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#7 寝ても醒めても

#2

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 窪塚と初デートした日からもうそろそろ一月を迎えようとしている。

 けれど、あれ以来二度ほど、仮眠室での情事を重ねただけで、窪塚とはそれきりまともに逢えていないから余計だ。

 専攻医である私も窪塚も、日々の慌ただしい業務と専門医になるための勉強に励んでいるからというのは勿論のこと。

 窪塚に至っては、上級医である樹先生が珍しい症例の新たな術式についての研究結果を近々学会で発表するにあたり、データをまとめたりといった論文の手伝いもあるとかで。

 かれこれニ週間あまり、逢う時間もままならないという状況が続いている。

 普通のカレカノなら、逢えない間、電話やメールのやり取りでのコミュニケーションという手段もあるだろうが。

 セフレでしかない私たちにはそれがないため、この二週間、ときたま院内でちらっと顔を合わせることはあっても、まともに会話すらできていない。

 表向きにはカレカノではあるものの、実際にはただのセフレなのだから、当然と言えば当然なのだけれど……。

 同じ院内で働いているというのに、窪塚に逢えないことで、余計に想いが募ってしまっている気がする。

 お陰で、院内での移動中なんかに、窪塚と同じロイヤルブルーのスクラブに身を包んでいる男性医師の姿を見かけるたびに、知らず知らずのうちに視線で追ってしまっていたりして。

 それを彩に、ここぞとばかりに鋭く指摘されてしまうという有様だった。

『なになに? もしかして、窪塚だと思っちゃった?』
『べ、別に。たまたま見てただけだしッ』
『へぇ、たまたまね~』
『そう。たまたまだから』

 だからといって、素直にそれを認められるほど、可愛げのある性格なんて持ち合わせていないため、毎回毎回、飽きることなく速攻で跳ね返してしまうのだが。

『もー、鈴ってば。ホントに素直じゃないんだからぁ。でも、そんな鈴がまさか、窪塚のためにおしゃれに気を配ったり、私にメイクを教えてほしいなんて言ってくる日が来るなんて。もうほんっとーに吃驚だったんだからぁ』

 仕事もプライベートも何もかもを知り尽くしている、自他共に認める親友である彩にかかれば、私なんてほんの数秒で戦意喪失状態にまで追い込まれてしまい。

 窪塚を振り向かせるためにも、まずは皆無に等しい女子力をなんとかしなくてはと一念発起。

 彩のことを頼ってしまったことを今更ながらに後悔したってもう後の祭りだ。

 こういうときには毎回決まって、ところ構わず、真っ赤になって大慌てで彩の口を塞ぐという、わかりやすすぎる狼狽えぶりを披露してしまっていた。

『////ーーも、もーッ! 彩ってばッ。声が大きいんだってばぁ!』
『ちょっ、んッんん~~ッ!?』

 その光景をすれ違う職員らに生温かな視線でチラチラと盗み見られるという、なんとも恥ずかしい場面を幾度となく、やり過ごしていたのだった。

 それもこれも、窪塚のことを好きだという想いに突き動かされてしまっているせいだ。

 これまで勉強と仕事のことしか頭になかった自分が、まさか、こんな風に、恋愛事に右往左往する日が来るなんて。

 吃驚だし、二月前には夢にも思っちゃいなかった。

 まったく、人生、いつ何時何があるか分からないものだ。

 でも、窪塚のことを好きだと自覚してからというもの、相変わらず仕事にも勉強にも忙殺されて毎日ヘトヘトだけど。

 ーーどっちも頑張るぞ。やってやるぞ。

 という具合に、前向きに、ヤル気とパワーが漲ってきて、以前とは比べものになんないくらい、仕事でもプライベートでも、とっても充実した日々を送れている気がする。

 なにより驚いたのが、そんな前向きな自分のことをまんざらでもない、むしろ好きだ、と思えるようになれたことだ。

 以前は、影でビッチなんて呼ばれてるにもかかわらず、全然女らしくもなく、可愛げのない自分のことがどうにも好きになれずにいたのが嘘みたいだ。

 恋のパワーは偉大なんだなって、しみじみ想う今日この頃。

 そんな日々を経て、以前、同期の加納に出欠の確認をされた際に、偶然居合わせた窪塚が珍しく参加したいと言いだした、例のセミナーが開催される当日の朝を迎えたのだった。

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