上 下
69 / 111

#68 王子様の切なくも甘いキス ⑴

しおりを挟む

 今日、これまでずっと人質として利用されているだけかと思っていた創さんの気持ちが本物だと分かった。

 そして、創さんが私のことをどんなに大事に想ってくれているのかも。

 それから、今日初めて自覚した自分の創さんへの気持ちの再確認もできた。

 初めて好きになった創さんと両想いになれて、本物の婚約者となったのだ。

 あとは創さんのモノにしてもらうだけ。

 とはいっても、これまで色恋にまったく縁のなかった私には、何もかもが未知との遭遇でしかない。

 創さんによってこうしてベッドで組み敷かれているものの、一体どうすればいいかが分からない。

 そんな私は、さっきからドックンドックンとやかましいほど高鳴っている胸の鼓動を耳の傍で感じながら、瞼をギュッと閉ざしたまま縮こまっていることしかできずにいた。

 そこに、ふっと柔らかな笑みを零した創さんの声が耳に流れ込んできて。

「どうした? やっぱり嫌になったのか? ならもう今夜はやめ――」

 またどうせからかわれて笑われてしまうのかと思いきや、私が嫌がると決めつけたような物言いと、私の返事次第では、やめるという、さっきの上から口調を放った人と同一人物のものとは思えない創さんらしからぬセリフになにやら違和感のようなものを感じた。

 けれど、そんなモノにいちいち構うような余裕なんて微塵もなかった私には、創さんが処女である私のことを気遣ってくれている、そうとしか思えなかったのだ。

 そんな創さんの優しい心遣いがまた嬉しくもあった。

 なにより、早く大好きな創さんのモノにしてほしい――。

 創さんへの想いが溢れて止まらなくなってしまっている私の心の中には、羞恥と、未知との遭遇に対するほんのちょっとの戸惑いと、処女のクセにそんな想いで埋め尽くされてしまっていたのだ。

 だから恥ずかしいながらも、嫌ではないということをしっかりと伝えたくて声を放ったものの。

「いや、その、嫌とかじゃなくて、こういうとき、どうしたら……いいかが……分から……なくて……」

 羞恥には打ち勝てず、だんだん語尾がフェードアウトしていくのだった。

 けれどもどうやらその言葉は創さんには伝わってくれたようだ。

 創さんは、なにやら苦しそうな表情で私のことを見下ろしてきて。

「……今夜はもうやめにしてやろうと思ったのに……。そんな風に煽られたら、もう、どうなっても知らないぞ?」

 思った通りの言葉と、少々理解不能なことも言ってきたけれど、どうやら続行してくれるらしい。

 それに、心根の優しい創さんは、どんなに意地悪なことを言ってきても、本当に私が嫌がるようなことをしないことも知っている。

 だから少しも怖くなんてなかった。

――やっと創さんのモノにしてもらえるんだ。

 処女のクセに、ホッとしてそんなことを思ってしまってた私は、創さんのことを真っ直ぐ見つめ返しつつ、今度はしっかりとした口調で答えてみせた。

「はい。早く創さんのものにしてください」

 すると創さんの表情が途端に驚きの色に染まったけれど、すぐに何かを勘案でもするような素振りをしてから、すっとお得意の無表情を決め込むと。

「……分かった。菜々子の望み通りにしてやる。菜々子は何もする必要なんてない。俺のことだけ感じてろ」

 創さんらしい上から口調でそう宣言するやいなや、私の無防備な唇に、口調とは裏腹のなんとも優しくて甘いキスを降らせてくれたのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される

永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】 「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。 しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――? 肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!

あなたと恋に落ちるまで~御曹司は、一途に私に恋をする~

けいこ
恋愛
カフェも併設されたオシャレなパン屋で働く私は、大好きなパンに囲まれて幸せな日々を送っていた。 ただ… トラウマを抱え、恋愛が上手く出来ない私。 誰かを好きになりたいのに傷つくのが怖いって言う恋愛こじらせ女子。 いや…もう女子と言える年齢ではない。 キラキラドキドキした恋愛はしたい… 結婚もしなきゃいけないと…思ってはいる25歳。 最近、パン屋に来てくれるようになったスーツ姿のイケメン過ぎる男性。 彼が百貨店などを幅広く経営する榊グループの社長で御曹司とわかり、店のみんなが騒ぎ出して… そんな人が、 『「杏」のパンを、時々会社に配達してもらいたい』 だなんて、私を指名してくれて… そして… スーパーで買ったイチゴを落としてしまったバカな私を、必死に走って追いかけ、届けてくれた20歳の可愛い系イケメン君には、 『今度、一緒にテーマパーク行って下さい。この…メロンパンと塩パンとカフェオレのお礼したいから』 って、誘われた… いったい私に何が起こっているの? パン屋に出入りする同年齢の爽やかイケメン、パン屋の明るい美人店長、バイトの可愛い女の子… たくさんの個性溢れる人々に関わる中で、私の平凡過ぎる毎日が変わっていくのがわかる。 誰かを思いっきり好きになって… 甘えてみても…いいですか? ※after story別作品で公開中(同じタイトル)

10 sweet wedding

国樹田 樹
恋愛
『十年後もお互い独身だったら、結婚しよう』 そんな、どこかのドラマで見た様な約束をした私達。 けれど十年後の今日、私は彼の妻になった。 ……そんな二人の、式後のお話。

【完結】maybe 恋の予感~イジワル上司の甘いご褒美~

蓮美ちま
恋愛
会社のなんでも屋さん。それが私の仕事。 なのに突然、企画部エースの補佐につくことになって……?! アイドル顔負けのルックス 庶務課 蜂谷あすか(24) × 社内人気NO.1のイケメンエリート 企画部エース 天野翔(31) 「会社のなんでも屋さんから、天野さん専属のなんでも屋さんってこと…?」 女子社員から妬まれるのは面倒。 イケメンには関わりたくないのに。 「お前は俺専属のなんでも屋だろ?」 イジワルで横柄な天野さんだけど、仕事は抜群に出来て人望もあって 人を思いやれる優しい人。 そんな彼に認められたいと思う反面、なかなか素直になれなくて…。 「私、…役に立ちました?」 それなら…もっと……。 「褒めて下さい」 もっともっと、彼に認められたい。 「もっと、褒めて下さ…っん!」 首の後ろを掬いあげられるように掴まれて 重ねた唇は煙草の匂いがした。 「なぁ。褒めて欲しい?」 それは甘いキスの誘惑…。

恋に異例はつきもので ~会社一の鬼部長は初心でキュートな部下を溺愛したい~

泉南佳那
恋愛
「よっしゃー」が口癖の 元気いっぱい営業部員、辻本花梨27歳  ×  敏腕だけど冷徹と噂されている 俺様部長 木沢彰吾34歳  ある朝、花梨が出社すると  異動の辞令が張り出されていた。  異動先は木沢部長率いる 〝ブランディング戦略部〟    なんでこんな時期に……  あまりの〝異例〟の辞令に  戸惑いを隠せない花梨。  しかも、担当するように言われた会社はなんと、元カレが社長を務める玩具会社だった!  花梨の前途多難な日々が、今始まる…… *** 元気いっぱい、はりきりガール花梨と ツンデレ部長木沢の年の差超パワフル・ラブ・ストーリーです。

恋とキスは背伸びして

葉月 まい
恋愛
結城 美怜(24歳)…身長160㎝、平社員 成瀬 隼斗(33歳)…身長182㎝、本部長 年齢差 9歳 身長差 22㎝ 役職 雲泥の差 この違い、恋愛には大きな壁? そして同期の卓の存在 異性の親友は成立する? 数々の壁を乗り越え、結ばれるまでの 二人の恋の物語

最後の恋って、なに?~Happy wedding?~

氷萌
恋愛
彼との未来を本気で考えていた――― ブライダルプランナーとして日々仕事に追われていた“棗 瑠歌”は、2年という年月を共に過ごしてきた相手“鷹松 凪”から、ある日突然フラれてしまう。 それは同棲の話が出ていた矢先だった。 凪が傍にいて当たり前の生活になっていた結果、結婚の機を完全に逃してしまい更に彼は、同じ職場の年下と付き合った事を知りショックと動揺が大きくなった。 ヤケ酒に1人酔い潰れていたところ、偶然居合わせた上司で支配人“桐葉李月”に介抱されるのだが。 実は彼、厄介な事に大の女嫌いで―― 元彼を忘れたいアラサー女と、女嫌いを克服したい35歳の拗らせ男が織りなす、恋か戦いの物語―――――――

最高ランクの御曹司との甘い生活にすっかりハマってます

けいこ
恋愛
ホテルマンとして、大好きなあなたと毎日一緒に仕事が出来ることに幸せを感じていた。 あなたは、グレースホテル東京の総支配人。 今や、世界中に点在する最高級ホテルの創始者の孫。 つまりは、最高ランクの御曹司。 おまけに、容姿端麗、頭脳明晰。 総支配人と、同じホテルで働く地味で大人しめのコンシェルジュの私とは、明らかに身分違い。 私は、ただ、あなたを遠くから見つめているだけで良かったのに… それなのに、突然、あなたから頼まれた偽装結婚の相手役。 こんな私に、どうしてそんなことを? 『なぜ普通以下なんて自分をさげすむんだ。一花は…そんなに可愛いのに…』 そう言って、私を抱きしめるのはなぜ? 告白されたわけじゃないのに、気がづけば一緒に住むことになって… 仕事では見ることが出来ない、私だけに向けられるその笑顔と優しさ、そして、あなたの甘い囁きに、毎日胸がキュンキュンしてしまう。 親友からのキツイ言葉に深く傷ついたり、ホテルに長期滞在しているお客様や、同僚からのアプローチにも翻弄されて… 私、一体、この先どうなっていくのかな?

処理中です...