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#48 いざ、出陣!? ⑴
しおりを挟む豪快に笑い出してしまった桜小路さんの身体の上で、私はなんともいたたまれない心持ちで過ごしていた。
そんなに笑わなくったっていいじゃないか。どうせ笑うんなら、私のことを解放してからにして欲しい。
そうじゃないと、桜小路さんが笑うたびに、生理現象を起こしちゃってる部分がぶつかってくるから、余計にいたたまれない気持ちになってくる。
文句を言って解放してもらいたくとも、桜小路さんの笑いは、まだまだ収まりそうにない。
――もう、ほんと、勘弁して欲しい。
とうとう我慢の限界点を突破した私は、桜小路さんの口を両手で塞いでしまおうと、飛びかかった。
けれどすぐに私の動きを察知した桜小路さんは、私の身体を尚もギュッと強い力で抱き寄せると。
両足まで使って、ガバッと蟹挟みのような妙技まで繰り出してきた。
結果、さっきよりもピッタリと密着してしまっている。
当然、上半身だけではなく、あの部分も。
「ギャ――ッ!?」
二十二年の生涯の中で、最大限に羞恥を煽られ、キャパオーバーとなってしまった私は真夜中だというのに、ド派手な叫び声をあげてしまっていた。
さすがの桜小路さんも、これにはかなり驚いてしまったようだ。
さっきまであんなに豪快に笑っていたのに、私の悲鳴と同時に、桜小路さんの動きと笑いがピタリとおさまった。
――そんなにすぐ止められるんなら、早く止めてくれれば良かったのに。
そう胸の内で悪態をついていると桜小路さんが動く気配がして。
私の様子を窺ってきた桜小路さんは、今度はやけに慌てた様子で、私のことを素早く解放してくれた。
元の場所に戻してもらった私が、やっと解放されたと、ホッと胸を撫で下ろしているところに桜小路さんのやけに申し訳なさげな声音が届いて。
「……菜々子、悪かった。少々はしゃぎすぎたようだ。もう笑ったりしない。だから機嫌を直してほしい」
いつしか無意識に閉ざしてしまっていた瞼をそうっと上げてみると。
そこには、えらくシュンとした表情で私の様子を窺っている桜小路さんの姿があって。
たちまち私の胸は、キュンとときめいてしまうのだった。
――恐るべし、イケメンフェイス。
「……べ、別に、機嫌を損ねた訳じゃありませんから、謝らなくてもいいです。そ……それより、男の人が、どういうときに……そう……なっちゃうのか……教えて……くだ……さい」
桜小路さんに動揺を悟られたくなくて、なんとか空気を変えてしまおうと、考えなしに声を放ってしまった私は、本当にうっかり者だと自分でも思う。
勢いで放ってしまったものの、段々恥ずかしくなってきて、声は途切れ途切れだし、次第に尻すぼみになっていった。
その上、桜小路さんの視線からも逃れるようにして、桜小路さんのチェックのパジャマの第一ボタンに視線を固定してしまっている始末だ。
こっちから訊いておいてなんだけど、本当は、その答えを聞くのも、どうにも憚られる。
耳を覆ってしまいたい衝動に駆られるのをなんとか抑え込んでいると、不意に桜小路さんの胸にそうっと優しく抱き寄せられた。
今度は一体何をされるんだろうかと、ビクビクしていると。
桜小路さんからは、意外な言葉が返ってきて。
「今はまだ知らなくてもいい。そんなことより、お前は早く寝ることだけに集中しろ」
その声音が殊の外優しいものだったから、不意打ちでまた、胸がキュンと切ない音色を奏でた。
「それから明日、お前を恋人として紹介するんだから、俺のことは名前で呼ぶこと。いいな?」
けれども、すぐに桜小路さんのことを名前で呼ぶという新たなミッションを言い渡されてしまい。
もうそのことで頭がいっぱいになってしまった私は、それどころではなくなってしまうのだった。
「――へッ!? そっ、そんなのいきなり無理ですッ!」
「前にも言ったが。俺の辞書には『無理』なんて言葉は存在しない。呼べないなら、呼べるまで練習させてやろうか?」
「////……ッ!?」
「どうする? ん?」
「……ぜ、善処します」
「そんな言葉を聞きたいんじゃない。ほら、言ってみろ」
「……は、は、は」
「お前、今からくしゃみでもする気か?」
「////……はッ、は、じ……め……さん」
「しょうがない。今はそれで許してやる。ほら、寝るぞ」
再び桜小路さんとの不毛な攻防が続くのかと思いきや、王子様然としたイケメンフェイスをフル活用して、眼前に迫ってきた桜小路さんに、呆気なく敗北することとなった。
言い慣れないのもあり、無性に恥ずかしかったし、無理矢理言わされた感満載だったけれど、言い終えた瞬間ギュッと抱きしめてくれて、ご褒美のように頭まで優しく撫でられてしまえば、もうどうでも良くなっていて。
向かい合って横になった体勢で抱きしめてくれているお陰で、そこまで密着することもなく。
程よい密着度によってもたらされる、桜小路さんのぬくもりと穏やかな心音のお陰で、記憶は曖昧だけど、私はいつしか眠りの世界へと誘《いざな》われていったようだ。
そうしてとうとう私にとっては、決戦とも言える、顔合わせの日を迎えたのだった。
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