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#6 不埒な純愛
#15
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さっきまでの羞恥なんてどこ吹く風で、胸をキュンキュンとうるさいくらいにときめさせてしまっている。
そんなタイミングで話し終えた窪塚になんでもないように返しつつも、私の頭の中ではある考えが蠢いていた。
そのせいで忘れつつあった羞恥までが呼び起こされ、どうしても顔が熱くなってしまう。
「////……へっ、へぇ、そうなんだ」
羞恥を呼び起こすほどのある考えとは……。
今までそういうことを誰かにされたこともさせたこともないと言った窪塚の言葉に。
ーーだったら、してみたいかも。
というものだ。
ついこの前まで処女だった私とは違って、こういうことに慣れているだろう窪塚にとって、初めての相手が私だったとしたら。
これから先、こういうことをするときとかに、思い出してくれたりするんじゃないのかな?
やっぱり初めての相手っていうのは特別だろうし。
そのときの相手が自分じゃないかもしれないというのは考えたくもないけれど、実際いつまでこんな関係でいられるかなんてわかんない訳だし。
まぁ、偶然だったとはいえ、長年好きだったらしい窪塚に処女をもらってもらった訳だし。
そういう意味では、ラッキーだったのかもしれない。
たとえこの想いが実ることがなくても、そのことは記憶に少しは残っているだろうし。
だったらせめて、ひとつでもいいから窪塚にとっての初めてを共有しておきたいーー。
偶然だったとはいえ、こういう話題になったのも何かの巡り合わせかもしれないし。
だったらなんだって利用しない手はない。
窪塚の言葉をきっかけに、私の心はそんな想いに囚われてしまっていたのだった。
そんな想いに突き動かされた私は、今まさに組み敷いた私の身体に覆い被さるようにしてのしかかってきて、
「さてと、じゃあさっさとしろってせっつかれたことだし、そろそろ再開しますか」
眼前の互いの鼻先が触れ合うすれすれまで迫ってきた窪塚に向けて。
「……さ、さっきのことだけど、どういうもんか、興味があるって言ったらさせてくれる?」
最初こそ言葉がつっかえそうになったものの、なんとかまっすぐに声を放っていた。
窪塚は急にどうしたのかと面食らったような顔をして「……は?」と短い声を放ったまま、私のことを大きく見開いた眼で見下ろしている。
ーーさっきの私みたいだな。
なんてどうでもいいことを思いながら、キョトンとして目を瞬かせている窪塚に向けて、
「だから、どういうものか手で触ってみたいって言ってんのッ!」
今一度大きな声で今度はハッキリと主張してしまっていた。
私の言葉に驚愕の表情を湛えた窪塚は、瞠目した眼を尚もこれでもかというように大きく見開いて、私のことを凝視したまま固まっている。
ーーそんなに可笑しなことだったのかな?
でも、女の私にとっては未知のモノでしかないし、興味が湧くのは自然なことだと思うんだけど。
も、もしかして、処女だってことがバレちゃったのかな?
ーーど、どうしよう。
窪塚のあまりの驚きように、さっきの自分の発言に対して、言いようのない不安が押し寄せてくる。
突然降りてしまった気まずい沈黙に、心臓が嫌な音を立てはじめ、だんだんいたたまれなくなってきた。
ーーやっぱり撤回した方がいいのかな?
そう思いかけていたところに、さっきと同様、驚愕の表情をした窪塚からようやく声が届いて。
「お前、興味があるって。そんな……処女じゃあるまいし……」
ホッしたのも束の間、『処女』という単語が飛び出してきた刹那、ドキンと鼓動が大きく跳ね上がった。
ーーヤバい。やっぱりバレちゃった?
心拍数がいよいよ最高潮に達しかけた頃、今度はなにやら合点がいったとばかりに声を放った窪塚の言葉に、私は安堵することになった。
「あぁ、好きな男には恥ずかしくてそんなこと言えないけど、好きでもなんでもない、むしろ嫌いな俺にはなんの抵抗もなくなんでも言えるってわけか……なるほどな」
ーーよかった。
どうやら窪塚は勘違いしてくれたらしい。
「女って、そういう残酷なとこあるよな……」
けれども、続けざまに放たれたこの言葉に、私は再び疑問を抱えることとなって。
「……え? それってどういう」
「あぁ、いや、別に。なんでもねーよ」
「……そう」
すぐに訊き返したものの、結局は答えてはもらえず終いだった。
妙にひっかかったものの、そのときの窪塚の表情に微かに翳りが見えた気がして、追及することなどできなかったのだ。
だっておそらくそれは、例の幼馴染みに関連することなのだろうから、そっとしておいた方が賢明かな……という考えが咄嗟に脳裏に過ったからでもあった。
そんなこともあって、少々気持ちが沈んでいるところに、私の願いに対しての窪塚からの返答が届いたのだが……。
「けど、それには応えてやれねーわ」
こと情事に関しては意地悪な窪塚だけど、なんやかんや言ってもいつも優しいし、きっと聞き入れてもらえるだろうと思っていたのに、物の見事に当てが外れて、窪塚には拒否られてしまい。
当然、納得のいかない私がすぐに異議を唱えたにもかかわらず。
「ど、どうしてよッ?」
「どうしてって。……俺は、女にあれこれ指図されんのが嫌いなんだよ。女からグイグイこられるのも興醒めっつーか、萎えるっつーか。兎に角、自分のペース乱されんのがどうにも苦手なんだわ。だから応えてやれない」
「そ、そう、なんだ……」
「あぁ、まぁな」
「……ふうん」
もっともらしいことを言ってきた窪塚によって、二度にわたってやんわりとけれどキッパリと断られてしまい。
なにやらうまいこと言って煙にでも巻かれたような心地だ。
なにより、お前はただのセフレなんだって、お前は幼馴染みの身代わりでしかないんだって、きっちりと線引されたような、そんな気がした。
そんなタイミングで話し終えた窪塚になんでもないように返しつつも、私の頭の中ではある考えが蠢いていた。
そのせいで忘れつつあった羞恥までが呼び起こされ、どうしても顔が熱くなってしまう。
「////……へっ、へぇ、そうなんだ」
羞恥を呼び起こすほどのある考えとは……。
今までそういうことを誰かにされたこともさせたこともないと言った窪塚の言葉に。
ーーだったら、してみたいかも。
というものだ。
ついこの前まで処女だった私とは違って、こういうことに慣れているだろう窪塚にとって、初めての相手が私だったとしたら。
これから先、こういうことをするときとかに、思い出してくれたりするんじゃないのかな?
やっぱり初めての相手っていうのは特別だろうし。
そのときの相手が自分じゃないかもしれないというのは考えたくもないけれど、実際いつまでこんな関係でいられるかなんてわかんない訳だし。
まぁ、偶然だったとはいえ、長年好きだったらしい窪塚に処女をもらってもらった訳だし。
そういう意味では、ラッキーだったのかもしれない。
たとえこの想いが実ることがなくても、そのことは記憶に少しは残っているだろうし。
だったらせめて、ひとつでもいいから窪塚にとっての初めてを共有しておきたいーー。
偶然だったとはいえ、こういう話題になったのも何かの巡り合わせかもしれないし。
だったらなんだって利用しない手はない。
窪塚の言葉をきっかけに、私の心はそんな想いに囚われてしまっていたのだった。
そんな想いに突き動かされた私は、今まさに組み敷いた私の身体に覆い被さるようにしてのしかかってきて、
「さてと、じゃあさっさとしろってせっつかれたことだし、そろそろ再開しますか」
眼前の互いの鼻先が触れ合うすれすれまで迫ってきた窪塚に向けて。
「……さ、さっきのことだけど、どういうもんか、興味があるって言ったらさせてくれる?」
最初こそ言葉がつっかえそうになったものの、なんとかまっすぐに声を放っていた。
窪塚は急にどうしたのかと面食らったような顔をして「……は?」と短い声を放ったまま、私のことを大きく見開いた眼で見下ろしている。
ーーさっきの私みたいだな。
なんてどうでもいいことを思いながら、キョトンとして目を瞬かせている窪塚に向けて、
「だから、どういうものか手で触ってみたいって言ってんのッ!」
今一度大きな声で今度はハッキリと主張してしまっていた。
私の言葉に驚愕の表情を湛えた窪塚は、瞠目した眼を尚もこれでもかというように大きく見開いて、私のことを凝視したまま固まっている。
ーーそんなに可笑しなことだったのかな?
でも、女の私にとっては未知のモノでしかないし、興味が湧くのは自然なことだと思うんだけど。
も、もしかして、処女だってことがバレちゃったのかな?
ーーど、どうしよう。
窪塚のあまりの驚きように、さっきの自分の発言に対して、言いようのない不安が押し寄せてくる。
突然降りてしまった気まずい沈黙に、心臓が嫌な音を立てはじめ、だんだんいたたまれなくなってきた。
ーーやっぱり撤回した方がいいのかな?
そう思いかけていたところに、さっきと同様、驚愕の表情をした窪塚からようやく声が届いて。
「お前、興味があるって。そんな……処女じゃあるまいし……」
ホッしたのも束の間、『処女』という単語が飛び出してきた刹那、ドキンと鼓動が大きく跳ね上がった。
ーーヤバい。やっぱりバレちゃった?
心拍数がいよいよ最高潮に達しかけた頃、今度はなにやら合点がいったとばかりに声を放った窪塚の言葉に、私は安堵することになった。
「あぁ、好きな男には恥ずかしくてそんなこと言えないけど、好きでもなんでもない、むしろ嫌いな俺にはなんの抵抗もなくなんでも言えるってわけか……なるほどな」
ーーよかった。
どうやら窪塚は勘違いしてくれたらしい。
「女って、そういう残酷なとこあるよな……」
けれども、続けざまに放たれたこの言葉に、私は再び疑問を抱えることとなって。
「……え? それってどういう」
「あぁ、いや、別に。なんでもねーよ」
「……そう」
すぐに訊き返したものの、結局は答えてはもらえず終いだった。
妙にひっかかったものの、そのときの窪塚の表情に微かに翳りが見えた気がして、追及することなどできなかったのだ。
だっておそらくそれは、例の幼馴染みに関連することなのだろうから、そっとしておいた方が賢明かな……という考えが咄嗟に脳裏に過ったからでもあった。
そんなこともあって、少々気持ちが沈んでいるところに、私の願いに対しての窪塚からの返答が届いたのだが……。
「けど、それには応えてやれねーわ」
こと情事に関しては意地悪な窪塚だけど、なんやかんや言ってもいつも優しいし、きっと聞き入れてもらえるだろうと思っていたのに、物の見事に当てが外れて、窪塚には拒否られてしまい。
当然、納得のいかない私がすぐに異議を唱えたにもかかわらず。
「ど、どうしてよッ?」
「どうしてって。……俺は、女にあれこれ指図されんのが嫌いなんだよ。女からグイグイこられるのも興醒めっつーか、萎えるっつーか。兎に角、自分のペース乱されんのがどうにも苦手なんだわ。だから応えてやれない」
「そ、そう、なんだ……」
「あぁ、まぁな」
「……ふうん」
もっともらしいことを言ってきた窪塚によって、二度にわたってやんわりとけれどキッパリと断られてしまい。
なにやらうまいこと言って煙にでも巻かれたような心地だ。
なにより、お前はただのセフレなんだって、お前は幼馴染みの身代わりでしかないんだって、きっちりと線引されたような、そんな気がした。
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