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鳥籠から出るために

鳥籠から出るために⑭

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 ところどころ不可解な言葉も混ざってはいたが、雰囲気からなんとなく嫌な予感めいたものを感じてしまう。

 美桜の背中をゾクゾクとした感覚が這い上がっていく。

 だがそれらは恐怖心からではない。

 期待感に満ちた身体が武者震いを起こしたのだ。

 尊にメチャクチャに抱いてもらえるかもしれない。

 尊に興味を持ってもらえたことが嬉しいという気持ちだってある。

 そこに不安がないと言えば嘘になる。

 けれどどうしてだろう。

 初対面であるはずの尊に、なぜか懐かしさを覚えてしまったときと同じように、尊にならどうされてもいいとさえ思ってしまっている。

 尊の言葉通り、メチャクチャに抱かれたら、尊に少しでも近づくことができるかもしれない。

 尊のことをもっともっと知りたい。

 そんな想いがどんどん膨らんでいく。

 ーーこれってやっぱり、尊さんのことを……。

 そこまで考えて美桜はそっと心に蓋をする。

 この人は、『飽きるまで傍に置いてください』『お願い、ひとりにしないで』そう言って縋りついた自分の言葉にただ応えてくれているに過ぎない。

 それなのに、こんな感情を抱いてしまったら、辛くなるだけに違いない。

 きっと尊にも煩わしい思いをさせることになる。

 そうなれば、傍になんて置いてなどくれないだろう。

 そう思った途端に、胸がキューッと切ないぐらいに締め付けられる。

 気づけば頬には、生ぬるい雫が流れ落ちる感触がして、それが涙だと認識した刹那。頬に尊の手が差しのべられていた。

 そうっと頬を濡らす涙をなぞるようにして、優しく拭う尊の指の感触が途轍もなく心地いい。

 為す術なくぼんやりと尊のことを見つめていることしかできないでいた。

 そこに無表情を決め込んだ尊が淡々と問い掛けてくる。

「俺の言葉が怖かったからか?」

「違います。尊さんにメチャクチャに抱いてもらえるんだ、って思ったら、勝手に出ちゃーーんんッ!?」

 美桜が最後まで応えきらないうちに、その声は途絶えてしまう。

 いきなり覆い被さってきた尊により、美桜の唇は言葉もろとも噛みつくようにして、強引に奪い去られていたからだ。

 先程までの優しいキスとはまるで違っていた。深くて激しい大人のキス。

 我が物顔で強引に捩じ込んできた舌で驚きを隠せずにいる美桜の舌を搦めとる。

 尊の熱くねっとりとした舌で舌の表面を幾度も擦られたり、強く吸引されるうち、美桜の身体からくたりと力が抜けていく。

 しばらくして、美桜の身体から完全に力が抜けふにゃった頃。ようやくキスから開放された。

 同時に、美桜の身体から離れていく尊に、言いようのない寂しさを覚えてしまう。

 美桜は、それを胸の奥に抑え込み、涙で歪んだ視界に映り込む尊の姿をぼんやりと見遣っていた。

 何度か瞬きしているうち少しずつクリアになっていく視界。

 そこに、たった今、黒いワイシャツを脱ぎ捨てた尊の細身ながらに鍛え上げられた半裸が姿を現した瞬間、瞠目した美桜は思わず息を呑んでしまっていた。

 なぜなら、尊の身体には、極道者の証である、刺青が描かれていたからだ。

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