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#7 寝ても醒めても
#8
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慌てて窪塚を見やるとメチャメチャ怖い顔をしている。
こんなに怒った窪塚を見るのは初めてかもしれない。
確かに、しらばっくれてばかりの羽田にはメチャクチャ腹立つけど、まさか、殴ったりしないよね?
とは思いながらも、羽田の態度がカンにでも障ったのか、本気で怒っているらしい窪塚のあまりの気迫に圧倒されて、私は、その場に立ち尽くしたまま動くことができずにいる。
内心オロオロしていると、窪塚が羽田の胸ぐらを引っ掴んで自分のほうに引き寄せざまに。
「おいっ! 聞こえなかったのか? 目障りだからとっとと失せろつってんだよッ! それとも、殴られたいのか? おい、どうなんだ?」
「……め、滅相もないです。いろいろとすみませんでしたッ」
心底、忌々しげに吐き捨てた窪塚の言葉に、ようやく羽田が謝罪すると、もう用は済んだとばかりに、窪塚はポイッとゴミでも捨てるようして掴んでいた羽田の胸ぐらから手を離した。
すると唐突に解放されたことにより羽田がふらふらと覚束ない足取りで、自分の車に背を預けるようにぶつかり苦悶の声をあげ、甘い顔には悲痛な色を浮かべている。
窪塚はそれらを完全無視して私の方に向き直ると、さっきのものとは似ても似つかない優しい声音をかけてくれた。
「そんなとこでぼうっと突っ立てねーで行くぞ、ほら」
その声に、突っ立ったままだった私がコクコクと頷いたのを見届けてから、私の手を素早く手に取る。
そしてしっかりと繋ぎあってから、スタスタと歩き始めた窪塚によって連れてこられたのは、約一月ぶりに乗ることになった、窪塚の所有する車の助手席だった。
窪塚にされるがままで手を繋ぎ合っていたため、車に乗り込む間際、窪塚の変わり身の早さについていけず未だにポーッとしてしまってた私は、徹夜明けで微かに疲れの色が滲む窪塚と間近で視線を交わすこととなったのだが。
その際に、窪塚の切れ長の双眸が一瞬僅かに見開かれた。
ーーもしかして、メイクがくずれちゃってるとか?
至近距離よりもメイクの心配をしていると、ハッとしたような表情を覗かせた窪塚に、おかしそうに笑ったあとで、いつものように揶揄われてしまうことになり。
「ハハッ。何ぼーっとしてんだよ。もしかして、カッコよく登場してワンコ追い払った俺に見惚れてんのか?」
一瞬、窪塚に対する恋情を勘ぐられたのかと動揺してしまい、私の鼓動がドキンッと大きく跳ね上がった。
お陰で、額には冷や汗まで滲んで、心拍数も爆上がりだ。
けれども、メイクが気にかかったことで、すぐに正気を取り戻し、『これはただいつものように揶揄われているだけだ』ということに気づくことができ、なんとかいつものような返しができたのだった。
「……だ、誰がアンタなんかに。バッカじゃないのッ! フンッ」
少々動揺したものの、いつものように対応できたことに安堵してシートベルトに手を伸ばした私の耳には、ドアを閉める直前、窪塚が力なく笑ってから零した呟き声が流れ込んでくる。
「ハハッ。だよなぁ」
ーーほらね。やっぱり揶揄われただけじゃない。もー吃驚させないでよ!
ようやくホッと胸をなで下ろすことができたのだった。
そうして、運転席の方に回った窪塚が車に乗り込んでエンジンをかけてすぐのことだ。
「……なんか今日、えらくめかし込んでないか?」
窪塚にしては珍しく、言い出しにくそうにではあったものの、そう言って訊ねられてしまい。
まさか、窪塚のために頑張ったおしゃれやメイクのことで、窪塚本人から何かを言われるなんて思ってもみなかったために、私のテンションはたちまち爆上がりだ。
ーー気づいてくれたんだ。どうしよう。メチャクチャ嬉しい!
とはいえ、素直に喜んだりしたら、窪塚のことを好きになっちゃってることに勘づかれてしまうので、ここはぐっと気持ちを抑え込もうとしていたところへ、窪塚から再び声が届くも。
「……大学病院に行くんだもんな。藤堂に逢うかもしれないってことか。なるほどな」
「……」
私の思惑とはまったく違ったものが窪塚の口から出てきたもんだから、本来ならば窪塚への想いに勘づかれずに済んだと喜ぶべきところだが、さっき爆上がりしたばかりのテンションは急降下。
羽田のことでお礼を言う機会を逃しただけでなく、窪塚の言葉に否定も肯定もできずに、私はただただ黙って、車窓の外に視線を固定したままやり過ごすことしかできずにいた。
こんなに怒った窪塚を見るのは初めてかもしれない。
確かに、しらばっくれてばかりの羽田にはメチャクチャ腹立つけど、まさか、殴ったりしないよね?
とは思いながらも、羽田の態度がカンにでも障ったのか、本気で怒っているらしい窪塚のあまりの気迫に圧倒されて、私は、その場に立ち尽くしたまま動くことができずにいる。
内心オロオロしていると、窪塚が羽田の胸ぐらを引っ掴んで自分のほうに引き寄せざまに。
「おいっ! 聞こえなかったのか? 目障りだからとっとと失せろつってんだよッ! それとも、殴られたいのか? おい、どうなんだ?」
「……め、滅相もないです。いろいろとすみませんでしたッ」
心底、忌々しげに吐き捨てた窪塚の言葉に、ようやく羽田が謝罪すると、もう用は済んだとばかりに、窪塚はポイッとゴミでも捨てるようして掴んでいた羽田の胸ぐらから手を離した。
すると唐突に解放されたことにより羽田がふらふらと覚束ない足取りで、自分の車に背を預けるようにぶつかり苦悶の声をあげ、甘い顔には悲痛な色を浮かべている。
窪塚はそれらを完全無視して私の方に向き直ると、さっきのものとは似ても似つかない優しい声音をかけてくれた。
「そんなとこでぼうっと突っ立てねーで行くぞ、ほら」
その声に、突っ立ったままだった私がコクコクと頷いたのを見届けてから、私の手を素早く手に取る。
そしてしっかりと繋ぎあってから、スタスタと歩き始めた窪塚によって連れてこられたのは、約一月ぶりに乗ることになった、窪塚の所有する車の助手席だった。
窪塚にされるがままで手を繋ぎ合っていたため、車に乗り込む間際、窪塚の変わり身の早さについていけず未だにポーッとしてしまってた私は、徹夜明けで微かに疲れの色が滲む窪塚と間近で視線を交わすこととなったのだが。
その際に、窪塚の切れ長の双眸が一瞬僅かに見開かれた。
ーーもしかして、メイクがくずれちゃってるとか?
至近距離よりもメイクの心配をしていると、ハッとしたような表情を覗かせた窪塚に、おかしそうに笑ったあとで、いつものように揶揄われてしまうことになり。
「ハハッ。何ぼーっとしてんだよ。もしかして、カッコよく登場してワンコ追い払った俺に見惚れてんのか?」
一瞬、窪塚に対する恋情を勘ぐられたのかと動揺してしまい、私の鼓動がドキンッと大きく跳ね上がった。
お陰で、額には冷や汗まで滲んで、心拍数も爆上がりだ。
けれども、メイクが気にかかったことで、すぐに正気を取り戻し、『これはただいつものように揶揄われているだけだ』ということに気づくことができ、なんとかいつものような返しができたのだった。
「……だ、誰がアンタなんかに。バッカじゃないのッ! フンッ」
少々動揺したものの、いつものように対応できたことに安堵してシートベルトに手を伸ばした私の耳には、ドアを閉める直前、窪塚が力なく笑ってから零した呟き声が流れ込んでくる。
「ハハッ。だよなぁ」
ーーほらね。やっぱり揶揄われただけじゃない。もー吃驚させないでよ!
ようやくホッと胸をなで下ろすことができたのだった。
そうして、運転席の方に回った窪塚が車に乗り込んでエンジンをかけてすぐのことだ。
「……なんか今日、えらくめかし込んでないか?」
窪塚にしては珍しく、言い出しにくそうにではあったものの、そう言って訊ねられてしまい。
まさか、窪塚のために頑張ったおしゃれやメイクのことで、窪塚本人から何かを言われるなんて思ってもみなかったために、私のテンションはたちまち爆上がりだ。
ーー気づいてくれたんだ。どうしよう。メチャクチャ嬉しい!
とはいえ、素直に喜んだりしたら、窪塚のことを好きになっちゃってることに勘づかれてしまうので、ここはぐっと気持ちを抑え込もうとしていたところへ、窪塚から再び声が届くも。
「……大学病院に行くんだもんな。藤堂に逢うかもしれないってことか。なるほどな」
「……」
私の思惑とはまったく違ったものが窪塚の口から出てきたもんだから、本来ならば窪塚への想いに勘づかれずに済んだと喜ぶべきところだが、さっき爆上がりしたばかりのテンションは急降下。
羽田のことでお礼を言う機会を逃しただけでなく、窪塚の言葉に否定も肯定もできずに、私はただただ黙って、車窓の外に視線を固定したままやり過ごすことしかできずにいた。
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