101 / 101
〜エピローグ〜
~エピローグ~
しおりを挟む年が明けて四月吉日。美桜と尊の元に、待ちに待った天使が舞い降りた。
記憶は曖昧だが、尊と出逢ったのも春だったし、尊と思いがけない再会を果たした季節も同じく春だったということで、運命めいたものを感じずにはいられない。
可愛い天使ーー桜は、ソメイヨシノの桜がちらほらと咲き始めた先週、生を受けたばかりだ。
尊の言い聞かせが効いたのかは不明だが、超がつくほどの安産だった。
お陰で美桜も桜の体調も頗る絶好調。
今日は、尊の親代わりである櫂の元に生まれたばかりの我が子のお披露目に伺った、その帰りである。
今日は桜も一緒なので、気を利かせてくれた櫂の計らいにより運転手付きの高級車での移動なのだが……。
天気もいいし、桜が散ってしまう前に花見でもして帰ろうということになって、目黒川沿いの桜を眺めながら親子水入らずで散策を楽しんでいることろだ。
桜はさっきミルクを飲んだばかりのせいか、機嫌良く尊の腕に抱かれている。
ぽかぽか陽気のせいか、今にも眠ってしまいそうなほど円らな瞳をとろんとさせて小さな口をムニャムニャさせている様がなんとも愛らしい。
尊と美桜は川沿いに設置されたベンチに並んで腰掛け、桜がどっちに似ているか論争を繰り広げていた。
「ほっぺたがぷにぷにして可愛いし、目が円らなとこなんか、美桜にそっくりだぞ」
「え? どこがですか? 目とか綺麗だし、鼻筋も通ってるし。手足も長くてバランスのいいとこなんか尊さんにそっくりだと思いますよ」
「桜、違うよな~? ほら見ろ。桜がうんうんって頷いてるじゃないか」
「もうっ、尊さんが腕を動かしたからじゃないですかぁ」
だが決着がつかず、ふたりでいつものようにわいわい騒いでイチャついていた。その周辺には、春の柔らかな風に煽られた桜の花弁が、はらりはらり……と降り積む雪のように舞い降りている。
その光景を眺めていると、尊の脳裏に不意に懐かしい光景が蘇ってくる。
***
ちょうど今と同じように天澤家の和風庭園には、ソメイヨシノの桜が咲き誇っていた。
いつもなら幼いながらもしゃんと背筋を正し華道に励んでいるはずの美桜の姿がないことを案じた尊が、離れの縁側で膝を抱えて泣いている美桜を見つけ機嫌をとろうにも、美桜は泣くばかりで一向に泣き止む気配がなかった。
それでもなんとか美桜のことを泣き止ませようと必死だったのを今でも覚えている。
今にして思えばその頃から尊にとって美桜は特別な存在になっていたのだろう。
『メソメソしてたら幸せが逃げてくぞ。だからもう泣くな』
『みお。しあわせなんかじゃないもん。かおるさんもいえもとも、みおのこときらいだもん』
『だったら俺が幸せにしてやる』
『ほんとに?』
『ああ、ほんとうだ。けど、泣いてばかりいるガキは嫌いだ。だからもう泣くな』
『ほんとにほんと? うそじゃない?』
『ハハッ、ガキのクセに疑り深い奴だな』
『だって』
『そんなに言うなら、約束してやる。お前の好きな指切りげんまんだぞ。ほら』
『うん! じゃあ、やくそくね』
『ああ』
『ゆーびきりげーんまん、ゆーびきった!』
『はやっ。いくらなんでも端折りすぎだろ』
『ゆびきりできたらいいんです~ッ!』
ふたりが笑い合っている周りには、はらりはらり……と桜の花弁が絶えず舞い降りていた。
そのうちの一枚が美桜の頭に舞い降りて、それを尊が自身の掌にのせて美桜に差し出してやると。
『わ~、みおのおはなだぁ!』
美桜の顔からは涙はもうすっかり消え去っていて、ぱーっと花が咲いたように笑顔の花を綻ばせた無邪気な美桜の姿に、尊の視線は心ごと惹きつけられていた。今と同じように。
今も昔も変わることなく、互いを想いあい、仲良く寄り添いあって、笑顔の花を綻ばせるふたりの周辺に、はらりはらり……と絶えず降り積む薄桃色の可憐な桜の花弁のように、きっとこれからの未来も、幸福に満たされていることだろう。
~END~
3
お気に入りに追加
377
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
愛のない政略結婚で離婚したはずですが、子供ができた途端溺愛モードで元旦那が迫ってくるんですがなんででしょう?
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「お腹の子も君も僕のものだ。
2度目の離婚はないと思え」
宣利と結婚したのは一年前。
彼の曾祖父が財閥家と姻戚関係になりたいと強引に押したからだった。
父親の経営する会社の建て直しを条件に、結婚を承知した。
かたや元財閥家とはいえ今は経営難で倒産寸前の会社の娘。
かたや世界有数の自動車企業の御曹司。
立場の違いは大きく、宣利は冷たくて結婚を後悔した。
けれどそのうち、厳しいものの誠実な人だと知り、惹かれていく。
しかし曾祖父が死ねば離婚だと言われていたので、感情を隠す。
結婚から一年後。
とうとう曾祖父が亡くなる。
当然、宣利から離婚を切り出された。
未練はあったが困らせるのは嫌で、承知する。
最後に抱きたいと言われ、最初で最後、宣利に身体を預ける。
離婚後、妊娠に気づいた。
それを宣利に知られ、復縁を求められるまではまあいい。
でも、離婚前が嘘みたいに、溺愛してくるのはなんでですか!?
羽島花琳 はじま かりん
26歳
外食産業チェーン『エールダンジュ』グループご令嬢
自身は普通に会社員をしている
明るく朗らか
あまり物事には執着しない
若干(?)天然
×
倉森宣利 くらもり たかとし
32歳
世界有数の自動車企業『TAIGA』グループ御曹司
自身は核企業『TAIGA自動車』専務
冷酷で厳しそうに見られがちだが、誠実な人
心を開いた人間にはとことん甘い顔を見せる
なんで私、子供ができた途端に復縁を迫られてるんですかね……?
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。
私を溺愛してくれたのは同期の御曹司でした
日下奈緒
恋愛
課長としてキャリアを積む恭香。
若い恋人とラブラブだったが、その恋人に捨てられた。
40歳までには結婚したい!
婚活を決意した恭香を口説き始めたのは、同期で仲のいい柊真だった。
今更あいつに口説かれても……
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
初恋は溺愛で。〈一夜だけのはずが、遊び人を卒業して平凡な私と恋をするそうです〉
濘-NEI-
恋愛
友人の授かり婚により、ルームシェアを続けられなくなった香澄は、独りぼっちの寂しさを誤魔化すように一人で食事に行った店で、イケオジと出会って甘い一夜を過ごす。
一晩限りのオトナの夜が忘れならない中、従姉妹のツテで決まった引越し先に、再会するはずもない彼が居て、奇妙な同居が始まる予感!
◆Rシーンには※印
ヒーロー視点には⭐︎印をつけておきます
◎この作品はエブリスタさん、pixivさんでも公開しています
【R18】豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網〜策士な後輩から逃げられません!〜
湊未来
恋愛
「ねぇ、本当に陰キャの童貞だって信じてたの?経験豊富なお姉さん………」
30歳の誕生日当日、彼氏に呼び出された先は高級ホテルのレストラン。胸を高鳴らせ向かった先で見たものは、可愛らしいワンピースを着た女と腕を組み、こちらを見据える彼の姿だった。
一方的に別れを告げられ、ヤケ酒目的で向かったBAR。
「ねぇ。酔っちゃったの………
………ふふふ…貴方に酔っちゃったみたい」
一夜のアバンチュールの筈だった。
運命とは時に残酷で甘い………
羊の皮を被った年下オオカミ君×三十路崖っぷち女の恋愛攻防戦。
覗いて行きませんか?
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
・R18の話には※をつけます。
・女性が男性を襲うシーンが初回にあります。苦手な方はご注意を。
・裏テーマは『クズ男愛に目覚める』です。年上の女性に振り回されながら、愛を自覚し、更生するクズ男をゆるっく書けたらいいなぁ〜と。
甘やかしてあげたい、傷ついたきみを。 〜真実の恋は強引で優しいハイスペックな彼との一夜の過ちからはじまった〜
泉南佳那
恋愛
植田奈月27歳 総務部のマドンナ
×
島内亮介28歳 営業部のエース
******************
繊維メーカーに勤める奈月は、7年間付き合った彼氏に振られたばかり。
亮介は元プロサッカー選手で会社でNo.1のイケメン。
会社の帰り道、自転車にぶつかりそうになり転んでしまった奈月を助けたのは亮介。
彼女を食事に誘い、東京タワーの目の前のラグジュアリーホテルのラウンジへ向かう。
ずっと眠れないと打ち明けた奈月に
「なあ、俺を睡眠薬代わりにしないか?」と誘いかける亮介。
「ぐっすり寝かせてあけるよ、俺が。つらいことなんかなかったと思えるぐらい、頭が真っ白になるまで甘やかして」
そうして、一夜の過ちを犯したふたりは、その後……
******************
クールな遊び人と思いきや、実は超熱血でとっても一途な亮介と、失恋拗らせ女子奈月のじれじれハッピーエンド・ラブストーリー(^▽^)
他サイトで、中短編1位、トレンド1位を獲得した作品です❣️
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
心が暖かくなるお話でした。
一気に読んでしまいました。
他作品も楽しみに読ませていただきます。
たろぽん様
最後までお読みいただき感想までお寄せいただき、他の作品にも興味を持っていただきとっても嬉しいです✨ありがとうございます🌸🌷.*
いただいたお言葉を励みに、未熟ながら少しでも楽しんでもらえるよう頑張りたいと思います。
羽村美海