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#70 王子様の切なくも甘いキス ⑶ ♡微

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 だからって、こんなところで泣いちゃったら、また創さんを不安にさせてしまう。

 それにあんまり迷惑をかけてしまったら、せっかくこんなにも好きになってくれているのに、気持ちが醒めてしまうかもしれないし。

 こんな王子様みたいな素敵な人がどこにでも居るような平々凡々を体現したような私のことを好きになってくれるなんて、こんな奇跡みたいなことはもう二度とないだろうから。

『菜々子は何もする必要なんてない。俺のことだけ感じてろ』

 創さんに言われた通り、私は何もせずに創さんにすべてを委ねていればいい。

 そうしなきゃ、とは思うのだけれど、これが本当に夢じゃないんだってことをしっかりと確かめておきたくもある。

――だってそうでもしないと、明日になったら全部夢だった、なんてオチが待っていそうなんだもん。

 そんな想いに駆られた私が泣きそうになるのをぐっと堪えて、創さんの胸にしがみついたまま返事を返してから、おずおずと尋ね返してみれば。

「……はい。あの、その前に、確認なんですけど、これって夢じゃありませんよね?」 

 ついさっきまでの不安げだった表情と悲しげだった瞳はなんだったのかと思うくらいに、物凄く怖い、まるで般若のような形相に豹変して。

「はぁ!? 夢だとッ?! もしかして、夢だと思いたいってことか?」

 怒気の孕んだドスの利いた低い声音で凄んできた創さんに、

「あのッ、べッ、別に、そういう意味じゃ」

たじろぎつつも反論を返した私の声は、次に創さんの放った、

「もういい、分かった。これが夢じゃないってことを、この俺が今からたっぷりとその身体に教え込んでやる。それと一緒に、この俺がどんなにお前のことを想っているかも、たっぷりと刻み込んでやる」   

さっき同様のえらく上からな高圧的な低い声音によって、瞬時に掻き消されてしまうこととなった。

 けれども創さんの言葉には、私への想いが込められていたものだから、怖いなんて感情は微塵も湧かず、代わりにあたたかなもので満たされてゆく。

 もう胸が一杯ではち切れてしまいそうだ。

 そこへ、再開された創さんの少し荒々しくも優しい甘やかなキスが首筋を伝い始め。

「……んっ、ふぅ」

 同時に、自分の出したモノとは思えないほどの甘ったるい吐息が私の唇から零れ始める。

 やがて創さんの柔らかな唇が、以前創さんからプレゼントしてもらっていたお揃いのチェックのパジャマのいつの間にやらはだけられている胸元にまで及んでいて、胸元の柔らかな肌を擽り始めていたのだった。

 そこで私はハッとするのだった。

 何故なら、創さんの『今夜は寝かせるつもりはないから安心しろ』発言をすっかり忘れてしまってた私は、色気もクソもないソフトカップ付きの、いわゆるブラトップキャミを着ていたからだ。

 しかも一年は愛用してたんじゃないかってくらい、年季の入ったヤツ。

 慌てた私は、大胆にはだけさせたパジャマのボタンをスッカリ外し終えている、なんとも手際のよすぎる創さんのことを阻止するべくストップをかけたのだった。

「あのっ、ちょっと待って下さいッ!」

 すると創さんは案の定、さっきよりは若干穏やかめの、けれど不服そうな声を放つと。

「どうした? やっぱり嫌だとでも言うのか?」

 組み敷いている私の顔を包囲するようにして、ドンッと両手をついて鼻先すれすれの至近距離から覗き込んできた。

 以前にも一度だけお目にかかったことのある、あたかも百獣の王を彷彿とさせる迫力だ。

 けれど、今はそんなことに構ってる場合じゃない。

……そういえば、あの時も、怖いというよりは、驚きの方が大きかったんだっけ。

 そんなことを頭のどこかで思いつつも、創さんの言動に対して、条件反射的に肩をビクンッと跳ね上げてしまっていたようで。

 あの時同様に、私を怖がらせてしまったと勘違いしてしまったらしい創さんからすぐに。

「……あっ、いや、別に、怖がらせるつもりはなかったんだ。勿論、菜々子が嫌なら無理強いするつもりもない。だから正直に言ってくれ」

 なにやら急に取り繕うようにして放たれた声にはまるで迫力はないし、なんだかシュンとしているようにも見える。

 創さん自身じゃないからそれが正解かどうかは分からないけれど、私の言動一つで、怒ったり、柄にもなくシュンとしてみたり、焦ったり、狼狽えてみたり、こんなにも振り回されてしまっている創さんのことが、どうにも愛おしく思えてならない。

 益々私の胸からはあたたかなモノが際限なく溢れて、もう止まりそうにない。

 思えば、私には好きだって自覚がなかっただけで、今までもそうだったような気がする。

 それらが全部私のことを想ってくれている証なんだと想うと、もう堪らない気持ちになってくる。

 そうはいっても、一応これでも女なので、どうしても下着のことは気にかかってしまう。

ーーだって処女だし、創さんとそういうことを初めてする特別な夜なんだからなおさらだ。

 当然羞恥もあるし、色気皆無の下着のことを話した後の、創さんの反応が怖くもある。

 けれどこのままでは非常にマズイので、これまた心配そうな不安げな面持ちで私の反応を窺っている創さんに向き合うも、ボソボソと小さな声を放つのがやっとだった。

「……あの、嫌だとか、そういうことじゃなくて。その、色気も素っ気もない下着なので、それが気になっちゃって。……って言っても、色気のある下着なんて持ってないんですけど」

 もじもじしつつそう言い終えた私がこれ以上にないくらいに小さく身を縮めていると。

 創さんはひときわ大きく見開いた眼で私のことを凝視しつつ。

「……ってことは、嫌じゃないってことなのか?」

 本日、何度目だっただろうか? と、ちょっと自信がなくなってしまうくらい、何度も耳にした質問を投げかけられ。

……いつもは強引なのに、今日はえらく慎重だなぁ。

 なんてことを思いつつも……。

ーーそれだけ私のことを想ってくれているんだ。

 恋は盲目状態に陥ってしまっている私は、本日何度目かの、同じ返事を返していて。

「はい」

 それを聞き届けた創さんが安堵したように息を吐くと。

「そうか、そうだったのか」

 あたかも自分自身にでも言い聞かせるように呟いたかと思えば。今度は。

「俺は別に下着になんて興味はないから安心しろ」

 私のことを真っ直ぐに見据えながらそう言ってくるなり。

 どういうわけか、私の背中に両腕を回してくると、なんと、そのままキャミをひん剥かれてしまい、あられもない姿を創さんの眼前に晒してしまっていたのだ。

 そればかりか、貧相な私の身体をマジマジと見下ろしている創さんから。

「これでもう何も案じることはないだろう? あぁ、心配しなくても、俺は大きくて品のない胸より、菜々子のような慎ましく可愛げのある胸の方が好きだから安心しろ」

 フォローのつもりなのかなんなのか、とっても優しくも愉しげな声音でそんな言葉をお見舞いされてしまった。

 その挙げ句に、創さんの大きな手により左胸の膨らみをやんわりと包み込まれ、そのままふにふにと揉みしだかれて。

 生まれて初めて味わうなんとも言えない甘やかな刺激に見舞われてしまった私の唇からは、自分の意志とは関係なく。

「////……やぁんッ!?」

 甘く艶やかな嬌声が飛び出したものだから、これ以上にないってくらいの羞恥に襲われてしまった私の全身が沸騰でもするかのように熱せられてしまうのだった。

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