13 / 109
#2 不埒な攻防戦
#6
しおりを挟む
この前といい、今といい、これまでの言動から、相当遊びまくっているのだろう窪塚にとって、処女に手を出してしまったことがショックだったのか、それとも責任でも感じてしまっていたのか。
私の言葉を聞いた途端、窪塚はえらく安堵したような表情を浮かべて胸まで撫で下ろしている。
信じてもらえたようでホッとはしたが、なんとも複雑な心境だ。
そんな心持ちで窪塚のことを見やっていると。今度は、何やら面白くなさそうな声音で、問いかけるでもなく独り言ちるようにして。
「……なら、やっぱり、相手は医大の同期の藤堂ってとこか」
窪塚が口にした名前に、私の心臓がドックンと一際大きな音を奏でた。
藤堂とは、同じ医大の同期で、現在は大学病院で窪塚と同じ脳神経外科の外科医として勤務している、藤堂渉のことで、私にとっては医大生の頃の元カレだった人物だ。
藤堂は窪塚と常にトップ争いをしていたほどの成績優秀者で、これはあくまでも私の主観だけれど、一匹狼の如く周りと必要以上に群れることを嫌っていた窪塚とは違い、藤堂は面倒見も良く、気さくで明るい性格だったことから、男女関係なく友人も多く、同期の中ではリーダー的存在だった。
当時、私が試験前になると藤堂によく勉強を見てもらっていたこともあって、周りの友人たちから、
『お前ら仲もいいしお似合いだから付き合っちゃえば?』
なんて言われたのをきっかけに、お互い好きな相手も居なかったことから、
『お試しで付き合ってみる?』
そう藤堂に言われて付き合い始めたのだが。
結局、半年という短い交際期間を経ても、友人以上にはなれず終いで、キス以上のことは何もなく、清い交際だった。
まぁ、それも、窪塚の言葉を肯定するようであまり認めたくはないが、カッとなってすぐに手を出すような私には女としての魅力なんてなかったからだろう。
実は、この前のプチ同窓会を企画したのも、幹事をしていたのも藤堂だ。
けれどもう六年も前の昔のことだし、今更逢ったからって、仲のいい友人と大差なく、特に何も感じなかった。
ただ、藤堂の名前を出されると、女として見てもらえなかったことで結構凹んだ当時のことが思い出されて気分が沈む。
ちょっとした黒歴史みたいなモノとでもいようか。まぁ、そんなとこだ。
そんなこともあり、恋愛ごとから避けてきたところもあった。
でも実際には、そんなものよりも――外科医になりたい、という幼い頃からの夢を叶えることのほうが、私にとっては、何よりも大事だったからだ。
同じ医大の同期であるとはいえ、窪塚がそんな昔のことを覚えていたことには少々驚いたけれど、藤堂とのことで、窪塚にどうこう言われる謂れはない。
「何よ? だったらどうだっていうのよ? あんたには関係ないことでしょッ! フンッ!」
「否、どうこうというより、ようやく合点がいった。藤堂のことを未だに未練がましく想ってるから、この前、失恋したてだった俺に高梨が同情したってのがよーく分かった」
窪塚の口ぶりからして、これまでの失礼な言動のあれこれがどうやらカマをかけられていたようだというのが窺えて、腹立たしいはずなのに。
それなのに、窪塚から『失恋』なんていう意外な単語が出てきたものだから、腹立たしさなんてどこかに霧散してしまい、驚くと同時に、『同情』なんてした覚えもなく、再び頭の中が疑問符ばかりで埋め尽くされていく。
何度記憶を辿ってみても、窪塚から飛び出してきた単語はどれもこれも、私の頭の中で組み込まれた未完成のパズルには、うまく嵌まらない。
「ねぇ? ちょっと、窪塚。私が失恋したてのあんたに同情したってどういうことよ?」
「さっきも覚えてないようだったし。もしかして、この前のことほとんど覚えてないのか?」
「……うっ」
「やっぱり、図星のようだな。あぁ、まぁ、相当酔ってたしなぁ。敵視してた俺に仕事や家族の愚痴言って絡んでくることからして、高梨にとったらあり得ないわなぁ」
「……」
私、窪塚に自分から絡んで、仕事や家族のことまで愚痴ったりしたんだ。
挙げ句、窪塚に処女まで捧げてしまったなんて……。
私ってば、いくら酔ってたからって何やっちゃってんの? 信じらんない――。
私の言葉を聞いた途端、窪塚はえらく安堵したような表情を浮かべて胸まで撫で下ろしている。
信じてもらえたようでホッとはしたが、なんとも複雑な心境だ。
そんな心持ちで窪塚のことを見やっていると。今度は、何やら面白くなさそうな声音で、問いかけるでもなく独り言ちるようにして。
「……なら、やっぱり、相手は医大の同期の藤堂ってとこか」
窪塚が口にした名前に、私の心臓がドックンと一際大きな音を奏でた。
藤堂とは、同じ医大の同期で、現在は大学病院で窪塚と同じ脳神経外科の外科医として勤務している、藤堂渉のことで、私にとっては医大生の頃の元カレだった人物だ。
藤堂は窪塚と常にトップ争いをしていたほどの成績優秀者で、これはあくまでも私の主観だけれど、一匹狼の如く周りと必要以上に群れることを嫌っていた窪塚とは違い、藤堂は面倒見も良く、気さくで明るい性格だったことから、男女関係なく友人も多く、同期の中ではリーダー的存在だった。
当時、私が試験前になると藤堂によく勉強を見てもらっていたこともあって、周りの友人たちから、
『お前ら仲もいいしお似合いだから付き合っちゃえば?』
なんて言われたのをきっかけに、お互い好きな相手も居なかったことから、
『お試しで付き合ってみる?』
そう藤堂に言われて付き合い始めたのだが。
結局、半年という短い交際期間を経ても、友人以上にはなれず終いで、キス以上のことは何もなく、清い交際だった。
まぁ、それも、窪塚の言葉を肯定するようであまり認めたくはないが、カッとなってすぐに手を出すような私には女としての魅力なんてなかったからだろう。
実は、この前のプチ同窓会を企画したのも、幹事をしていたのも藤堂だ。
けれどもう六年も前の昔のことだし、今更逢ったからって、仲のいい友人と大差なく、特に何も感じなかった。
ただ、藤堂の名前を出されると、女として見てもらえなかったことで結構凹んだ当時のことが思い出されて気分が沈む。
ちょっとした黒歴史みたいなモノとでもいようか。まぁ、そんなとこだ。
そんなこともあり、恋愛ごとから避けてきたところもあった。
でも実際には、そんなものよりも――外科医になりたい、という幼い頃からの夢を叶えることのほうが、私にとっては、何よりも大事だったからだ。
同じ医大の同期であるとはいえ、窪塚がそんな昔のことを覚えていたことには少々驚いたけれど、藤堂とのことで、窪塚にどうこう言われる謂れはない。
「何よ? だったらどうだっていうのよ? あんたには関係ないことでしょッ! フンッ!」
「否、どうこうというより、ようやく合点がいった。藤堂のことを未だに未練がましく想ってるから、この前、失恋したてだった俺に高梨が同情したってのがよーく分かった」
窪塚の口ぶりからして、これまでの失礼な言動のあれこれがどうやらカマをかけられていたようだというのが窺えて、腹立たしいはずなのに。
それなのに、窪塚から『失恋』なんていう意外な単語が出てきたものだから、腹立たしさなんてどこかに霧散してしまい、驚くと同時に、『同情』なんてした覚えもなく、再び頭の中が疑問符ばかりで埋め尽くされていく。
何度記憶を辿ってみても、窪塚から飛び出してきた単語はどれもこれも、私の頭の中で組み込まれた未完成のパズルには、うまく嵌まらない。
「ねぇ? ちょっと、窪塚。私が失恋したてのあんたに同情したってどういうことよ?」
「さっきも覚えてないようだったし。もしかして、この前のことほとんど覚えてないのか?」
「……うっ」
「やっぱり、図星のようだな。あぁ、まぁ、相当酔ってたしなぁ。敵視してた俺に仕事や家族の愚痴言って絡んでくることからして、高梨にとったらあり得ないわなぁ」
「……」
私、窪塚に自分から絡んで、仕事や家族のことまで愚痴ったりしたんだ。
挙げ句、窪塚に処女まで捧げてしまったなんて……。
私ってば、いくら酔ってたからって何やっちゃってんの? 信じらんない――。
0
お気に入りに追加
313
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
イケメンエリート軍団の籠の中
便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある
IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC”
謎多き噂の飛び交う外資系一流企業
日本内外のイケメンエリートが
集まる男のみの会社
唯一の女子、受付兼秘書係が定年退職となり
女子社員募集要項がネットを賑わした
1名の採用に300人以上が殺到する
松村舞衣(24歳)
友達につき合って応募しただけなのに
何故かその超難関を突破する
凪さん、映司さん、謙人さん、
トオルさん、ジャスティン
イケメンでエリートで華麗なる超一流の人々
でも、なんか、なんだか、息苦しい~~
イケメンエリート軍団の鳥かごの中に
私、飼われてしまったみたい…
「俺がお前に極上の恋愛を教えてやる
他の奴とか? そんなの無視すればいいんだよ」
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
副社長氏の一途な恋~執心が結んだ授かり婚~
真木
恋愛
相原麻衣子は、冷たく見えて情に厚い。彼女がいつも衝突ばかりしている、同期の「副社長氏」反田晃を想っているのは秘密だ。麻衣子はある日、晃と一夜を過ごした後、姿をくらます。数年後、晃はミス・アイハラという女性が小さな男の子の手を引いて暮らしているのを知って……。
【R18】豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網〜策士な後輩から逃げられません!〜
湊未来
恋愛
「ねぇ、本当に陰キャの童貞だって信じてたの?経験豊富なお姉さん………」
30歳の誕生日当日、彼氏に呼び出された先は高級ホテルのレストラン。胸を高鳴らせ向かった先で見たものは、可愛らしいワンピースを着た女と腕を組み、こちらを見据える彼の姿だった。
一方的に別れを告げられ、ヤケ酒目的で向かったBAR。
「ねぇ。酔っちゃったの………
………ふふふ…貴方に酔っちゃったみたい」
一夜のアバンチュールの筈だった。
運命とは時に残酷で甘い………
羊の皮を被った年下オオカミ君×三十路崖っぷち女の恋愛攻防戦。
覗いて行きませんか?
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
・R18の話には※をつけます。
・女性が男性を襲うシーンが初回にあります。苦手な方はご注意を。
・裏テーマは『クズ男愛に目覚める』です。年上の女性に振り回されながら、愛を自覚し、更生するクズ男をゆるっく書けたらいいなぁ〜と。
地味系秘書と氷の副社長は今日も仲良くバトルしてます!
めーぷる
恋愛
見た目はどこにでもいそうな地味系女子の小鳥風音(おどりかざね)が、ようやく就職した会社で何故か社長秘書に大抜擢されてしまう。
秘書検定も持っていない自分がどうしてそんなことに……。
呼び出された社長室では、明るいイケメンチャラ男な御曹司の社長と、ニコリともしない銀縁眼鏡の副社長が風音を待ち構えていた――
地味系女子が色々巻き込まれながら、イケメンと美形とぶつかって仲良くなっていく王道ラブコメなお話になっていく予定です。
ちょっとだけ三角関係もあるかも?
・表紙はかんたん表紙メーカーで作成しています。
・毎日11時に投稿予定です。
・勢いで書いてます。誤字脱字等チェックしてますが、不備があるかもしれません。
・公開済のお話も加筆訂正する場合があります。
冷徹御曹司と極上の一夜に溺れたら愛を孕みました
せいとも
恋愛
旧題:運命の一夜と愛の結晶〜裏切られた絶望がもたらす奇跡〜
神楽坂グループ傘下『田崎ホールディングス』の創業50周年パーティーが開催された。
舞台で挨拶するのは、専務の田崎悠太だ。
専務の秘書で彼女の月島さくらは、会場で挨拶を聞いていた。
そこで、今の瞬間まで彼氏だと思っていた悠太の口から、別の女性との婚約が発表された。
さくらは、訳が分からずショックを受け会場を後にする。
その様子を見ていたのが、神楽坂グループの御曹司で、社長の怜だった。
海外出張から一時帰国して、パーティーに出席していたのだ。
会場から出たさくらを追いかけ、忘れさせてやると一夜の関係をもつ。
一生をさくらと共にしようと考えていた怜と、怜とは一夜の関係だと割り切り前に進むさくらとの、長い長いすれ違いが始まる。
再会の日は……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる