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#8 寝ても醒めても〜窪塚視点〜
#7
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途端に、賑わいでいた店内から喧噪が消え去り、近くのテーブル席の若い女性客の一人がグラスが割れた音に驚いたように、「キャッ」と甲高い声を放った。
それらを皮切りに、店内の至る所からは俺らのことを遠巻きに窺いながら潜めた声で話す声がザワザワとひしめき始め。
「あのう、お客様。他のお客様のご迷惑になりますのでーー」
すかさずカウンター内のバーテンからもそう言って声がかかった。
けれど頭に血が上っている俺には、もうそんなものに耳を貸しているようなそんな心のゆとりなどまったくなく、藤堂のことを殴り飛ばす気満々だった。
それなのに藤堂ときたら、胸倉を掴んで睨みつけている俺には目もくれず、バーテンに向けて、にかっと人懐っこい笑みを浮かべると。
「あー、すみません。割っちゃったグラスもちゃんと弁償しますので、勿論割ったこいつが。だからちょっとだけ待っててもらえますか? 俺、昔こいつに大きな借り作っちゃってるんで。それ返すまで、少しだけでいいんでお願いします。心配しなくてもこいつ、図体が大きいだけで人を殴るような度胸なんてないんで。ね?」
ヌケヌケとそんなことを抜かしやがった。
「……は、はぁ。否でも」
藤堂にそんなことを言われたからって、おそらく鬼の形相で今にも殴りかかりそうな勢いで、鬼気迫る俺の様子に、バーテンはどうしたものかと躊躇っているようだ。
俺はいよいよ怒り心頭に発するという言葉通り、藤堂の胸倉を掴んでいる手に尚も力を込めて、怒りでぷるぷると打ち震える腕を自分の眼前へと引き寄せ。
「お前、人を虚仮《こけ》にするのも大概にしろよ。そんなに俺に殴られたいなら今すぐ殴ってやるよ」
未だにやけた笑みを浮かべてヘラヘラとしている藤堂のことを間近で睨みつけつつ低い声で凄むも。
「殴りたいなら殴れよ? けど、殴ったら、そこでお前の人生終わりだぜ? 勿論、外科医としてもな。それでもいいのかよ?」
藤堂は少しも怯むことなく、『殴ったら傷害で訴えてやるからな。それでもいいのか? だったら、殴れるものなら殴ってみろよ』とでも言いたげな口ぶりで脅してきやがった。
とうとう堪忍袋の緒がブチッと切れてしまった俺は、
「あー。そんなもんどーってことねーよ? 訴えるなり何なり好きにしろ。けどな、高梨には二度と近づくなッ!」
藤堂の言葉に売り言葉に買い言葉で即座に切り返した。
そして高梨のことに関してもきっちりと釘を刺してから、なんの躊躇もなく右腕を思いっきり振り上げて今まさに拳を振り下ろそうとしかけた刹那。
「へ~。高梨のことがそんなに大事なのかぁ。高梨のためなら何でも捨てられんだぁ。へ~、そーなんだな~」
やっぱりヘラヘラとしている藤堂が表情同様のヘラヘラとした口調でそんなふざけたことを抜かしてくる。
もう我慢ならないと今一度大きく振り上げた拳を藤堂の顔面めがけて放ったそのタイミングで、ヘラヘラとした表情から真顔に取って代わった藤堂の手により俺の手首はすんでのところで掴まれていた。
「そんなに大事だったら、高梨のこと泣かせたりすんじゃねーよッ! 」
そうしてこの急展開と藤堂から食らった言葉が意外すぎたことで、躊躇しつつも、頭がついていかない俺が呆けている間に。
さっきの俺のように鬼の形相で眼前まで迫り凄んできた藤堂によって、続けざまに放たれた次の言葉によって。
「てか、お前らどーなってんだよ? 念願叶ってやっとくっついたんじゃねーのかよ? やっとくっついてそのままゴールインかって思ってたのに。高梨は浮かない顔してて、理由訊いてもなんも言わねークセに、今にも泣きそーな感じでさ。あんなの見せられたら、放っておけるわけねーじゃんッ!」
これまでの藤堂の言動のあれこれがどうやら演技だったこと。そして、高梨に対しての俺の気持ちがどれほどのものかを確かめるためのものだったらしいことを、今更ながらに気付かされることとなった。
それらを皮切りに、店内の至る所からは俺らのことを遠巻きに窺いながら潜めた声で話す声がザワザワとひしめき始め。
「あのう、お客様。他のお客様のご迷惑になりますのでーー」
すかさずカウンター内のバーテンからもそう言って声がかかった。
けれど頭に血が上っている俺には、もうそんなものに耳を貸しているようなそんな心のゆとりなどまったくなく、藤堂のことを殴り飛ばす気満々だった。
それなのに藤堂ときたら、胸倉を掴んで睨みつけている俺には目もくれず、バーテンに向けて、にかっと人懐っこい笑みを浮かべると。
「あー、すみません。割っちゃったグラスもちゃんと弁償しますので、勿論割ったこいつが。だからちょっとだけ待っててもらえますか? 俺、昔こいつに大きな借り作っちゃってるんで。それ返すまで、少しだけでいいんでお願いします。心配しなくてもこいつ、図体が大きいだけで人を殴るような度胸なんてないんで。ね?」
ヌケヌケとそんなことを抜かしやがった。
「……は、はぁ。否でも」
藤堂にそんなことを言われたからって、おそらく鬼の形相で今にも殴りかかりそうな勢いで、鬼気迫る俺の様子に、バーテンはどうしたものかと躊躇っているようだ。
俺はいよいよ怒り心頭に発するという言葉通り、藤堂の胸倉を掴んでいる手に尚も力を込めて、怒りでぷるぷると打ち震える腕を自分の眼前へと引き寄せ。
「お前、人を虚仮《こけ》にするのも大概にしろよ。そんなに俺に殴られたいなら今すぐ殴ってやるよ」
未だにやけた笑みを浮かべてヘラヘラとしている藤堂のことを間近で睨みつけつつ低い声で凄むも。
「殴りたいなら殴れよ? けど、殴ったら、そこでお前の人生終わりだぜ? 勿論、外科医としてもな。それでもいいのかよ?」
藤堂は少しも怯むことなく、『殴ったら傷害で訴えてやるからな。それでもいいのか? だったら、殴れるものなら殴ってみろよ』とでも言いたげな口ぶりで脅してきやがった。
とうとう堪忍袋の緒がブチッと切れてしまった俺は、
「あー。そんなもんどーってことねーよ? 訴えるなり何なり好きにしろ。けどな、高梨には二度と近づくなッ!」
藤堂の言葉に売り言葉に買い言葉で即座に切り返した。
そして高梨のことに関してもきっちりと釘を刺してから、なんの躊躇もなく右腕を思いっきり振り上げて今まさに拳を振り下ろそうとしかけた刹那。
「へ~。高梨のことがそんなに大事なのかぁ。高梨のためなら何でも捨てられんだぁ。へ~、そーなんだな~」
やっぱりヘラヘラとしている藤堂が表情同様のヘラヘラとした口調でそんなふざけたことを抜かしてくる。
もう我慢ならないと今一度大きく振り上げた拳を藤堂の顔面めがけて放ったそのタイミングで、ヘラヘラとした表情から真顔に取って代わった藤堂の手により俺の手首はすんでのところで掴まれていた。
「そんなに大事だったら、高梨のこと泣かせたりすんじゃねーよッ! 」
そうしてこの急展開と藤堂から食らった言葉が意外すぎたことで、躊躇しつつも、頭がついていかない俺が呆けている間に。
さっきの俺のように鬼の形相で眼前まで迫り凄んできた藤堂によって、続けざまに放たれた次の言葉によって。
「てか、お前らどーなってんだよ? 念願叶ってやっとくっついたんじゃねーのかよ? やっとくっついてそのままゴールインかって思ってたのに。高梨は浮かない顔してて、理由訊いてもなんも言わねークセに、今にも泣きそーな感じでさ。あんなの見せられたら、放っておけるわけねーじゃんッ!」
これまでの藤堂の言動のあれこれがどうやら演技だったこと。そして、高梨に対しての俺の気持ちがどれほどのものかを確かめるためのものだったらしいことを、今更ながらに気付かされることとなった。
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