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#68 王子様の切なくも甘いキス ⑴
しおりを挟む今日、これまでずっと人質として利用されているだけかと思っていた創さんの気持ちが本物だと分かった。
そして、創さんが私のことをどんなに大事に想ってくれているのかも。
それから、今日初めて自覚した自分の創さんへの気持ちの再確認もできた。
初めて好きになった創さんと両想いになれて、本物の婚約者となったのだ。
あとは創さんのモノにしてもらうだけ。
とはいっても、これまで色恋にまったく縁のなかった私には、何もかもが未知との遭遇でしかない。
創さんによってこうしてベッドで組み敷かれているものの、一体どうすればいいかが分からない。
そんな私は、さっきからドックンドックンとやかましいほど高鳴っている胸の鼓動を耳の傍で感じながら、瞼をギュッと閉ざしたまま縮こまっていることしかできずにいた。
そこに、ふっと柔らかな笑みを零した創さんの声が耳に流れ込んできて。
「どうした? やっぱり嫌になったのか? ならもう今夜はやめ――」
またどうせからかわれて笑われてしまうのかと思いきや、私が嫌がると決めつけたような物言いと、私の返事次第では、やめるという、さっきの上から口調を放った人と同一人物のものとは思えない創さんらしからぬセリフになにやら違和感のようなものを感じた。
けれど、そんなモノにいちいち構うような余裕なんて微塵もなかった私には、創さんが処女である私のことを気遣ってくれている、そうとしか思えなかったのだ。
そんな創さんの優しい心遣いがまた嬉しくもあった。
なにより、早く大好きな創さんのモノにしてほしい――。
創さんへの想いが溢れて止まらなくなってしまっている私の心の中には、羞恥と、未知との遭遇に対するほんのちょっとの戸惑いと、処女のクセにそんな想いで埋め尽くされてしまっていたのだ。
だから恥ずかしいながらも、嫌ではないということをしっかりと伝えたくて声を放ったものの。
「いや、その、嫌とかじゃなくて、こういうとき、どうしたら……いいかが……分から……なくて……」
羞恥には打ち勝てず、だんだん語尾がフェードアウトしていくのだった。
けれどもどうやらその言葉は創さんには伝わってくれたようだ。
創さんは、なにやら苦しそうな表情で私のことを見下ろしてきて。
「……今夜はもうやめにしてやろうと思ったのに……。そんな風に煽られたら、もう、どうなっても知らないぞ?」
思った通りの言葉と、少々理解不能なことも言ってきたけれど、どうやら続行してくれるらしい。
それに、心根の優しい創さんは、どんなに意地悪なことを言ってきても、本当に私が嫌がるようなことをしないことも知っている。
だから少しも怖くなんてなかった。
――やっと創さんのモノにしてもらえるんだ。
処女のクセに、ホッとしてそんなことを思ってしまってた私は、創さんのことを真っ直ぐ見つめ返しつつ、今度はしっかりとした口調で答えてみせた。
「はい。早く創さんのものにしてください」
すると創さんの表情が途端に驚きの色に染まったけれど、すぐに何かを勘案でもするような素振りをしてから、すっとお得意の無表情を決め込むと。
「……分かった。菜々子の望み通りにしてやる。菜々子は何もする必要なんてない。俺のことだけ感じてろ」
創さんらしい上から口調でそう宣言するやいなや、私の無防備な唇に、口調とは裏腹のなんとも優しくて甘いキスを降らせてくれたのだった。
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