上 下
76 / 111

#75 王子様と至福のひととき

しおりを挟む

 だだっ広い主寝室のこれまた大きなキングサイズのベッドで眠る私の瞼の裏がほんのりとあたたかみのある淡い光に照らされて、深い眠りに落ちていた意識が徐々に覚醒してゆく。

 淡い光の正体は、大きな窓を覆い隠しているカーテンの僅かな隙間から射し込んでくる陽光。今日も五月の季節に相応しい晴天に恵まれていることを知らせてくれている。

 朝から元気なお日様のお陰で、いつものようにアラームが起きる時刻を告げるよりも少しだけ早く目覚めてしまった私は、これまたいつものように「う~ん」と大きな伸びをしてからスマートフォンに手を伸ばした。

 ところが、私がスマートフォンを手にする前に、背後からチビである私の身体が創さんにスッポリと包み込まれたせいで、爽やかな朝を迎えつつあった私の頭が瞬時に覚醒してしまい。

 昨夜、初めて好きになった創さんの本物の婚約者になって、処女も捧げて、晴れて身も心も創さんのモノにしてもらった。

 その、あれこれを鮮明に思い出してしまったために、私は面白いくらいに真っ赤になって狼狽えてしまっているところだ。

「////……ええっ!? ちょ、ちょっと待ってくださいッ」

 けれども、私のことをこんな目に遭わせている張本人である創さんは、毎朝の如く私のことを抱き枕のようにぎゅうと抱きしめながら……。

「菜々子」

 昨夜のあれこれを彷彿とさせるようななんとも甘い声音で私の名前を一度だけ、愛おしげに呼んだきり、また夢の中へと誘われてしまったようだった。

――なんだ。寝ぼけてただけか。

 昨夜、処女でなくなったばかりだし、別に期待していた訳じゃないけれど、ホッとしたようなちょっとだけ残念なような、いや、正直、物凄くガッカリしてしまっている。

 はしたない心情を抱いてしまった自分に恥ずかしさを覚えつつ、胸はキュンと切ない音を奏でていて。

 私の首筋に寝顔を埋めて気持ちよさげに穏やかな寝息を立てている創さんのイケメンフェイスにそうっと自分の顔を寄せてチュッと軽く口づけてしまっていた。

――夢じゃないんだ。これからは本物の婚約者として、大好きな創さんとずっとずっと一緒に居られるんだ。

 そう思っただけで、胸の奥からあたたかなモノが満ちてきて、たちまち私の胸を熱くする。

 昨夜の創さんは、いつにも増して優しかったし、私の言動に一喜一憂する創さんのことが愛おしくて仕方なかった。

 私のことを怖がらせたと思ってしまったらしい時には。

『……あっ、いや、別に、怖がらせるつもりはなかったんだ。勿論、菜々子が嫌なら無理強いするつもりもない。だから正直に言ってくれ』

 優しい言葉で、処女である私のことを気遣ってくれたし。

 いざこれからって時になって、色気の皆無な下着のことを気にして、私が中断しようとした際にも。

『これでもう何も案じることはないだろう? あぁ、心配しなくても、俺は大きくて品のない胸より、菜々子のような慎ましく可愛げのある胸の方が好きだから安心しろ』

  創さんらしい言葉でもって、私のコンプレックスだった貧相な身体のこともフォローしてくれたりもした。

 創さんがいつにも増して慎重だったことからも、処女である私のことを大事に気遣ってくれていたのは一目瞭然。

 そしてその都度その都度、私の胸はキュンキュンとときめいて、創さんへの想いは、より一層強まっていった。

 時折、これまでのような強引さがヒョッコリ顔を出したり、意地悪なことを言って羞恥を煽られもしたし。

『どうした? さっきまであんなにはずかしそうにしていたのに。そんなに身体をくねらせて、足までモゾモゾさせて、そんなに気持ちいいか?』

『……気持ちぃ……くて、おかしく……なっちゃい、そぅ』

『この俺がもっともっとよくしてやる。もっともっとよくしておかしくしてやる。他のヤツのことなんて、この俺がキレイさっぱり取っ払ってやる』

 余裕なんて与えてもらえなかったから、創さんに言われた言葉を拾うことができなかったことも一度や二度じゃない。

『でも、まだまだだな。僅かな痛みも感じないようになるまで、この俺が今からたっぷりと解してやるから安心しろ』

 時には、優しい声音とは真逆の、容赦のない言葉でも責め立てられることもあった。

 でもそれは、

『……めいっぱい優しくするつもりだったのに、我を忘れて、手加減してやれず悪かった』

創さんのこの言葉からも分かるように、我を忘れて、私との行為に没頭してくれていたからだったようだし。

――創さんはやっぱりちょっと普通の人とは感覚がずれてしまっているのかもしれない。

 そうは思いつつも、メチャクチャ嬉しかった――。

 あぁ、そういえば……。そのせいで私が泣いちゃった時には。

『そ、そんなに泣くほど嫌だったのか? そりゃそうだよな? 処女なんだもんな。悪かった。もう乱暴なことはしないから泣き止んでくれないか? 頼む、菜々子。この通り許してほしい』

 創さんてば勘違いして、謝ってくるなり、私をベッドに寝かせて布団まで被せて、添い寝すると、そのまま私を寝かせようともしてたんだっけ。

 でも私が嫌じゃなかったことと中断されても困ると抗議すれば。

『……最後までって……あっ、あぁ、そうか。確かに、そんな状態で放置されたら辛いよなぁ』

 すぐにどういう状態かも察してくれたし。

『俺だって他人のことはいえないしな』

 創さんも中断なんてできない状態だというのも理解できたものの。

 どうしてそうなるのかが噛み砕けなかったものだから、グイグイ創さんに迫ってしまったりもした。

『言っときますけど、はぐらかすのはなしですからッ』
『……わ、分かった。ちゃんと教えるからちょっと待ってくれ』

 お陰で創さんから一勝を勝ち取ることもできた。その上。

『面と向かって言いにくいからこのままで聞いてろ』

 なんて言ってきて、説明する間ずっと、恥ずかしいのか、私の顔を胸に抱き寄せて自分の顔を見られないようにしていたり。

『……女が身体を触れられると興奮して気持ちが昂ぶるのと同じで、男は女の身体を見たり、感じて喘ぐ姿や声に興奮して、もっとよくしてやりたいと思うし。自分だけのモノにしたいと欲情して元気になるものだ。だからこうなってるし、菜々子と一緒でもう中断なんてできない』

 私の貧相な身体に興奮し欲情してくれたことが嬉しくて、創さんの顔を拝んでおこうと説明が終わらないうちから顔を上げ、創さんのイケメンフェイスを凝視してたら。

『分かったらもういいだろう? あんまりじろじろ見るな。男はデリケートなんだからな。そんなに興味津々に見られると萎える』

 恥ずかしそうにしているメチャクチャレアな創さんの姿にお目にかかることもできた。

 そんなこともあって、少々調子にのってしまい。

『なら、私が触れたら、もっともっと元気になってくれますか?』

 処女らしからぬ暴走を繰り出してしまったけれど。

 『処女のクセに調子に乗るな。さっき、何もせずに俺のことだけ感じてろって言っただろ? 処女なら処女らしく黙って俺に抱かれてろ』

 私の暴走が功を奏したのか、いつもの調子を取り戻したと創さんによって、あっという間に組み敷かれ、俺様口調とは裏腹な優しい甘やかなキスの嵐のなか、天国にでも居るような幸せな心地で、無事に創さんのモノになることができた。

 昨夜のあれこれを思い浮かべて、創さんにもらった様々な言葉を反芻しては、創さんのモノになれたこの幸せを噛みしめるという至福の一時を味わっている。

――あぁ、なんて贅沢な時間なんだろう。

 まさか、こんな夢のような時間が訪れるなんて、あの事故に遭って、病院で目覚めた時には、夢にも思わなかったし。

 人質にされてしまった時には、事故で死んじゃえばよかったとさえ思っていたのに。

――あの事故で死ななくて本当によかったぁ。

 心底そう思いながら、大好きな創さんのぬくもりをすぐ傍で感じつつ、創さんの少し幼く見える寝顔と至福の一時を独り占めしていたのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される

永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】 「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。 しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――? 肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!

あなたと恋に落ちるまで~御曹司は、一途に私に恋をする~

けいこ
恋愛
カフェも併設されたオシャレなパン屋で働く私は、大好きなパンに囲まれて幸せな日々を送っていた。 ただ… トラウマを抱え、恋愛が上手く出来ない私。 誰かを好きになりたいのに傷つくのが怖いって言う恋愛こじらせ女子。 いや…もう女子と言える年齢ではない。 キラキラドキドキした恋愛はしたい… 結婚もしなきゃいけないと…思ってはいる25歳。 最近、パン屋に来てくれるようになったスーツ姿のイケメン過ぎる男性。 彼が百貨店などを幅広く経営する榊グループの社長で御曹司とわかり、店のみんなが騒ぎ出して… そんな人が、 『「杏」のパンを、時々会社に配達してもらいたい』 だなんて、私を指名してくれて… そして… スーパーで買ったイチゴを落としてしまったバカな私を、必死に走って追いかけ、届けてくれた20歳の可愛い系イケメン君には、 『今度、一緒にテーマパーク行って下さい。この…メロンパンと塩パンとカフェオレのお礼したいから』 って、誘われた… いったい私に何が起こっているの? パン屋に出入りする同年齢の爽やかイケメン、パン屋の明るい美人店長、バイトの可愛い女の子… たくさんの個性溢れる人々に関わる中で、私の平凡過ぎる毎日が変わっていくのがわかる。 誰かを思いっきり好きになって… 甘えてみても…いいですか? ※after story別作品で公開中(同じタイトル)

10 sweet wedding

国樹田 樹
恋愛
『十年後もお互い独身だったら、結婚しよう』 そんな、どこかのドラマで見た様な約束をした私達。 けれど十年後の今日、私は彼の妻になった。 ……そんな二人の、式後のお話。

【完結】maybe 恋の予感~イジワル上司の甘いご褒美~

蓮美ちま
恋愛
会社のなんでも屋さん。それが私の仕事。 なのに突然、企画部エースの補佐につくことになって……?! アイドル顔負けのルックス 庶務課 蜂谷あすか(24) × 社内人気NO.1のイケメンエリート 企画部エース 天野翔(31) 「会社のなんでも屋さんから、天野さん専属のなんでも屋さんってこと…?」 女子社員から妬まれるのは面倒。 イケメンには関わりたくないのに。 「お前は俺専属のなんでも屋だろ?」 イジワルで横柄な天野さんだけど、仕事は抜群に出来て人望もあって 人を思いやれる優しい人。 そんな彼に認められたいと思う反面、なかなか素直になれなくて…。 「私、…役に立ちました?」 それなら…もっと……。 「褒めて下さい」 もっともっと、彼に認められたい。 「もっと、褒めて下さ…っん!」 首の後ろを掬いあげられるように掴まれて 重ねた唇は煙草の匂いがした。 「なぁ。褒めて欲しい?」 それは甘いキスの誘惑…。

恋に異例はつきもので ~会社一の鬼部長は初心でキュートな部下を溺愛したい~

泉南佳那
恋愛
「よっしゃー」が口癖の 元気いっぱい営業部員、辻本花梨27歳  ×  敏腕だけど冷徹と噂されている 俺様部長 木沢彰吾34歳  ある朝、花梨が出社すると  異動の辞令が張り出されていた。  異動先は木沢部長率いる 〝ブランディング戦略部〟    なんでこんな時期に……  あまりの〝異例〟の辞令に  戸惑いを隠せない花梨。  しかも、担当するように言われた会社はなんと、元カレが社長を務める玩具会社だった!  花梨の前途多難な日々が、今始まる…… *** 元気いっぱい、はりきりガール花梨と ツンデレ部長木沢の年の差超パワフル・ラブ・ストーリーです。

恋とキスは背伸びして

葉月 まい
恋愛
結城 美怜(24歳)…身長160㎝、平社員 成瀬 隼斗(33歳)…身長182㎝、本部長 年齢差 9歳 身長差 22㎝ 役職 雲泥の差 この違い、恋愛には大きな壁? そして同期の卓の存在 異性の親友は成立する? 数々の壁を乗り越え、結ばれるまでの 二人の恋の物語

最後の恋って、なに?~Happy wedding?~

氷萌
恋愛
彼との未来を本気で考えていた――― ブライダルプランナーとして日々仕事に追われていた“棗 瑠歌”は、2年という年月を共に過ごしてきた相手“鷹松 凪”から、ある日突然フラれてしまう。 それは同棲の話が出ていた矢先だった。 凪が傍にいて当たり前の生活になっていた結果、結婚の機を完全に逃してしまい更に彼は、同じ職場の年下と付き合った事を知りショックと動揺が大きくなった。 ヤケ酒に1人酔い潰れていたところ、偶然居合わせた上司で支配人“桐葉李月”に介抱されるのだが。 実は彼、厄介な事に大の女嫌いで―― 元彼を忘れたいアラサー女と、女嫌いを克服したい35歳の拗らせ男が織りなす、恋か戦いの物語―――――――

最高ランクの御曹司との甘い生活にすっかりハマってます

けいこ
恋愛
ホテルマンとして、大好きなあなたと毎日一緒に仕事が出来ることに幸せを感じていた。 あなたは、グレースホテル東京の総支配人。 今や、世界中に点在する最高級ホテルの創始者の孫。 つまりは、最高ランクの御曹司。 おまけに、容姿端麗、頭脳明晰。 総支配人と、同じホテルで働く地味で大人しめのコンシェルジュの私とは、明らかに身分違い。 私は、ただ、あなたを遠くから見つめているだけで良かったのに… それなのに、突然、あなたから頼まれた偽装結婚の相手役。 こんな私に、どうしてそんなことを? 『なぜ普通以下なんて自分をさげすむんだ。一花は…そんなに可愛いのに…』 そう言って、私を抱きしめるのはなぜ? 告白されたわけじゃないのに、気がづけば一緒に住むことになって… 仕事では見ることが出来ない、私だけに向けられるその笑顔と優しさ、そして、あなたの甘い囁きに、毎日胸がキュンキュンしてしまう。 親友からのキツイ言葉に深く傷ついたり、ホテルに長期滞在しているお客様や、同僚からのアプローチにも翻弄されて… 私、一体、この先どうなっていくのかな?

処理中です...