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#5 予期せぬ事態

#2

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 見慣れた職員専用の通用口を抜け、正面に病院の裏側に面した駐車場が現れたところで背後から声をかけられた。

「高梨ー!」

 その声に振り返れば、軽く手を掲げてから、こちらへ駆け寄ってくる同期の加納の姿が見て取れる。

 そんなに走らなくてもいいのに。

 そう思いつつ立ち止まっている私のすぐ傍まで来ると、微かに息を弾ませた加納が私の顔を目にした途端、えらく驚いた様子で瞠目したまま、全ての動きを停止してしまっている。

 おそらく、普段はノーメイク同然なので、彩仕様のバッチリメイク顔の私に違和感しかないのだろう。

 加納の様子に、なんとも言えない気恥ずかしさと、居心地の悪さを覚えた。

 今一度、彩仕様の自分の姿を思い返してみる。

 彩の解説によると。

 睫毛はクルンとカールにマスカラでボリュームを出し、アイラインを引いて、パッチリ黒目がちの印象的な目元に。

 煌めくパールが効いたアイシャドウと、頬に丸くのせたほんのりピンクのチークで、キュートに。

 唇には、艷やかなシャイニーローズのグロスで瑞々しく、思わずキスしたくなるように。

 真っ黒なストレートの髪に至っては、女性らしく柔らかな雰囲気を演出するためにといって、ご丁寧にもヘアアイロンでゆるふわパーマ風のアレンジまでなされている。

 彩には悪いけど、こんなことになるなら、メイクを落としてくれば良かった。

 なんだかいたたまれなくなってきて、気まずい雰囲気をなんとか払拭しようと。

 わざとおどけた声を出し、笑いで誤魔化して、それとなく話題を変えようと思っていたのだが。

「あっ、これね。彩がちょっとふざけただけなの。やっぱ、七五三にしか見えないよね? なんか、ごめんね。仕事で疲れたところに変なモノ見せちゃって」

「……あ、否、とっても似合ってるよ。見違えた」

「ハハッ、加納ってば、そんなに気遣うことないのに」

「いやいや、本当に。あんまり綺麗だったから、思わず見惚れて……。あっ、ごめん。今のセクハラだよね? ほんとごめん」

「……やだなぁ、セクハラだなんて。はははっ」

 穏やかな性格でいつも落ち着いているはずの加納が見るからに、いつになくテンパっていて。

 ひどく焦ったように、額にはタラタラと汗まで滲ませ、メガネを薄っすらと曇らせてしまっている。

 いつもスッピンに近い私がバッチリメイクなんかしてたもんだから、驚いてマジマジと見てしまったために、なんとかフォローしようとしてくれているんだろう、ことは分かるんだけど……。

 今の今まで、誰かに面と向かって『綺麗』だなんて言われた経験もなく。

 ましてや、真面目な加納が相手なだけに、こういう時、どういう反応を示せば正解かがまったく分からない。

 普段、仕事のことで話すことはあっても、加納とこんな話しなんてしたことがなかったから余計だ。

 ーーさて、どうしたものか。

 加納と向き合ったまま、互いに愛想笑いを浮かべつつ、頭の後ろを手で掻きながら次の一手を探っている時だった。

 背後からつかつかと誰かが足早に歩み寄ってくる足音が耳に届いて、誰だろうと横目に確認しようと思った時には、背後から、グインッと強い力で肩を抱き寄せられてしまってて。

 何がなにやら状況を把握できないでいる私の眼前の加納の表情から、どうしたことか、さっきまでの焦りの色が瞬く間に消え失せ、驚愕の表情へと変貌し、それがみるみる怯えたようなものになっていく。そこへ。

「珍しい組み合わせだな。で、ふたりで仲良く何を話してたんだ」

 仕事あがりで疲れてでもいるのか、窪塚の途轍もなく不機嫌そうな低い声音が轟いた。

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