57 / 101
ヤクザから突然のプロポーズ!?
ヤクザから突然のプロポーズ⁉④
しおりを挟むやがて上映時間となり会場内の照明が落とされ、周囲から見えないのをいいことに、美桜は尊の胸に頬をくっつけ寄り添ったままでいた。
プラネタリウムなのだから星を見るものだと思っていたのだが。
星だけではなく、幻の花と言われている花を探し求めて世界各国を旅するという、花好きの美桜にとって、わくわくドキドキ心躍るテーマだった。
それが幸いし、ここのところ忙しくしていたので、もしかしたら居眠りしてしまうかもしれない、という心配はなさそうだ。
上映と共に暗転した会場の一面がスクリーンのようになり、夜空にキラキラと瞬く星々が映し出された。
ナレーターの穏やかな声と共に場面が切り替わり、あたかも自ら世界各国を旅しているような心地になってくる。
ーーふふっ 、なんだか、新婚旅行みたい。
来週には尊と正式な夫婦となるが、お互いの仕事の都合で新婚旅行の予定などはたっていない。
政略結婚なのだから、それは当然のことなのかもしれない。
でもこうして、わざわざ時間を作って連れ出してくれた。
その気持ちだけでも嬉しいというのに、一緒に寄り添い合っていられるなんて。
ーーなんて幸せなんだろう。こんなにも幸せでいいのかなぁ。
尊の胸に頬を預けたままの美桜がふいに尊の様子を窺うと、日頃の疲れのせいか目を閉ざした尊が微かに船を漕いでいるようだった。
一緒に暮らすようになってちょうど一月にあるが、尊が帰ってくるのは、いつも美桜が就寝した後だというのに、起きるのも早い。
そのため、尊の寝顔などまだ一度も見たことがなかった。
加えて、転た寝するほど疲れているのに、自分のことを色々と気遣ってくれているのだと思うと、堪らない気持ちになってくる。
ーーなんだか子供みたいで可愛いなぁ。
思いがけず、貴重な尊の寝顔を拝むことができた美桜は、この上ない喜びを覚えていた。
それからは、プラネタリウムなどそっちのけで、尊の寝顔ばかり眺めていた。
プラネタリウムの後には、とっぷりと日も暮れ、ネオンが煌めき始めた街並みを車で少し移動して、銀座にある老舗高級ホテルとして名高い『帝都ホテル』の最上階にあるお洒落なレストランへと赴いている。
プラネタリウムで上映されていた夜空を彷彿とさせるような、星空をイメージしているのだという、綺麗なプレートに注がれた旬の野菜で作られたスープを皮切りに、野菜と魚介類のサラダに、山菜や鴨のローストが添えられたパスタに高級黒毛和牛の創作料理、美味しいスイーツなどなど盛りだくさんのコース料理を堪能しているところだ。
これまで厳しく育てられてきた美桜は、当然テーブルマナーなどは既に身についている。
なので、大人の雰囲気溢れる静かな空間に、少々気後れはしても、尊のさりげないサポートもあり、その点においては何の問題もなく、終始落ち着いて食事を楽しむことができていた。
そんな美桜から見ても感心してしまうほど、さすがは今をときめくIT企業の経営者だけあり、尊のテーブルマナーもさり気ない気配りもスマートかつ完璧だ。
立ち居振る舞いは勿論のこと、所作にしても優雅でとても洗練されている。
おそらくここのスタッフも周りの客も誰一人、尊が極道者だなんて思いもしないだろう。
「どうした? 口に合わないか? 」
「とんでもない。どのお料理も芸術品のようでとっても綺麗で、食べてしまうのが勿体なくて」
本当は見惚れていたのと、一緒に居られるのが嬉しくて、胸がいっぱいなだけなのだが。そんなこと言えないし、バレる訳にはいかない。
「ふっ、そんなこと言って眺めてばかりいたら、不味くて食が進まないのかとシェフが勘違いして泣くぞ?」
「そ、それもそうですね」
「ああ。もし酒が飲めるなら、これならアルコール度数もそれほど高くないし飲んでみるといい」
「シャンパン……ですか?」
「いや、スパークリングワインだ」
「じゃあ少しだけ」
さっきまでとは違った緊張感に苛まれつつも食事の合間に尊と談笑を混じえていたのだが、美桜にはもう一つ気になることがあった。
それは、この一月の間、時折ヤスやヒサから聞かされてきた尊の身の上のことだ。
0
お気に入りに追加
380
あなたにおすすめの小説
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
愛し愛され愛を知る。【完】
夏目萌
恋愛
訳あって住む場所も仕事も無い神宮寺 真彩に救いの手を差し伸べたのは、国内で知らない者はいない程の大企業を経営しているインテリヤクザで鬼龍組組長でもある鬼龍 理仁。
住み込み家政婦として高額な月収で雇われた真彩には四歳になる息子の悠真がいる。
悠真と二人で鬼龍組の屋敷に身を置く事になった真彩は毎日懸命に家事をこなし、理仁は勿論、組員たちとの距離を縮めていく。
特に危険もなく、落ち着いた日々を過ごしていた真彩の前に一人の男が現れた事で、真彩は勿論、理仁の生活も一変する。
そして、その男の存在があくまでも雇い主と家政婦という二人の関係を大きく変えていく――。
これは、常に危険と隣り合わせで悲しませる相手を作りたくないと人を愛する事を避けてきた男と、大切なモノを守る為に自らの幸せを後回しにしてきた女が『生涯を共にしたい』と思える相手に出逢い、恋に落ちる物語。
※ あくまでもフィクションですので、その事を踏まえてお読みいただければと思います。設定等合わない場合はごめんなさい。また、実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
家族愛しか向けてくれない初恋の人と同棲します
佐倉響
恋愛
住んでいるアパートが取り壊されることになるが、なかなか次のアパートが見つからない琴子。
何気なく高校まで住んでいた場所に足を運ぶと、初恋の樹にばったりと出会ってしまう。
十年ぶりに会話することになりアパートのことを話すと「私の家に住まないか」と言われる。
未だ妹のように思われていることにチクチクと苦しみつつも、身内が一人もいない上にやつれている樹を放っておけない琴子は同棲することになった。
フェチではなくて愛ゆえに
茜色
恋愛
凪島みなせ(ナギシマ・ミナセ) 26歳
春霞一馬(ハルガスミ・カズマ) 28歳
同じオフィスビルの7階と9階。違う会社で働く男女が、恥ずかしいハプニングが縁で恥ずかしい展開になり、あたふたドキドキする話。
☆全12話です。設定もストーリーも緩くて薄いです。オフィスラブと謳ってますが、仕事のシーンはほぼありません。
☆ムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
二人の甘い夜は終わらない
藤谷藍
恋愛
*この作品の書籍化がアルファポリス社で現在進んでおります。正式に決定しますと6月13日にこの作品をウェブから引き下げとなりますので、よろしくご了承下さい*
年齢=恋人いない歴28年。多忙な花乃は、昔キッパリ振られているのに、初恋の彼がずっと忘れられない。いまだに彼を想い続けているそんな誕生日の夜、彼に面影がそっくりな男性と出会い、夢心地のまま酔った勢いで幸せな一夜を共に––––、なのに、初めての朝チュンでパニックになり、逃げ出してしまった。甘酸っぱい思い出のファーストラブ。幻の夢のようなセカンドラブ。優しい彼には逢うたびに心を持っていかれる。今も昔も、過剰なほど甘やかされるけど、この歳になって相変わらずな子供扱いも! そして極甘で強引な彼のペースに、花乃はみるみる絡め取られて……⁈ ちょっぴり個性派、花乃の初恋胸キュンラブです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる