・アイハラという女性が小さな男の子の手を引いて暮らしているのを知って……。

イケメンエリート軍団の籠の中

便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC” 謎多き噂の飛び交う外資系一流企業 日本内外のイケメンエリートが 集まる男のみの会社 唯一の女子、受付兼秘書係が定年退職となり 女子社員募集要項がネットを賑わした 1名の採用に300人以上が殺到する 松村舞衣(24歳) 友達につき合って応募しただけなのに 何故かその超難関を突破する 凪さん、映司さん、謙人さん、 トオルさん、ジャスティン イケメンでエリートで華麗なる超一流の人々 でも、なんか、なんだか、息苦しい~~ イケメンエリート軍団の鳥かごの中に 私、飼われてしまったみたい… 「俺がお前に極上の恋愛を教えてやる 他の奴とか? そんなの無視すればいいんだよ」

溺愛ダーリンと逆シークレットベビー

葉月とに
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。 立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。 優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?

処理中です...