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#7 寝ても醒めても
#16
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いきなり両親と遭遇し、窪塚にとったら、さぞかし面倒なことに巻き込まれたと、煩わしく思われているだろうと思っていたのに。
意外にも、男らしい窪塚の提案により、今こうして両親の眼前で、とりあえず謝らないことには話を聞いてもらえないだろうということで。
「この度は私の配慮が足りず、鈴さんのご両親には多大なご心配をおかけしてしまい、誠に申し訳ございませんでした」
神妙な面持ちで謝罪してくれている窪塚と、こうして仲良く並んで、一緒に深々と頭を下げているなんて、なんだか夢のようだ。
ーーなんか、本物の恋人同士みたい。夢ならこのまま醒めないで欲しいなぁ。
相も変わらず、非常事態であるというのに、窪塚の隣で頭を下げつつ、未だキュンキュンと胸をときめかせてしまっている。
そんな不謹慎な私の元に、現実を突きつけるようにして、普段は穏やかで優しいはずの父の、これまで一度も耳にしたことがないような、淡々とした冷ややかな声音が轟いた。
「どこの馬の骨とも分からない方に、謝罪されるような謂れはございませんので、どうぞお引き取りください」
そうして私ではなく窪塚に対して、問答無用で突き放すようにしてピシャリと放たれた拒絶の言葉と、端から聞く耳を持とうとしない父の頑なな態度に。
父の怒りが相当なものであることが窺える。
こんなに怒った父を見るのは初めてだ。
どうしたものかと思案してみても、気が急くばかり。
こんな状況で、妙案など浮かぶわけもなく。
これ以上、父のことを刺激しないためにも、私は頭を下げたまま押し黙っていることしかできないでいる。
そこへ今度は、父の傍にいる母の声が割って入ってきた。
どう考えても、無断外泊をした私に非があるのは明白だ。
当然、母は父に加勢するものだと思っていたのだが。
「ちょっと、隼。何もそんな言い方しなくても。鈴ももういい大人なんだし。兎に角ちゃんと話だけでも聞いてあげましょうよ?」
どうやら、極度の心配性の父とは違いない、こういうことにも理解のあるらしい母は、父のことを宥めようとしてくれているようだ。
ーー父は母には弱いから、これで少しは怒りも鎮まってくれるはず。
そんな期待を込めて、両親の様子を静かに窺っていたのだけれど。
「いくつになっても、僕たちの可愛い子供であることには変わりないよ。それに、鈴は女の子なんだ。間違いがあってからじゃ取り返しがつかないだろう?」
私の期待も虚しく、頼みの綱だった母の言葉にも、頑として耳を貸そうともしない父に向けて、母は至極呆れたように、これみよがしに、ふうと大きな溜息をついた。
続いて、ここぞという時に見せる、ツンと澄ました表情を浮かべると、これまたツンとした声を放った。
「一人娘の鈴のことが心配なのはわかるけど。ほどほどにしとかないと、もうずーっと口きいてくれないままでもいいの? 私に似て、鈴は頑固なんだから。そのうち戸籍まで抜いて、勝手に婚姻届出されちゃっても知らないからッ」
これでもかというように、父の不安を煽るようなことをわざと言ってのけた。
途端に、顔を青ざめオロオロした様子で気遣わしげに、母と私の様子とを交互に見比べるようにして視線を往復させている父に、最後の仕上げとばかりに、
「隼。ふたりの話、ちゃんと聞いてあげるわよね?」
強い口調で畳み掛けた、揺るぎない母の言葉のお陰で、父が間髪入れずに、
「も、勿論だよ」
と即答してくれたことにより、なんとか話を聞いてもらえることになっている。
こんなところで立ち話もなんだからと言ってくれた母の気遣いにより、コインパーキングから伯父の家の客間へと場所を移したのだった。
そうしてなんとか名刺交換と挨拶も終えた現在、私と窪塚は、今まさに両親というか父と真っ向から対峙しているところだ。
けれども、父に納得してもらえる保証なんてどこにもない。
そうなれば、私はお見合いさせられてしまうかもしれないし、窪塚とももうこんな風に逢えなくなってしまうだろう。
さっきのオロオロした姿が嘘だったかのように、険しい表情を浮かべてこちらをジッと見据えたままでいる父を前に、不安がムクムクと膨れ上がっていく。
どうにか不安に押し潰されないためにも、膝の上で作った拳にぎゅっと力を込めてやり過ごそうとしていた私の拳は、いつしか隣の窪塚の大きくてあたたかな手により力強く包み込まれていた。
一瞬、両親に気づかれやしないかと肝を冷やしかけたけれど、座卓の下なので、気づかれる心配はなさそうだ。
窪塚にどんな意図があるかは不明だが。
ーーそんなに心配しなくても、俺がなんとかしてやるから、安心しろ。
なんだかそう言ってくれているような気がして。
ゲンキンな私の心は、たちまちいつもの調子を取り戻していた。
恋のパワーには凄まじい威力があるようだ。
意外にも、男らしい窪塚の提案により、今こうして両親の眼前で、とりあえず謝らないことには話を聞いてもらえないだろうということで。
「この度は私の配慮が足りず、鈴さんのご両親には多大なご心配をおかけしてしまい、誠に申し訳ございませんでした」
神妙な面持ちで謝罪してくれている窪塚と、こうして仲良く並んで、一緒に深々と頭を下げているなんて、なんだか夢のようだ。
ーーなんか、本物の恋人同士みたい。夢ならこのまま醒めないで欲しいなぁ。
相も変わらず、非常事態であるというのに、窪塚の隣で頭を下げつつ、未だキュンキュンと胸をときめかせてしまっている。
そんな不謹慎な私の元に、現実を突きつけるようにして、普段は穏やかで優しいはずの父の、これまで一度も耳にしたことがないような、淡々とした冷ややかな声音が轟いた。
「どこの馬の骨とも分からない方に、謝罪されるような謂れはございませんので、どうぞお引き取りください」
そうして私ではなく窪塚に対して、問答無用で突き放すようにしてピシャリと放たれた拒絶の言葉と、端から聞く耳を持とうとしない父の頑なな態度に。
父の怒りが相当なものであることが窺える。
こんなに怒った父を見るのは初めてだ。
どうしたものかと思案してみても、気が急くばかり。
こんな状況で、妙案など浮かぶわけもなく。
これ以上、父のことを刺激しないためにも、私は頭を下げたまま押し黙っていることしかできないでいる。
そこへ今度は、父の傍にいる母の声が割って入ってきた。
どう考えても、無断外泊をした私に非があるのは明白だ。
当然、母は父に加勢するものだと思っていたのだが。
「ちょっと、隼。何もそんな言い方しなくても。鈴ももういい大人なんだし。兎に角ちゃんと話だけでも聞いてあげましょうよ?」
どうやら、極度の心配性の父とは違いない、こういうことにも理解のあるらしい母は、父のことを宥めようとしてくれているようだ。
ーー父は母には弱いから、これで少しは怒りも鎮まってくれるはず。
そんな期待を込めて、両親の様子を静かに窺っていたのだけれど。
「いくつになっても、僕たちの可愛い子供であることには変わりないよ。それに、鈴は女の子なんだ。間違いがあってからじゃ取り返しがつかないだろう?」
私の期待も虚しく、頼みの綱だった母の言葉にも、頑として耳を貸そうともしない父に向けて、母は至極呆れたように、これみよがしに、ふうと大きな溜息をついた。
続いて、ここぞという時に見せる、ツンと澄ました表情を浮かべると、これまたツンとした声を放った。
「一人娘の鈴のことが心配なのはわかるけど。ほどほどにしとかないと、もうずーっと口きいてくれないままでもいいの? 私に似て、鈴は頑固なんだから。そのうち戸籍まで抜いて、勝手に婚姻届出されちゃっても知らないからッ」
これでもかというように、父の不安を煽るようなことをわざと言ってのけた。
途端に、顔を青ざめオロオロした様子で気遣わしげに、母と私の様子とを交互に見比べるようにして視線を往復させている父に、最後の仕上げとばかりに、
「隼。ふたりの話、ちゃんと聞いてあげるわよね?」
強い口調で畳み掛けた、揺るぎない母の言葉のお陰で、父が間髪入れずに、
「も、勿論だよ」
と即答してくれたことにより、なんとか話を聞いてもらえることになっている。
こんなところで立ち話もなんだからと言ってくれた母の気遣いにより、コインパーキングから伯父の家の客間へと場所を移したのだった。
そうしてなんとか名刺交換と挨拶も終えた現在、私と窪塚は、今まさに両親というか父と真っ向から対峙しているところだ。
けれども、父に納得してもらえる保証なんてどこにもない。
そうなれば、私はお見合いさせられてしまうかもしれないし、窪塚とももうこんな風に逢えなくなってしまうだろう。
さっきのオロオロした姿が嘘だったかのように、険しい表情を浮かべてこちらをジッと見据えたままでいる父を前に、不安がムクムクと膨れ上がっていく。
どうにか不安に押し潰されないためにも、膝の上で作った拳にぎゅっと力を込めてやり過ごそうとしていた私の拳は、いつしか隣の窪塚の大きくてあたたかな手により力強く包み込まれていた。
一瞬、両親に気づかれやしないかと肝を冷やしかけたけれど、座卓の下なので、気づかれる心配はなさそうだ。
窪塚にどんな意図があるかは不明だが。
ーーそんなに心配しなくても、俺がなんとかしてやるから、安心しろ。
なんだかそう言ってくれているような気がして。
ゲンキンな私の心は、たちまちいつもの調子を取り戻していた。
恋のパワーには凄まじい威力があるようだ。
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