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#2 不埒な攻防戦
#6
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この前といい、今といい、これまでの言動から、相当遊びまくっているのだろう窪塚にとって、処女に手を出してしまったことがショックだったのか、それとも責任でも感じてしまっていたのか。
私の言葉を聞いた途端、窪塚はえらく安堵したような表情を浮かべて胸まで撫で下ろしている。
信じてもらえたようでホッとはしたが、なんとも複雑な心境だ。
そんな心持ちで窪塚のことを見やっていると。今度は、何やら面白くなさそうな声音で、問いかけるでもなく独り言ちるようにして。
「……なら、やっぱり、相手は医大の同期の藤堂ってとこか」
窪塚が口にした名前に、私の心臓がドックンと一際大きな音を奏でた。
藤堂とは、同じ医大の同期で、現在は大学病院で窪塚と同じ脳神経外科の外科医として勤務している、藤堂渉のことで、私にとっては医大生の頃の元カレだった人物だ。
藤堂は窪塚と常にトップ争いをしていたほどの成績優秀者で、これはあくまでも私の主観だけれど、一匹狼の如く周りと必要以上に群れることを嫌っていた窪塚とは違い、藤堂は面倒見も良く、気さくで明るい性格だったことから、男女関係なく友人も多く、同期の中ではリーダー的存在だった。
当時、私が試験前になると藤堂によく勉強を見てもらっていたこともあって、周りの友人たちから、
『お前ら仲もいいしお似合いだから付き合っちゃえば?』
なんて言われたのをきっかけに、お互い好きな相手も居なかったことから、
『お試しで付き合ってみる?』
そう藤堂に言われて付き合い始めたのだが。
結局、半年という短い交際期間を経ても、友人以上にはなれず終いで、キス以上のことは何もなく、清い交際だった。
まぁ、それも、窪塚の言葉を肯定するようであまり認めたくはないが、カッとなってすぐに手を出すような私には女としての魅力なんてなかったからだろう。
実は、この前のプチ同窓会を企画したのも、幹事をしていたのも藤堂だ。
けれどもう六年も前の昔のことだし、今更逢ったからって、仲のいい友人と大差なく、特に何も感じなかった。
ただ、藤堂の名前を出されると、女として見てもらえなかったことで結構凹んだ当時のことが思い出されて気分が沈む。
ちょっとした黒歴史みたいなモノとでもいようか。まぁ、そんなとこだ。
そんなこともあり、恋愛ごとから避けてきたところもあった。
でも実際には、そんなものよりも――外科医になりたい、という幼い頃からの夢を叶えることのほうが、私にとっては、何よりも大事だったからだ。
同じ医大の同期であるとはいえ、窪塚がそんな昔のことを覚えていたことには少々驚いたけれど、藤堂とのことで、窪塚にどうこう言われる謂れはない。
「何よ? だったらどうだっていうのよ? あんたには関係ないことでしょッ! フンッ!」
「否、どうこうというより、ようやく合点がいった。藤堂のことを未だに未練がましく想ってるから、この前、失恋したてだった俺に高梨が同情したってのがよーく分かった」
窪塚の口ぶりからして、これまでの失礼な言動のあれこれがどうやらカマをかけられていたようだというのが窺えて、腹立たしいはずなのに。
それなのに、窪塚から『失恋』なんていう意外な単語が出てきたものだから、腹立たしさなんてどこかに霧散してしまい、驚くと同時に、『同情』なんてした覚えもなく、再び頭の中が疑問符ばかりで埋め尽くされていく。
何度記憶を辿ってみても、窪塚から飛び出してきた単語はどれもこれも、私の頭の中で組み込まれた未完成のパズルには、うまく嵌まらない。
「ねぇ? ちょっと、窪塚。私が失恋したてのあんたに同情したってどういうことよ?」
「さっきも覚えてないようだったし。もしかして、この前のことほとんど覚えてないのか?」
「……うっ」
「やっぱり、図星のようだな。あぁ、まぁ、相当酔ってたしなぁ。敵視してた俺に仕事や家族の愚痴言って絡んでくることからして、高梨にとったらあり得ないわなぁ」
「……」
私、窪塚に自分から絡んで、仕事や家族のことまで愚痴ったりしたんだ。
挙げ句、窪塚に処女まで捧げてしまったなんて……。
私ってば、いくら酔ってたからって何やっちゃってんの? 信じらんない――。
私の言葉を聞いた途端、窪塚はえらく安堵したような表情を浮かべて胸まで撫で下ろしている。
信じてもらえたようでホッとはしたが、なんとも複雑な心境だ。
そんな心持ちで窪塚のことを見やっていると。今度は、何やら面白くなさそうな声音で、問いかけるでもなく独り言ちるようにして。
「……なら、やっぱり、相手は医大の同期の藤堂ってとこか」
窪塚が口にした名前に、私の心臓がドックンと一際大きな音を奏でた。
藤堂とは、同じ医大の同期で、現在は大学病院で窪塚と同じ脳神経外科の外科医として勤務している、藤堂渉のことで、私にとっては医大生の頃の元カレだった人物だ。
藤堂は窪塚と常にトップ争いをしていたほどの成績優秀者で、これはあくまでも私の主観だけれど、一匹狼の如く周りと必要以上に群れることを嫌っていた窪塚とは違い、藤堂は面倒見も良く、気さくで明るい性格だったことから、男女関係なく友人も多く、同期の中ではリーダー的存在だった。
当時、私が試験前になると藤堂によく勉強を見てもらっていたこともあって、周りの友人たちから、
『お前ら仲もいいしお似合いだから付き合っちゃえば?』
なんて言われたのをきっかけに、お互い好きな相手も居なかったことから、
『お試しで付き合ってみる?』
そう藤堂に言われて付き合い始めたのだが。
結局、半年という短い交際期間を経ても、友人以上にはなれず終いで、キス以上のことは何もなく、清い交際だった。
まぁ、それも、窪塚の言葉を肯定するようであまり認めたくはないが、カッとなってすぐに手を出すような私には女としての魅力なんてなかったからだろう。
実は、この前のプチ同窓会を企画したのも、幹事をしていたのも藤堂だ。
けれどもう六年も前の昔のことだし、今更逢ったからって、仲のいい友人と大差なく、特に何も感じなかった。
ただ、藤堂の名前を出されると、女として見てもらえなかったことで結構凹んだ当時のことが思い出されて気分が沈む。
ちょっとした黒歴史みたいなモノとでもいようか。まぁ、そんなとこだ。
そんなこともあり、恋愛ごとから避けてきたところもあった。
でも実際には、そんなものよりも――外科医になりたい、という幼い頃からの夢を叶えることのほうが、私にとっては、何よりも大事だったからだ。
同じ医大の同期であるとはいえ、窪塚がそんな昔のことを覚えていたことには少々驚いたけれど、藤堂とのことで、窪塚にどうこう言われる謂れはない。
「何よ? だったらどうだっていうのよ? あんたには関係ないことでしょッ! フンッ!」
「否、どうこうというより、ようやく合点がいった。藤堂のことを未だに未練がましく想ってるから、この前、失恋したてだった俺に高梨が同情したってのがよーく分かった」
窪塚の口ぶりからして、これまでの失礼な言動のあれこれがどうやらカマをかけられていたようだというのが窺えて、腹立たしいはずなのに。
それなのに、窪塚から『失恋』なんていう意外な単語が出てきたものだから、腹立たしさなんてどこかに霧散してしまい、驚くと同時に、『同情』なんてした覚えもなく、再び頭の中が疑問符ばかりで埋め尽くされていく。
何度記憶を辿ってみても、窪塚から飛び出してきた単語はどれもこれも、私の頭の中で組み込まれた未完成のパズルには、うまく嵌まらない。
「ねぇ? ちょっと、窪塚。私が失恋したてのあんたに同情したってどういうことよ?」
「さっきも覚えてないようだったし。もしかして、この前のことほとんど覚えてないのか?」
「……うっ」
「やっぱり、図星のようだな。あぁ、まぁ、相当酔ってたしなぁ。敵視してた俺に仕事や家族の愚痴言って絡んでくることからして、高梨にとったらあり得ないわなぁ」
「……」
私、窪塚に自分から絡んで、仕事や家族のことまで愚痴ったりしたんだ。
挙げ句、窪塚に処女まで捧げてしまったなんて……。
私ってば、いくら酔ってたからって何やっちゃってんの? 信じらんない――。
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